ファッション業界は原材料調達、製造、輸送から廃棄までにかかるエネルギー使用量やライフサイクルの短さなどから環境負荷が非常に大きいと指摘されている。石油産業に次ぐ「二番目の環境汚染産業」とまでいわれるほどだ。

 日本では一日に焼却・埋め立てされる衣服は1,300トンで大型トラック130台分にあたる(環境省)。流行に翻弄され、また安価なファストファッションによって、次から次へと衣服を手にしては手放すー―そんな消費者の行動も問題視されている。

 国連が唱えるSDGs(持続可能な開発目標)の一つである「つくる責任、つかう責任」から、内外のファッション企業が温室効果ガス削減などに乗り出すなど、いわゆる「サステイナブル(持続可能な)ファッション」への取り組みが加速している。

ファッション協定発足

 2019年、フランスで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)の際に、同国のケリング・グループが主導して、温暖化防止、生物多様性、海洋保護に焦点をあてた「ファッション協定」が結ばれた。当初の参加企業は32社(現在75社超)。

 このファッション産業の環境負荷低減に向けた国際的枠組みには、シャネル、エルメス、バーバリー、ナイキ、アディダス、フェラガモ、プーマ、GAP、ラルフローレン、ジョルジオアルマーニ、H&Mなどグローバルなブランドが顔をそろえた。

 背景にはファッション産業による環境負荷が看過できないレベルにまで達していることがある。例えば、世界で排出される二酸化炭素(CO2)の約10%を同産業が排出しており、このままでは2050年には26%にまで上昇するといわれる。

 また、主要原材料のコットン(綿)を育てるのには大量の水を必要とする一方、染色の際の水汚染も深刻化している。日本で売られている衣服だけみても、年間の水消費量は約83億立方メートル(服一着当たり浴槽約11杯分)とされる。

 ファッション協定では、2030年までにCO2排出量を2010年比で45%削減するという目標を定めた。再生エネルギー使用比率に関しては2025年までに50%を目指すとした。環境負荷の少ない原材料へのシフト、プラスチック包装の削減などもうたわれた。

 ファッション協定の発足により、メンバーの80%が企業内のサステイナブルへの取り組みが加速したと報告されている。また、署名企業の使用する電力の40〜45%が再生可能エネルギーになったという。さらには70%のメンバーが不必要かつ有害なプラスチック製の包装を削減出来たという。

浮上する人権問題

 さらにはビジネスにおける人権の問題もある。低賃金かつ長時間労働の強制や危険な薬物の取り扱いなど多くの問題が報告されている。2013年4月には、「ラナプラザの悲劇」が起き、ファッション業界による途上国労働者の「搾取」がクローズアップされた。

 これはバングラデシュの首都ダッカにある8階建ての商業ビル「ラナプラザ」が突如崩壊し、死者1,100人超、負傷者2,500人以上となった惨劇を指す。このビルには5つの縫製工場が入居しており、犠牲者の多くは、そこで働く若い女性だった。

 彼女らは「ファッションの犠牲者」ともいわれた。すなわち、この事故はファッション業界全体の利益追求の姿勢が招いたとされるからだ。ラナプラザ内の工場は、世界中のさまざまな有名ブランドの受注を受けていたとされる。

 また、中国による少数民族の強制労働問題も記憶に新しいところだ。米バイデン政権が2021年12月に成立させた「ウイグル強制労働防止法」は2022年6月に発効する。これは新疆ウイグル自治区からの輸入を原則として禁ずる措置である。

 世界で流通するコットン製品の約20%がウイグルで生産されたものが含まれているとの試算もあり、ファッション業界は難しい対応を迫られている。

業界をリードする仏ケリング

 世界的ブランドでサステイナビリティの取り組みで先頭の一群にいるのがケリングだ。同社のグループは傘下にグッチ、サンローラン、ブリオーニなどのブランドを擁し、「ファッション協定」を主導したことでも知られる。

 ケリングのチーフ・サステナビリティ・オフィサーのマリー=クレール・ダヴー氏はいう「サステナビリティはケリングの事業戦略の中核であり、(会長兼CEOの)フランソワ=アンリ・ピノーが長きにわたって追求し続けているテーマです」。

 「(サステナビリティを)哲学として掲げるだけではなく形として実現するための強い意志が込められています。ファッション業界でサステナビリティを実現させることは急務でありケリングの使命であると考えています」とダヴー氏はいう。

 業界ではいち早くサステイナビリティに取り組んできたケリングだが、これまでで一番画期的かつ分岐点となったのは2015年に発表された環境損益計算(EP&L)だという。これは川上から川下まで各段階における環境負荷を数値化したもの。

 そこから分かったのが「一番環境負荷が大きいのが原材料生産の現場で、そこから取り組んでいくのがいいだろうということになった」という。2025年までにトレーサビリティ(追跡可能性)を100%達成する目標を立て、2020年には91%達成した。

 また、サステイナブルな生地・素材を所蔵し、デザイナー・チームを支えるマテリアル・イノベーション・ラボを伊ミラノに設けている。約3,800種類のサステイナブル生地・素材がストックされている。「新素材、技術開発、サーキュラリティ(循環性)に配慮し、ブランドの要請に応えており、今96件のプロジェクトが稼働中です」。

 さらには2021年9月、ケリングは動物の毛皮を使用しないことを決定し、「ファーフリー」を宣言した。2022年のフォールコレクション以降、グループのすべてのブランドでは

 毛皮を使用しないことになっている。「消費者の意識が急速に変わってきて、私たちも変わっていかなければいけないということです」。

 「クリエイティビティとサステナビリティを我々は両立させなければいかない。そのためにはイノベーションも必要でスタートアップへの投資も行っている。マテリアル・イノベーション・ラボもその一つです」。

日本企業の取り組みは?

 では日本企業の取り組みはどうだろうか?

 サステイナビリティ経営やESG投資に関するニュースサイト「Sustainable Japan」を運営する(株)ニューラルのCEO・夫馬賢治(ふま・けんじ)氏によると「日本全体にサステイナビリティという流れが来るのが遅かったことから、日本企業の取り組みは遅れている。日本では海外から6年遅れで動きが出ているところ」だという。そんな中、日本で注目される企業として夫馬氏はアシックスとファーストリテイリングを挙げた。

 アシックスは日本企業として唯一、「ファッション協定」に署名している。その理由を同社のサステナビリティ統括部・サステナビリティ部・環境・コミュニティチームのマネージャー、井上聖子(いのうえ・せいこ)氏は次のように説明する。

 「環境負荷低減のために、業界一体となったバリューチェイン(価値連鎖)全体での取り組みに力を入れているためです。また、気候変動に加え、重要性が増している生物多様性などの課題についてもステークホルダー(利害関係者)との連携を進めていくためです」。

 同社は2030年までに製品に使用されるポリエステル材を100%リサイクル材料に切り替えることを目標とし、2021年春夏シーズンより主力のランニングシューズでは新商品の90%以上にリサイクルポリエステルが採用されており、2021年からアパレルのグローバルアイテムの65%以上にリサイクル材が採用されている。

 また植物由来の次世代高機能素材セルロースナノファイバー(CNF)を採用したシューズを全世界で累計870万足以上を販売した実績がある。CNFは、木質資源を材料とする極細繊維で軽さとともに強度をも備えた素材だという。

 さらにシューズの中敷きに環境配慮の染色技術「ソリューションダイ」を、シューズ製品の50%以上に導入している。この技術により、染色工程におけるCO2排出量を約45%削減し、水使用量も約33%削減することが可能だという。

 一方、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは2021年12月、「サステイナビリティの目標とアクションプラン」を発表した。同社が掲げる「新しい服のビジネスモデル」のポイントは次の4点――①サプライチェーンを見直す②多様性を尊重する③社会に貢献する④服の寿命を延ばし、使い終えた服を活用する。

 ファーストリテイリングでは、2030年度までに店舗やオフィスなど自社に関わる領域で、温室効果ガスを2019年度比で90%削減する目標を立てている。また排出量の90%を占める原材料生産や縫製といったサプライチェーンでも同20%削減を目指している。

 また、ファーストリテイリング・グループの全世界の店舗と主要オフィスでの使用電力を2030年度までに再生可能エネルギーに変えるとしている。さらに2030年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材などに切り替えたいとしている。すでにユニクロではポリエステル素材の約15%を回収ペットボトルから再生したものに変更済みだという。

 ジーンズの「洗い」や「ダメージ加工」といった加工工程においては、ナノバブル洗浄やオゾン洗浄の採用などにより、水の使用量を最大99%削減出来る技術を開発した。

消費者・生活者とのコミュニケーション

 企業サイドすなわち生産者がいくら力を入れてサステイナブルな取り組みをしても消費者・生活者が理解してくれないことには成り立たない。つまりモノを売るというのはビジネスであり、人々に買ってもらえなければ利益が上げられないからだ。

 環境省の調査では、サステイナブルファッションに関心がある人は51%、一方で無関心層は41%である。すでに実践している層となると5%にも満たないという結果が出ている。サステイナブルな商品は割高ではないかという消費者も少なくない。

 「アパレルのリサイクルは、他の分野と比べて技術的なハードルが非常に高く、アパレル分野におけるリサイクルの取り組みは世界的に大きな後れを取っています・・・(あるレポートでは、)再生段階で服から服へと水平リサイクルされる割合は1%にも満たないとのことです」とアシックスの井上氏はいう。

 そんな状況下、ファーストリテイリングの「ユニクロ」では2006年から全店舗にリサイクルボックスを設置し、不要になったユニクロの服を回収している。また2010年からは「ジーユー」でも全商品のリサイクル運動を行っているという。

 同社広報によると「この取り組みが発展して、回収したユニクロの服が新たなユニクロの服に生まれ変わった初の商品「リサイクルダウンジャケット」が生まれました」という。「引き続き、店頭やウェブサイト、ソーシャルメディアといった自社媒体にて情報発信し、お客様とのコミュニケーションを強化していきたい」。

 ケリングでは製品を長く愛用してもらうためにAI(人工知能)を使った計画生産をしているという。また、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションと組んでオンライン教育システムを導入するといった「啓蒙」も行っている。

 またケリング傘下のブランドでの消費者により身近な素材に関する取り組みとして、グッチが再生ナイロンを使ったコレクションを出したり、ボッテガ・ベネタは土に返るポリマーを使用したり、マックキューは工場から消費者に届くまでの梱包を同じものを使うようにして「要らないものを減らす」ようにしているという。

ニューラルの夫馬氏は、消費者の反応を見ながらなどというのはダメなのだという。「海外勢はすべてをサステイナブルに変えてしまう。消費者・生活者は後からついてくればいいと思っているぐらいだ」と内外企業の基本的な姿勢の差について指摘する。

 「アパレル産業は課題が多い。段階的にとか順番にとか言っていてはダメ。すべてを包括的に進めていかなければいけない」と夫馬氏は語った。

(※OVO編集部ではサステイナブルと表記していますが、個人の発言や部署名でサステナブルとなっている場合はそれを尊重しています。)