9月の国連「気候行動サミット」で演説したグレタ・トゥンベリさん(16)は怒りと涙を隠さず地球温暖化対策の即時実行を各国指導者に迫った。「あなたたちが話すのはお金と永遠の経済成長というおとぎ話だけ」――。若いグレタさんら「未来世代」の「現世代」に対する不信感は強い。

 現世代は2015年、環境破壊なしに世界の全ての人々が豊かになることを目指す「持続可能な開発目標」(SDGs、エスディージーズ)や21世紀後半に温室効果ガスの排出実質ゼロをうたう「パリ協定」の2つの「国際的合意」を曲がりなりにも成立させた。未来世代は、その目標達成に向けた現世代の取り組みを注視している。

 生物多様性をはじめ国内外の環境問題を30年以上取材し、地球環境をめぐる世界の動向に詳しいジャーリストの井田徹治さん(共同通信編集委員)は9月27日に東京都内で開かれた企業向け交流会の講演で「グレタさんは科学によく学んでいる」と指摘した。

 国連演説でグレタさんは、パリ協定の最善目標である地球の気温上昇を「産業革命前」比1.5度以内に抑えるために二酸化炭素(CO2)の累積排出量(吸収量差し引き後)を一定限度に抑える科学的な考え方「カーボン・バジェット」(炭素予算)を援用し、“限界量”から逆算すると「従来通りの取り組み」では「8年半もたたずに排出許容量に達してしまう」と警告した。

 同世代の共感を呼んだグレタさんの一途な一連の行動には確たる科学の支えがあるのだろう。米下院の公聴会では「私の言葉ではなく、科学者の言葉に耳を傾けて」と呼び掛けている。

 科学者の言葉に長年耳を傾けている井田さんは講演で「地球環境に関する注目すべき二つの重要な「報告書」が、世界の科学者らが関与し今年まとまった」と述べ、内容を解説した。

 ナイロビの国連環境総会で3月採択された「地球環境概況第6版」(GEO6)と、パリの国際会議で5月採択された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学―政策プラットフォーム」(IPBES)の「地球規模評価報告書」だ。

 250人の科学者が関与した700ページの国連報告書「GEO6」は、「良好な環境なしには、経済成長も社会発展もない」という命題を打ち出し「このままではSDGsもパリ協定も達成できない」「すべての政策面で根本的な変革が急務」と提言した、という。

 井田さんは「SDGsの目標のうち温暖化対策や海・陸の生物多様性など地球環境保全にかかわる項目はすべて、目標に近づくどころか遠ざかっていると評価されている」と報告書が示す環境の危機的状況を説明した。

 もう一つの「地球規模評価報告書」は、「国連の気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)と似た組織形態である政府間組織のIPBESが、日本を含む50カ国、145人の科学者らの最新の研究成果を、自然科学のほか社会科学の知見も加えて1500ページにまとめたものだ。

 「地球上の800万種の動植物のうち100万種が絶滅の危機にある」「16世紀以降に、少なくとも680種の脊椎動物が絶滅した」など地球環境の劣化を如実に表す数値、予測値が明示されているという。

 井田さんは「驚くべきことに、地球の気温上昇を「産業革命前比」2度以内に抑えるパリ協定の最低限の国際目標を達成したとしても、サンゴ礁の面積は99%まで失われる可能性を報告書は指摘している」と述べ、IPBESのロバート・ワトソン議長が「環境政策だけでなく、全社会、全政策で根本的な社会変化が急務だ。(地球環境を守るために)残された時間は少ない」と強い危機感を表明していることにも言及した。「SDGsもIPCCもGEO6もIPBESもみな “根本的変革”を求めている」。

 温暖化対策の“即時実行”を求めるグレタさんら未来世代は、これらの国際組織が発するメッセージを敏感に受け止めているはずだ。

 井田さんは「地球環境を置き去りにした経済成長は“おとぎ話”だとグレタさんは批判した。良好な地球環境なしに社会も経済も成り立たない。これは世界の大方の常識だ。良好な環境があってはじめて豊かな社会、経済成長が可能になる。これだけ地球環境が悪化してしまった現在、我々に“ビジネス・アズ・ユージュアル(従来通りの取り組み)”というオプション(選択肢)はない」と公的機関のあらゆる政策決定、企業の意思決定の場で、地球環境への配慮を最優先に考える“相当な覚悟”が求められる時代、との認識を示した。

 講演の最後で井田さんは根本的変革への対応が概して遅れている日本企業への警鐘も忘れなかった。地球環境保全への根本的変革を求める世界的潮流の中で、環境悪化に対する世界の投資家や国際NGO(非政府組織)の監視の目は年々厳しくなっており、国際世論から予期せぬ指弾を浴びる「評判リスク」や事業資金に支障が生じる「資金調達リスク」にさらされる危険性が高まっている、とした。

 世界の中で最も生物多様性が保全されている日本を含めた世界34地点の「ホットスポット」と呼ばれる生物多様性の“宝庫地”では、現地の環境を悪化させる可能性がある日本企業の活動が散見される、という。

 取材で訪れたホットスポットのマダガスカルやニューカレドニアでは、日本企業が投資した大規模なニッケル採掘事業のため広大な山林が破壊され、現地で深刻な環境問題を引き起こしていた。食料品や化粧品など日本人の日常生活品にも使われるパーム油のために、マレーシアでは貴重な熱帯雨林を破壊し、そこで暮らしていた住民まで追い出してアブラヤシの巨大なプランテーション開発が進んでいた。

 井田さんは「日本人の日々の暮らしや日本企業の活動が、海外の生物多様性など世界の環境破壊と深く関わりうるということ意外と知られていない」と話し、世界で起きている環境問題への注意を促した。

 パリ協定とともに2015年以降の「世界のビジネスルールを大きく変えた」(井田さん)といわれるSDGsについて、井田さんと一緒に交流会で講演した国連開発計画(UNDP)駐日代表の近藤哲生さんは「SDGsは旬の話題でありながら、内容が複雑なため漠然としたイメージで一般的には捉えられている」と指摘した。その上で「SDGsの目標を達成するために企業や個人は具体的に何をしたらよいかを考えることが、SDGs理解の第一歩になる」と話した。

 2015年9月の国連総会で採択されたSDGsは17の目標(地球規模レベルの達成目標)とその目標に紐付けされた169のターゲット(各国政府が定める目標)を掲げる。対象期間は16年から30年の15年間で2030年を目標達成期限とする。

 17の目標は、①貧困をなくそう②飢餓をゼロに③すべての人に健康と福祉を④質の高い教育をみんなに⑤ジェンダー平等を実現しよう⑥安全な水とトイレを世界中に⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに⑧働きがいも経済成長も⑨産業と技術革新の基盤をつくろう⑩人や国の不平等をなくそう⑪住み続けられるまちづくりを⑫つくる責任つかう責任⑬気候変動に具体的な対策を⑭海の豊かさを守ろう⑮陸の豊かさを守ろう⑯平和と公正をすべての人に⑰パートナーシップで目標を達成しよう――と多岐にわたる。

 このため、達成に向けた取り組み姿勢を述べる⑰を除き、地球環境(⑥⑭⑮⑬)、社会(①②③④⑤⑦⑪⑯)、経済(⑧⑨⑩⑫)の3層構造として理解、整理されることが多い。

 スウェーデンの科学者らが提唱した「SDGsのウェディングケーキ」と呼ばれる三層の価値序列判断を含んだ整理で、井田さんも講演の中で「良好な環境があってはじめて豊かな社会、経済成長が可能になる」という根本的変革の必要性を説明した際に紹介した。

 日本の外務省を経て国連職員となった近藤さんは、SDGsには、これまで国連が主に開発途上国を対象に蓄積してきた開発援助などの知見が生かされていると述べ、01〜15年の国連の開発プログラムである「ミレニアム開発目標」(MDGs)とSDGsの違いを説明しながら、1945年発足の国連史の中でSDGsの持つ歴史的意義を強調した。

 SDGsはMDGsと比べると、対象地域を開発途上国から先進国を含めた「全世界」、目標達成に取り組む主体を「公的機関」から「全ての人々」にそれぞれ拡大した。さらに目標の「性格」を、MDGsの「行動目標」から「成果目標」に変えた。そのためSDGsは、MDGsになかった目標数値や達成時期など具体的な指標が設定されている。

 近藤さんは「MDGsに比べてSDGsの目標は格段に精緻かつ詳細化された。目標自体のハードルも上がり、例えば、MDGsの目標は“貧困を減らす”だったが、SDGsは“貧困をなくす”と目標値を大幅に引き上げている」と話した。

 取り組み主体が「全ての人々」に広がった点を強調した近藤さんは「SDGsのスローガンは“誰一人取り残さない”。そのためには、一番置き去りにされそうな人々に寄り添い、そのような人々と一緒に目標達成に向けて取り組むことが大切になる。人々の生活に一番近いところにいる企業の皆さまの取り組みに期待するところは大きい」と語った。

 SDGsの目標達成のために企業や個人が具体的に何をすべきか考える上で考慮すべき主な視点として、近藤さんは、ビジネス上の2つ“潮流変化”に目を向けるよう促した。

 「社会的責任投資(SRI)」から「責任投資原則(PRI)」・「ESG投資」(環境、社会、ガバナンスの視点を重視する投資)への転換、「企業の社会的責任(CSR)」から「共有価値創造(CSV)」への変化だ。

 「責任投資原則(PRI)」・「ESG投資」重視の流れは、「世界にとって有害な企業に投資しない(SRI投資)というだけでなく、どのような企業に投資したら“世界に貢献できるか”という方向」に機関投資家を向かわせている、とした。

 「共有価値創造」(CSV)については、本業とは別枠のチャリティ的意味合いの強い企業活動が典型的だったCSRと異なり、本業自体に目を向けさせる点がCSVの特徴で、「本業の製品・サービスそのものがSDGsの目標達成もどれだけ寄与できるかを考えるべき時代になった」と説明。自社の製品・サービスが将来どれだけ顧客、地域、社会に貢献できるかを深く検討した上でSDGs的な価値観の実現を「ビジョン」に掲げた日本の企業の例も紹介した。

 近藤さんはESG投資を例に、どんな具体的な企業活動が投資適合とされるかなど、SDGsの目標達成上求められる企業活動の基準、ル―ルづくりに寄与するため「日本企業は優れた企業活動の事例を世界に発信してほしい」と呼び掛けた。併せて国連開発計画が提唱し2020年以降の実施を予定しているSDG適合事業を認証する試み「SDGインパクト」への参加も促した。

 ものづくりは得意だが、世界の基準、ルールづくりは苦手といわれる日本企業の体質が、SDGsへの対応をきっかけに今後根本的に変わるのだろうか。企業に及ぼすSDGsの“ディーブインパクト”から今後も目が離せない。