就活生の7割が既に内定を得たとの報道もありますが、その内定の連絡は企業から電話で来ることもあります。口頭でじかに「内定です」と言われるのはうれしいものですが、電話を切った後、何も手元に残らないため、「本当に喜んでいいのかな」と不安になる人もいることでしょう。こんなとき、文書の内定通知を企業にお願いしてもよいのでしょうか。就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

合意あれば、口頭で契約成立

 内定とは「入社できることを約束しますよ」ということですが、企業にとってはかなり重い約束です。新卒一括採用を基本とする新規学卒者の採用においては、採用内定によって、企業と内定者の間に始期(いつから始めるか)と解約権留保(条件によっては解約できる)を付けた労働契約が成立するものと判例上、確立しているからです。

 つまり、内定を一度出してしまうと、それを取り消すことは法的には労働契約の解約、すなわち、解雇に当たるので「客観的合理性」と「社会的相当性」が双方ともなければ、解約権の乱用として無効となります。要は「企業側からは基本的には取り消せない」ということです。

「基本的に」と書いたのは先述のように一応、「解約権留保」付きとあるからです。これは入社までに「やむをえない事由」が発生した場合には、内定を取り消しできるという条件付きの労働契約ということです。

 やむを得ない事由とは、例えば、成績不良による卒業延期、業務に支障があるほどの著しい健康状態の悪化、経歴詐称など重大な虚偽申告、飲酒運転による死亡事故など重大な事件を起こしたといったケースです。その場合、内定取り消しに合理性・相当性が認められることが多いのですが、逆に言えば、そこまでのことがなければ取り消しはできません。

 労働契約(内定も労働契約)は当事者双方の合意があれば、口頭でも契約が成立します。従って、内定自体を書面で出す法的な義務は企業にはありません。しかし、労働基準法15条(労働条件の明示)で、労働契約をする際に会社が労働者に対して明示すべきことが定められており、これは企業の義務です。

「絶対的明示事項」(必ず明確に伝えるべきこと)として、「労働契約の期間」「就業場所」「業務内容」「始業/終業時刻」「休憩時間」「休日/休暇」「賃金の計算方法/締め日支払日」「解雇を含む退職に関する事項」があり、これをまとめたものが「労働条件通知書」と一般的には言われています。

「口頭の内定」は「就活の建前」ゆえ

 さて、ここまではおかたい法的な話をしてきましたが、法的にはいくら「口頭でも内定成立」といっても、もし、トラブルになった際に裁判をするのは現実的でないため(1社の内定を確認するために他の就活をやめて裁判をすることなど、ほとんどの人は選ばないでしょう)、口頭で内定を伝えられたとき、不安になるのは当然です。

 しかし、企業がなぜ、口頭で内定を伝えるのかといえば、それは「後で取り消す可能性があるから」ではありません。ほとんどの場合、「就活の建前」として、実は今でも「就活ルール」の規定スケジュールがあるからです。

 少し前は企業側が自主規制をしていました。日本の財界総本山である経団連が「採用選考に関する指針」を掲げており、それは「広報解禁日:大学3年次の3月」「選考解禁日:大学4年次の6月」「内定解禁日:大学4年次の10月」というものでした。

 2021年以降、政府が経団連に代わって新たなルール作りを主導することになり、今は経団連主導の就活ルールはありません。ところが政府は「学生が安心して、学業と就活に取り組めることを最優先する」という理由を挙げ、少なくとも2022年卒までは、これまで経団連が定めてきたのと同様の就活ルールが適用されることになり、今に至るということです。

 しかし、皆さんご存じの通り、経団連が自主規制をやめて以来、企業の採用活動は事実上自由化されており、大学3年次への内定出しなども行われています。ただ、先述の「建前」がある以上、規定スケジュールより前に書面等で内定出しをすることに抵抗がある企業も多いというわけです。

 そのため、4年次10月より前に内定を出す場合は「口頭」が多いのです。正式内定は10月になってからですから、それまでは「内々定」(入社内定を出すことを内定する)という不思議な言葉も(昔からですが)あります。

不安なら会社に伝える

 以上が「口頭での内定」が生じる背景ですから、基本的には過剰に不安がる必要はないと思います。しかし、不安なものは仕方ありませんし、一部には、明確な理由なしに内定を取り消す悪質な企業もあるでしょうから(もちろん、そういう会社に入るべきかは疑問ですが)、内定をもらった会社に希望を伝えることは問題ありません。

「内定を証明できるものを提出していただければ(メールも可)、就職活動をやめます」とでも言えば、大切な内定者の依頼なのですから、会社側も何らかの対応をしてくれると思います。もし、不安があるなら、そのように会社に依頼してみてください。