今年は、日本の鉄道が1872年(明治5)年10月に、東京・新橋―横浜間で開業してから、150年になる。全国各地でさまざまなイベントが開催されているが、近年頻発している大地震・津波や豪雨に対して、国土強靭化(きょうじんか)の視点に立って日本列島の鉄路などの「交通軸」を点検してみると、「注意信号」を越え、「警告信号、待ったナシ」のようなデンジャラスゾーンも見受けられる。

 民間や官界、大学などの交流を通じて、豊かで持続可能な社会づくりに向けた提言活動を続ける一般社団法人「日本プロジェクト産業協議会」(JAPIC、会長・進藤孝生・日本製鉄代表取締会長)は、列島経済の大動脈である東海道ベルト地帯の中で、最も危険視されている静岡県・由比(ゆい)地区(静岡市清水区)を対象とした「大地震に備えた東西交通分断回避プロジェクト」をまとめた。このほど静岡市で開かれたシンポジウムで発表し、注目を集めている。

「街道の難所」

 駿河湾の向こうに「霊峰 富士」を望む由比地区は、旧東海道の宿場町で、江戸時代の歌川広重の浮世絵にも描かれた「街道一の景勝地」として知られる。一方で、海岸段丘による切り立った崖が海にせり出す「街道の難所」でもあった。

 1964年に開業した東海道新幹線は、海岸部を離れ山側のトンネル区間を走るため、この景観を望むことはできないが、在来線を知るオールド鉄道ファンには、東海道本線の“忘れえぬ車窓風景”として、今も記憶に残る。

 その優れた景観は、1956年に東京―神戸間の東海道本線(在来線)が完全電化された際、郵政省(当時)が発行した「記念切手」のデザインにも選ばれたほどだ。広重の「由比の浮世絵」に、列車を力強くけん引するEF58形電気機関車『つばさ』を重ねた絵柄で、500万枚が発行され、「由比」の名をあらためて全国に広めた。

 しかし、現地の臨海部(由比・倉沢地区)を歩いてみると、海側から「東名高速道路」(一部は高架になっている)「国道1号バイパス」「JR東海道本線(在来線)」と主要交通路が、海面すれすれのレベルで3本が並行して走る。まさに東海道の“アキレス腱”ともいえる状況で「“3密”デンジャラスゾーン」(延長6kmの区間)でもある。今年9月の台風15号でも、高波が護岸を越え、通行止めなどの被害が出た。

1兆6000万円の損失

 独自の調査とシミュレーションなどによる「JAPIC提言」は、2015年に発足した「国土・未来プロジェクト研究会」(最高顧問中村英夫・東京都市大学名誉総長)のメンバーの手で作成された。同研究会には官界OB、大学、ゼネコン、建設コンサルタント、金融、不動産など幅広い分野の専門家、約120人が委員として参加している。

 南海トラフ地震クラスの大地震が発生し、この3路線が分断されると、東海道本線は全面運休を余儀なくされ、道路も1日に13万台の車がストップ。復旧には約2年の歳月がかかり、日本経済に甚大な被害が及ぶと警鐘を鳴らす。

 東名は「新東名」に迂回ルート(御殿場JCT―浜松いなさJCT、2012年開業)が確保されているが、試算では40%増の混雑となり、大渋滞が起きる。国道1号は、近くに本格的な代替路が確保されておらず、山側ルートを大回りするなど国道52号に車が殺到する。普段の3倍の交通量になり、マヒ状態になるという。

 現在、由比地区を通過する東海道本線の貨物輸送は、1日平均3万トンで、全国でもトップクラス。輸送量は「名古屋、京都、神戸」の大都市並みで、日々90本前後の貨物列車が運行する。通行止めによる経済的損失は大きく、10日間で225億円。復旧まで2年間かかると1兆6000億円にも及ぶ。

 1964年に開業した東海道新幹線は、この区間(新富士―静岡)は山側のトンネルなどを走っているため、津波による崩壊リスクは避けられそうだが、現状では在来線や道路に代わる貨物輸送の主役にはなりえない。

新「迂回ルート」

 JAPIC提言は「新たな迂回ルートの必要性」を訴えている。基本戦略の三つの柱は、以下の通りだ。

【1】「東名高速」「国道1号」の2つの道路について、海岸線から実行可能な限り「山側」に新たな迂回ルートをつくり、大津波や高波のリスクを避ける。2つの道路の相互接続が可能になるように2カ所に「スマートIC」を設置する。事業規模は8km、事業費1500億円と試算している。

2011年の東日本大震災で被災した、東北の三陸沿岸を走る「国道45号」の教訓を生かし、山側に新たに建設、全線開通した「三陸復興道」との連携の考え方を、受け継ぐ発想だ。

【2】鉄道の貨物輸送整備は、相当な期間と事業費を要することから長期的プロジェクトとして、第2段階と位置付けている。鉄路移設などの事業規模は14km、うちトンネル12km、事業費3000億円。

【3】二つの道路移転により生まれる臨海部の数キロに及ぶ「空間」の利用については、アプローチ部分を除く3km、幅約27mの用地(8万㎡)を、大型トラックの駐車、ドライバーの「休憩・休息スペース」として確保。また、駿河湾に富士山という、由比地区の素晴らしい景観が楽しめる「国際標準の高規格サイクリングロード」の設置を、計画の中に盛り込んでいる。

提言書を国交相に

 「国土未来プロジェクト研究会」は、「東海道由比地区での強靭化プロジェクト」のほか、「津軽海峡トンネルプロジェクト」「京都の交通改善プロジェクト」「沖縄本島ツインゲートウエイ構想」など数々の列島プロジェクトに取り組み、これまで「提言報告書」を国土交通大臣に手交してきた。

 同研究会を主導している中村英夫・東京都市大学名誉総長(国土インフラ計画論)は「近年、自然災害が激甚化している中で、国土のインフラを改善し、豊かな国民生活と地域の文化振興のために、急がなければならない課題に取り組んでいる。静岡・由比地区のプロジェクトもそのひとつで、本州の軸に沿った交通路を、多様に強靭化していく必要がある」と語る。

 JAPICでは、行政関係者や研究者だけでなく、より多くの人達に関心を持ってもらい、プロジェクトの実行を推進するため、この7年間の取り組みを『JAPIC 国土造りプロジェクト構想』と題して書籍化(産経新聞出版)し、10月に出版した。 同書は2017年出版した『提言!次世代活性化プロジェクト BEYOND2020』(同)の改訂版でもある。

文・地域防災ジャーナリスト 角田光男