脱炭素の実現に向けた世界的な潮流がある中、電気自動車(EV)などの蓄電池産業の競争が激化している。国内で、蓄電池産業の盛んな地域をご存じだろうか。それは、関西地域だ。この地域には、繊維産業、製薬などの伝統的な産業で培われた技術があり、それを背景に、蓄電池メーカー、製造装置メーカー、部材のサプライヤーなどの生産拠点が集まっているためだ。電池製造業の全国製造品出荷額(総額約1兆902億円)のうち、この地域が約36%を占めるまでになっている。

 この大きな変化の流れをとらえて、成長が見込める蓄電池分野に着目し、製造工場などに即戦力の人材を供給しようとする企業がある。NISSOホールディングス(プライム上場9332)傘下で、製造業現場への人材派遣を手がける「日総工産」(横浜市)だ。

 日総工産は3月25日午後、滋賀県近江八幡市に、電気自動車向けの蓄電池製造などにかかわる自社従業員らを研修する「日総EVテクニカルセンター関西」を開所した。この日の開所式には、日総工産の高島昭寛・執行役員兼事業企画本部長らのほかに、来賓として、近畿経済産業局、滋賀県庁などから関係者が出席。式典後、施設内の内覧会が実施され、研修用に特別にカスタマイズした製造装置や、工場内で起こりうる事故を未然に防ぐため、実際の作業で起こり得る労働災害を想定した「危険体感」を味わった。

▽蓄電池は「社会インフラ」

 日総EVテクニカルセンター関西は、JR近江八幡駅から歩いて約5分の好立地にあり、2階建てで、1階は「危険体感」が体験できるゾーンがあるほか、EV向けの蓄電池製造に関連する研修マシーンなどが設置されている。2階は研修生に向けた講義室になっている。

 この日,2階で開催された式典で高島執行役員は、日総工産が近畿経済産業局の「関西蓄電池人材育成等コンソーシアム」に参画していることに触れた上で、「この施設は、関西地区における蓄電池人材を育成する中核研修施設と位置づけ、蓄電池に特化した設備、独自のプログラムを用いて、即戦力の人材を育成していきたい」とあいさつした。

 続いて来賓の経済産業省近畿経済産業局の土屋貴史・地域経済部次世代産業・情報政策課長は「日総EVテクニカルセンター関西」の開所に関連し、「関西において、集積が進む蓄電池産業のバリューチェーン構築に際し、欠かせない施設と考えている。完成を心から祝福したい」と述べた。

 その上で土屋氏は「この施設は蓄電池に特化されたセンターとうかがっている。私たち(近畿経済産業局)も、この蓄電池には力を入れている。蓄電池はこれから先、温室効果ガス削減、カーボンニュートラルの達成などの実現を目指す中、自動車の電動化、再生可能エネルギーの主力電源化に向かうための最重要技術といえるだろう。まさに、蓄電池の技術は、『社会インフラ』の一つとして、位置づけられる」と話し、現代における蓄電池の重要性を強調した。

▽「EVを制するものは自動車を」

 式典終了後は1階に移動し、日総工産の阿久根健太郎・人財育成部教育企画グループグループ長が、研修用の装置について案内した。感電の危険性を認識してもらうため、設置してある「感電体験装置」を来客に実際に体験してもらい、作業中の感電防止の研修の一端を知ることができた。体験した来客の1人は,「弱い電流が流れ、確かに指がピリッとした」などと感想を語った。

 一連の式典が終了後、取材に応じた高島執行役員はEVを取り巻く現状について「半導体を制するものはEVを制する。EVを制するものは、自動車を制するということがいわれている。半導体・EV・自動車系は、日総工産にとって全てが大切なお客さまである」と話した。

 その上で高島氏は「蓄電池に特化した研修施設は今までになかった。関西地域はEV・蓄電池の電池メーカーさんが多く集まっており、できるだけ近くで研修を行いたかった。それで今回、滋賀県近江八幡市に開設した。まずは,関西圏への人材派遣が中心だが、必要があれば、全国のメーカーに向けて人材を育成したい」と意気込みを語った。

 なお、日総EVテクニカルセンター関西前の歩行道には、滋賀県内で多く見られる、児童の道路飛び出し防止を目的とした「とび太くん(飛び出し坊や)」からヒントを得た、日総工産メインキャラクターの「せいぞうくん」版の「とび太くん」が、街の交通安全を守っている。