世界人口の増加で将来予想される食料危機を見据えて、高たんぱくなど栄養価に優れ、牛、豚、鶏肉よりも環境負荷が少なく、地球温暖化問題対策に資するとされ、さらには無駄な食品をエサに出来て食品ロス問題の解決にも役立ち、他のたんぱく源に比べ安価――まさに三拍子も四拍子もそろった昆虫食品がいま静かなブームとなっている。

 国連食糧農業機関(FAO)は、昆虫食が「SDGs(持続可能な開発目標)」に合致するとして、その将来的な可能性を説いた報告書を2013年にまとめている。

 FAOによれば、世界では食べられる昆虫が1,900種以上存在するという。世界的な消費をみると①甲虫(31%)②イモムシ(18%)③ハチ、アリ(14%)④コオロギなどバッタ(13%)が多い。食料、飼料としての昆虫が注目されるのには「動物性たんぱく質の価格高騰、人口増、中間層でのプロテイン需要の増加」が背景にあるとFAOは分析している。

コオロギせんべい

 良品計画は2020年5月より、「コオロギせんべい」を販売している。今後の食糧確保と環境問題を考えるきっかけとして取り組みを始め、昆虫食研究の最先端をいっている徳島大学と協業、コオロギを用いた製品の発売にこぎつけた。

 無印良品ブランドのコオロギせんべいは、食用コオロギを粉末状にしてせんべいに練りこんだもので、エビに近い香ばしい風味を楽しめるという。
 コオロギせんべいは55グラム入りで税込み価格が190円。

 同社広報課によると「基本2〜3カ月に1回納品し、納品分は2週間程度で完売する」という。「商品発売後、多くのお客様がコオロギせんべいにご興味をお持ちいただき、その開発背景にあった今後の食糧確保と環境問題などの課題にも関心を持っていただいた」。

 コオロギせんべいが予想外の大好評だったことで、良品計画は第二弾として「コオロギチョコ」の発売に2021年12月15日、乗り出した。高たんぱくのコオロギパウダーに大豆たんぱく由来の大豆パフやきなこを混ぜ込んだ棒状のチョコで、一本で15グラムのたんぱく質が得られる「プロテインバー」という位置づけをしている。価格は一本190円(税込み)。コオロギせんべい及びチョコは全国221店舗とネットストアで購入が可能だ。

 良品計画のせんべいなどに使われている食用コオロギを提供しているのが、徳島大学発のベンチャー企業であるグリラス(徳島県鳴門市)だ。

コオロギクッキー

 グリラスは、食品ロスをエサとして育てた食用コオロギを使用した食品ブランド「C.TRIA(シートリア)」を2021年6月に立ち上げ、これまでにクッキー、チョコクランチ、カレー、パンといった商品を展開している。

 同社は「コオロギを介して食品ロスを新たなたんぱく源へと循環させる“サーキュラーフード”」をテーマにしている。サーキュラーフードの普及はSDGsの「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる」すなわち「つくる責任、つかう責任」というターゲットの一つに寄与することが見込まれるという。

 グリラスは、サーキュラーフードの推進を通して、国内における食品ロスの活用・循環を目指す「サーキュラーフード推進ワーキングチーム」の幹事企業を務めている。

 グリラスのコオロギ食を通しての社会課題の解決に向けた姿勢が評価され、2022年1月には、「C.TRIAクッキー」と「C.TRIAクランチ」の2商品が、日本経済新聞社の「2021年日経優秀製品・サービス賞 日経産業新聞賞」を受賞した。クッキーは市岡製菓(徳島県小松島市)、クランチは寿製菓(鳥取県米子市)と共同開発した。

 この2商品は「お土産需要として売れ行きが良い」と広報の川原琢聖(かわはら・たくま)氏はいう。オンライン販売に加え、徳島県内では徳島空港や大手スーパーで販売されている。ちなみにC.TRIAクッキーきなこ味は4袋入りで税込み780円、同ココア・ハーブ&ガーリック味が8袋入りで同1,290円。C.TRIAクランチは同980円。

 2021年12月24日からは、コオロギを使用した食品原料――粉末「グリラスパウダー」と濃縮調味液「グリラスエキス」――を新ブランド「C.TRIA Originals」のもとで一般向け販売を開始。クッキーなどの製品を購入した人たちから「もっとコオロギの味をそのまま楽しみたい」、「自分でもコオロギ料理をつくりたい」という声が寄せられたのに応えた。パウダーは50グラムで税込み980円、100グラムで同1,800円。エキスは220グラムで同980円。

コオロギアイス

 一方、2021年10月、開天堂(横浜市)は「コオロギアイス」の販売を始めた。12個セットで税込み8,900円とやや値が張るものの、「徐々に引き合いが入っている」という。

 ネット販売がメインだが、伝統的にイナゴなどを食べ昆虫食に抵抗が少ない長野県では商店での対面販売も行っており、同県での売り上げが一番多いという。次に売り上げが大きいのは長崎県で、自動販売機で販売している。

 さらに開天堂は昆虫粉末を用いたアイスの特許を取得、2022年1月4日からライセンス提供などを希望する事業者の募集を開始した。

 「主に大企業向けのライセンス提供を狙っている。弊社は小さい事業者なので、販路が限られている。それを大企業の力で拡げていって認知度を高めていきたい」と担当者は語る。

データが裏付ける昆虫食

 コオロギは栄養価が高いことが知られている。FAOの報告書によると、100グラムあたりのたんぱく質量はコオロギが60グラムと鶏、豚、牛に比べてもはるかに多いという。

 環境への負荷が少ないことも大きなメリットだ。例えばエサの必要量だが、1キログラムの体重増加のために必要なエサの量は、コオロギが1.7キログラム、鶏が2.5キログラム、豚が5キログラム、牛が10キログラムである。

 昆虫食は水資源の節約にも資することが分かっている。体重を1キログラム増やすのに必要な水は、鶏が2,300リットル、豚が3,500リットル、牛が22,000リットルであるのに対し、コオロギははるかに少ない水で足りるとされる。

 温室効果ガスの排出量も圧倒的に少ない。体重増1キログラムあたりの排出量は、豚の1.1キログラム、牛の2.8キログラムに対してコオロギはゼロに近いレベルだ。

 さらには生態系を乱さずに工業的に大量飼育すなわち「養殖」が、広い土地を必要とせずに可能で、安定した品質と価格を保ちうるというメリットにもFAOは言及している。

ゲテモノ扱いを乗り越えて

 日本では長野県など一部地域で、イナゴの佃煮やハチノコ(ハチの幼虫)の煮つけやいったものを食べる伝統的な習慣がある。だが、昆虫食といえば「ゲテモノ」あるいは「罰ゲーム的食べ物」といった偏見が一方で存在するのも確かである。

 その点、コオロギ食品を開発・販売している企業はどのように乗り越えてきたのだろうか。良品計画では当初コオロギをぺたんと潰して姿焼きのようにする形を考えて、サンプルまで作った経緯がある。だが、「丸のまま食べるというのには抵抗感があると判断。気軽に食べられる身近な食材としたく、粉末状にした」(広報課)という。

 またグリラスの川原氏はいう、「私たちは伝統的な昆虫食とは一線を画しています。昆虫食ということでなく、あくまでコオロギ+サーキュラーフードという位置づけをしています。コオロギのそのままの姿が使われないように粉末状にしたうえ、パッケージにも工夫をしています。なにより粉末のほうが応用の幅も広いのです」。

 開天堂は「昆虫を食べることへの抵抗をなくしたいという思いがあります。昆虫の姿が残っていると“罰ゲーム的感覚”でとらえられることがありますが、私たちはあくまでも食ということにフォーカスしたく、粉末での展開をしています」という。