コロナ禍で自宅にいる時間が増え、癒やしを求めて、犬や猫などのペットを新たに飼う人が増えています。一般社団法人ペットフード協会が2020年10月に実施した調査によると、直近1年間に犬や猫を新たに飼い始めた世帯は犬が約39万5000世帯、猫が約38万2000世帯と推計され、2019年の調査と比べて、それぞれ4万1000世帯、5万6000世帯増えたとみられるそうです。

 一方、いざ飼ってみても「世話が大変」といった理由で“飼育放棄”する人がおり、捨てられるペットの数も急増しているとのことです。こうした飼育放棄を防ぐために、ドイツではペットを飼うときに免許制が導入されています。日本でも、ペット飼育の免許制を導入した方がよいのでしょうか。獣医師の増田国充さんに聞きました。

免許制よりモラルを高める必要

Q.日本で、犬や猫などのペットの飼育放棄が後を絶たない理由は何だと思われますか。

増田さん「さまざまな理由があると思いますが、例えば、犬の場合、『子犬から飼う』ことが一般化していることが挙げられると思います。ペットショップでかわいい子犬を見て一目ぼれし、衝動的に家に迎え入れたものの、犬が成長するとともに『こんなはずじゃなかった』と感じ、放棄に至るケースもあると聞きます。猫の場合は、繁殖能力が高いために飼育数が増えて限界となり、飼育崩壊に至るケース、『鳴き声がうるさい』といった近所とのトラブルから手放す事例もあるようです。

飼い主が重病になったり、亡くなったりするなど、やむを得ない事情の場合もありますが、理想と現実のギャップや必要な飼育環境がなかったなど、飼い主の都合による飼育放棄が多いのが現状です」

Q.例えば、日本では2013年に動物愛護法に飼い主の責任として「終生飼養の義務」が明記されましたが、違反時の罰則はなく、努力義務にとどまります。罰則を設けて厳しくした方が、飼育放棄が減るのではないでしょうか。

増田さん「法律で規制を強化することが飼育放棄を減らす最適な方法かどうかは、意見が分かれると思います。ただ、罰則が飼育放棄の抑止力として、期待できる部分はあるかもしれません。本来は罰則で飼育放棄を減らすのではなく、『飼育放棄をしてはいけない』という認識が当たり前のこととして広がることが理想です。ペットの猫や犬は人間に癒やしを与えるためだけのモノでは、決してないのですから。

犬や猫を飼うと、いずれ、彼らが年を取り、病気やけがをして、場合によっては飼い主の生活に負の面が出ると想定しておくことがとても重要だと思います」

Q.ドイツの一部の州では飼育放棄を防ぐために、中型以上の犬の飼育をする際には免許制が導入されているそうです。日本でも、ペット飼育の免許制を導入した方がよいのでしょうか。あるいは、日本では適さないのでしょうか。

増田さん「ペット飼育の免許制の導入は賛否双方の意見があり、十分に議論が必要な段階にあるのではないかと思います。ペットへの愛着が強い人や、飼育放棄されたペットの保護をしている団体は免許制に賛同するかもしれません。一方で、日本は比較的身近にペットを迎え入れる環境が整っています。これは利点と欠点の両方を持ち合わせているのではないかと思います。

仮に免許制にすれば、すでにペットを飼っている人に無条件で免許を与えるのか、そもそも、免許制度をどのように構築するのか、そして、ペット専門店の経営への影響など、さまざまな課題が出てきます。この件で考えるべき重要なことは、より高いモラルをもってペットである犬や猫と接するよう、啓発することではないかと思います」

Q.ドイツのペット免許制では免許取得のために、飼育に必要な知識を学ぶ講習や、しつけや世話、関連法などの学科試験が課されるそうです。ペットを飼うためには、やはり、これくらいのことをしないといけないのでしょうか。

増田さん「犬や猫を飼うことを検討している人は、例えば、自動車運転免許取得の試験のときと同じように、徹底して犬や猫の習性に関する知識を理解し、家に迎え入れてほしいです。中途半端な知識で家に迎え入れた結果、『こんなはずではなかったのに』というギャップが生じ、飼育放棄につながらないようにしなければいけません」

Q.すべての人が犬や猫などのペットを自分の家族だと心から思えるようになるには、どうすればよいのでしょうか。

増田さん「基本中の基本となりますが、動物がその命を終えるまで、責任を持って育てるという原点に立ち返ることでしょう。犬も猫も人間が完全に思いのままにすることはできません。動物自身のけがや病気、さらには人間側の状況の変化など、あらゆる条件を加味した上で、しっかり命を預かるという責任を保ち続けなければなりません。

また、時々、ペットの犬や猫への擬人化が行き過ぎている状況を見聞きすることがあります。愛犬や愛猫に愛情を注ぐことは大変重要なことですが、それが犬や猫にとって望ましいことなのか、逆に苦痛や健康面を脅かすようなものではないのか、『適正飼育』について考えるきっかけになってほしいと思います」