帝国データバンクによると、10月11日現在、新型コロナウイルスの影響を受けた倒産が全国に2179件、法的整理が2020件にのぼったことが明らかになりました。今後、急激な業績悪化により、“従業員削減”を迫られる企業の増加が予想されます。懸念されるのは年末、年度末に向けてのリストラです。

労基署に駆け込むとどうなるか

 過労死、長時間労働、未払い残業代などのブラック企業対策として、「労基署(労働基準監督署)に駆け込む」というものがあります。一般的には「駆け込み寺」として理解されていますが、実際はどうなのでしょうか。

 まず、労基署は労働者の相談を何でも受け付けてくれる「駆け込み寺」ではありません。労基署は行政の組織であり、相談料もかからないので、「とりあえず、労基署に連絡すればどうにかしてくれる」と考えている人がいます。しかし、労基署は労基法に明記されている範囲のことしか対応しません。

 労基法に明記されている範囲とは、採用における労働条件の提示、労働時間の順守、働かせてもいい上限の労働時間と手続き、休日、有給休暇、労災保険、賃金などのことです。これらのことについて、労基署は行政の立場として助言が可能です。

 しかし、労働者個別の事案については労基署が介入できる範囲とは考えられていません。個別の事案とは何でしょうか。大まかに説明すると、解雇の妥当性、パワハラや退職勧奨、嫌がらせ、セクハラ、仕事がつらいからどうにかしてほしい、などです。所管する範囲外の相談には応じることができません。

 では、あなたの抱えている事案が労基法に明記されている範囲に当てはまるなら、すぐに相談に乗ってくれるでしょうか。これも、そう簡単ではありません。さらに、労基署は突然訪問しても相手にされません。事前に管轄の労基署に電話をして、アポを取っておくといいでしょう。

 相談を受け付けてくれたとしても、労働基準監督官にはなかなか接触できません。労働基準監督官には、労働基準関係法令違反事件に対してのみ、司法警察員として、犯罪の捜査と被疑者の逮捕、送検を行う権限があります。しかし、監督を実施するのは事業者全体の3%程度にとどまり、慢性的な人員不足が指摘されています。

労基署が得意とするのは未払い残業

 ただし、労基署が比較的早く動く領域があります。それは未払い残業(時間外労働)です。相談員によって温度差はありますが、タイムカードなどの証拠がそろっていれば有利です。

 労基署の相談員は名前を名乗らないことが多いので、対応した相談員の名前を確実に聞いておきましょう。記録したメモやノートなどは、あっせんや訴訟に移行した際に「労基署で解決できなかった理由」を確認する有効な資料になります。

 次に、あなたが運よく、監督官と面会できた場合のケースも考えてみましょう。おそらく、次のように言われるでしょう。

「会社に連絡を入れます。依頼があった旨を話しますが、よろしいですね?」

 監督官は司法警察権を有していますが、多くの案件が寄せられているので、あなたの案件だけにかかりきりになることはできません。にもかかわらず、司法警察権を持つ労働基準監督官から、あなたの勤務先に連絡が入れば、あなたが労基署に駆け込んだことは社内に知れ渡ることになるでしょう。

 あなたは会社から、腫れ物のような扱いを受けることになります。それなのに、労基署はなかなか動いてはくれない。これはなかなかつらい状況です。

会社はどのような手段を取るか

 会社から、何らかの報復が待っていると考えるべきでしょう。実際には報復をしてはいけないのですが、それは建前です。懲戒、異動、降格、賃金カット、あらゆることを想定しなくてはいけません。どの手段を取っても、会社を相手に争うことになりますので、相当な覚悟が必要です。

 労基法第104条2項では、労働基準監督官への申告を理由にした不利益変更を禁止しています。本来は申告を理由とした解雇はもちろん、減給や左遷といった措置も許されませんが、現実にはそうでないことも多いのです。社内では降格人事や異動が行われ、場合によっては事件をでっち上げられた懲戒が行われることもあります。

 今できることは情報収集です。労働者側の言い分、企業側の言い分の双方を理解しておく必要があります。NPO法人「POSSE」代表、今野晴貴氏の「ストライキ2.0 ブラック企業と闘う武器」(集英社新書) 、「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」(文春新書)などは労働者視点です。会社との戦い方を知りたい人には参考になると思います。

「労務管理の基本的なところ全部教えちゃいます」(ソシム)は、労務管理を得意とする社労士が漫画で分かりやすく解説しています。本来は会社視点ですが、労働者でも十分理解できる平易な内容です。雇用に不安を感じ、不測の事態に備えるのであれば、会社側の言い分についても理解し、知識を吸収しなければなりません。

 実際に争うとなると先鋭化し、後戻りできないのが労働問題。言い分はおのおのにあることを忘れてはいけません。あなたに言い分があるように、会社にも言い分があります。まずは理論武装をすることが大切です。できれば、ソフトランディングにしたいものです。