イギリスの食事は…と首をかしげる向きもあるが、最近は随分おいしくなったという人も多い。個人の味の好みや店選びも関係するから一概には言えないが、EU離脱に備えて、イギリスは料理の質向上を目指している、という半ば本気の冗談も聞こえるほどだ。

 英テレグラフ紙は最近、「30歳までにマスターしておくべき料理」という記事を掲載した。「学生時代が終わったのに、豆とトースト、出来合いの惣菜から進歩がないなら、30歳になる前にレパートリーを増やしておこう」と挙げたリストが次のもの。

 シンプルなオリーブオイルとガーリックのスパゲティ、ローストチキン、魚のオーブン焼き、ラザニア、チリコンカン、歴史的に関係の深い国のものではチキンカレーや、オセアニアのメレンゲスイーツ、パブロバ。アジア料理も、ベトナムのフォーなどが一つの容器で済むワンボールディナーとしてリスト入りしている。デザートでは、チョコレートケーキ、りんごのクランブル、ニューヨークチーズケーキなど。

 典型的なイギリス料理では、マッシュポテトとひき肉で作るシェパーズパイや、パーティーなどで活躍するチキンポットパイ、パンに卵やミルクをかけて焼くブレッドアンドバタープディング、ヴィクトリア女王ゆかりのヴィクトリアスポンジケーキ。そしてソーセージやベーコン、ベイクドトマトからマッシュルーム、卵が添えられたリッチな朝食だ。外で食べることが多いフィッシュ・アンド・チップスや、イギリス料理の筆頭に挙げられるローストビーフなどは入っていない半面、日常の家庭料理の豊かさが垣間見えるリストになっている。

 短い旅程でも、朝食はホテルでこのイギリス式が楽しめるし、あちこちで開かれるマーケットを歩けば、“ふだん着“のパイやケーキを味わうことができる。

 レストランについては、外側からの評価として美食の国フランスのミシュランガイド、イギリス・アイルランド版を見ると、現在三つ星4店、二つ星21店、一つ星147店。気軽に行けるビブグルマンは143店だ。「おいしくなっている」を裏付けるように、ロンドンだけ見ても星付きの数は年々増え、目下66店舗。イギリス最年少、26歳でミシュラン二つ星を獲得したシェフ、トム・エイキンズ氏のセカンドレストラン、チェルシーにあるTom’s Kitchenに行ってみた。

 パリのジョエル・ロビュションや、ランスのクレイエールなど有名レストランで修行したシェフで、イギリスやトルコのイスタンブールなどにも出店している。チェルシーの店は、朝8時の朝食から、ランチ、ディナーまでやっている活気ある店。ベジタリアン向けのメニューもそろっていて、食事時は満席だ。

 夏の冷製スープや、鶏のシュニッツェルなど定番メニューのほかに、その日の黒板メニューも豊富。テーブルクロスのかからない気さくな雰囲気で、子供連れや、テーブルをつなげて大人数で夕食会をする家族も。予約は必須だが、旅行者でも気軽に楽しめるイギリスの元気な食卓だ。

 EU離脱が決まった国民投票の直後、イギリス人が毎日パンにつけて食べる“国民の味”「マーマイト」が、ポンド安が原因でスーパーの棚から消えた事件は大きく報道されたが、今後EU諸国からの食材が値上がりしたり、シェフの行き来が減ったりすることで、食卓の質に影響が出るのではという懸念も渦巻く。先月からいよいよ始まっているEU離脱交渉。おいしくなっているイギリス料理、”リグレグジット”(regrexit=離脱反対派がつくった後悔のregretと Brexitの造語 )にならないよう、がんばれ〜!