子どもの頃、SF映画やアニメに登場するロボットに憧れたことはないだろうか。日常的に車が人型ロボットに変身したり、ロボットが便利な道具を出してくれたりする未来はまだ先かもしれないが、AI技術がハイスピードで進化している今、私たちの生活はどう変わっていくのか。
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(通称:fuRo)で世界最先端の研究に取り組む古田貴之博士は、今後、ロボットの進化と共に人々が積極的に社会とつながるようになり、さらにはユニバーサル(全世界的)な社会を作っていくと言う。その真意とは、一体。

すでに、私たちのすぐ近くにロボットが存在している


千葉工業大学 常任理事・未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之博士。各界から注目される日本屈指のロボットクリエイター。

――― ロボットというと、いまだに特別で高価なものといったイメージがあります。これからどのように私たちの生活に溶け込み、社会を変えていくのでしょうか?

古田貴之博士(以下、古田):ロボットと言われるとアニメや映画に登場するような人間型ロボットを想像する人が多いですが、知能化された家電や乗り物、駅のホームドアのセンサー機能もロボットに分類されます。fuRoが開発に携わっている新型のロボット掃除機RULO(ルーロ)も、最先端のロボット技術がたくさん搭載された“完全なるロボット”と言えますね。


今年4月20日に発売されたパナソニック ロボット掃除機RULO(品番MC-RSF1000)。業界トップクラスのレーザーセンサーを使用した空間認識技術『レーザーSLAM』、段差やラグマットを検知して本体を持ち上げる『アクティブリフト』機能、人の足の動きを認識してついていく『otomo』機能など、fuRoのテクノロジーを複数搭載。本体にも『fuRo technology』のロゴが入っている。

――― つまり、子どもの頃に憧れた“ロボットのある生活”がすでに始まっているということでしょうか。

古田:そうですね。あまり気付いていないけど、皆さんは日常的にロボット技術を利用していますね。身近なところで言えば、スマホの予測変換。あれはAIが人間の不確かな記憶を補完してくれているんですよ。こんなふうに、今のロボット技術は人間の不得意な部分を補ってくれる方向にシフトしはじめているんですけど、実はその先頭を走っているのがパラアスリートたちなんです!

パラスポーツがロボット躍進のヒントに!


日本を代表する工業デザイナー山中俊治氏とfuRoが企画・開発した搭乗型知能ロボット『CanguRo』。ロンドンのデザイン博物館が主催する世界最高峰のデザインアワード『ビーズリー・デザイン・オブ・ザ・イヤー2019』にもノミネートされた。写真提供:fuRo(撮影/Yusuke Nishibe)

――― パラアスリートと今後のロボット技術は、どう繋がるのですか?

古田:急速に少子高齢化が進んでいる今、ロボットに求められることは、人間の物理的なサポートです。そのトップクラスの技術が集結したギアを使用するパラアスリートは、言わばF1のレーサーのようなもの。F1は超ハイスペックマシーンの性能を100%引き出すスポーツで、F1に使われた技術はいずれダウンサイジングされて私たちのところに届きますよね。同じように、パラアスリートが使用するギアをヒントに、我々の不得意なところを補えるロボットが今後次々と生まれます。

―――“不得意なところを補完するロボット”と“便利なロボット”は違うのでしょうか。

古田:どんなに便利な自動車を持っていても、会いたい人や行きたい場所がなければ乗らないですよね。便利なスマホだって、話したい相手やダウンロードしたいアプリがなければほとんど価値のないものになる。僕が思うに、人は心と体と社会からできていて、「○○したい」という気持ち(=心)、それを実行する術(=体)、相手や場所(=社会)の内、どれかひとつでも欠けたら(不得意を感じたら)思うように動けなくなってしまう。だから、これからのロボット技術は、不得意な部分を補完するという視点が大切なんです。

そういった意味でも、ただ便利なだけでなく、使った人がワクワクできるかどうかを意識してロボットをつくっています。僕の父は、かなり高齢なんですけど「シニアカーや車いすは、乗りたくない」と言い張るんですよ。便利かもしれないけどカッコよくない、と…。おそらく、父だけでなく多くの人が今ある福祉用のものを仕方なく使っているだけで、本当は「もっとカッコいいものが欲しい!」、「オシャレなほうがいい」と思っているはず。パラダイムシフト(※1)が起きている今、シニアカーや車いすだって、誰もが乗りたくなるものになるべきですよ。不得意を補えてワクワク感まであるものなら、QOL(※2)が向上して、今まで家に引きこもっていた人がどんどん外に出るようになるかもしれない。未来をつくることと心を揺さぶることは表裏一体だと思いますね。

――― つまり、ワクワクできるロボットがユニーバサルな未来をつくるということですか?

古田:そういうことです。もちろん世界は多様なので、便利ならデザインなんてどうでもいいという人や怠けることで心が満たされるという人もいると思うので、ただ便利なだけのロボットもあっていいですよね。人を苦しめることで快楽を得るようなロボットは認めちゃいけないけど、僕はいろんな人のニーズや価値観を受け入れたロボットをつくりたいと思っています。

※1 パラダイムシフト:当然のこととされていたそれまでの考え方や価値観が社会全体で大きく変化すること。

※2 QOL:クオリティ オブ ライフの略で、生活の質、人生の質とも言われる。どれだけ幸福で充足した生活(または人生)を送れているかをあらわす指標。

古田博士が考える、ロボットがもたらす幸せな未来とは?


fuRoが開発した災害対応ロボット。現在も人が立ち入ることができない福島第一原子力発電所内で調査・作業を行なっている。操作には、被災地でも手に入りやすい市販のゲーム用コントローラーを使用。

―――ところで、見た目も機能もワクワクさせるロボットをつくるのは大変じゃないですか?

古田:全然(笑)。ロボットづくりと恋愛はすごく似ていると思うんですよ。恋愛は、まず見た目に惹かれ、雰囲気や声など視覚以外の五感を働かせて「いいなぁ」と感じる。次に、頭を働かせて、どういう考えを持っている人だろう、どんなバックボーンがあるんだろうと相手を理解しようとする。さらに進むと、相手との未来を想像して、人生設計を始める。ロボットもまったく同じで、見た目や感触から入って、最終的にロボット技術でどんな未来を体験できるかを語ることが大切なんです。人の心を動かせるロボットを僕はつくりたい。

―――まさに、ロボットが幸せをもたらすようなイメージですね!

これからのロボット技術は大衆から個に向かう時代。医療の現場でも、ゲノム解析でその人に合った薬をオーダーメイドできるようになっているし、スマホですら、自分で使いやすいようにいろいろカスタマイズしているじゃないですか。ロボットも自分仕様になると思うので、これからもっとワクワクするロボットが増えるんじゃないかな。

――― そんな古田博士が目指す、理想の未来とは?

古田:思想家イヴァン・イリウチ(※3)の提唱したコンヴィヴィアリティ(共悦/みんなで楽しく生きる)という概念があるのですが、僕はコンヴィヴィアリティな世の中、つまり、ただ便利なだけでなく、みんなで一緒にワイワイ、ワクワクできる世の中をつくりたいと思っています。そのために、僕のロボット技術で、心と体と社会をつなげるデバイスをつくり、コミュニティの再生を図りたい。本当は、ただ、娘たちがニコニコで過ごせる未来になってほしいだけなんですけど、娘たちだけが幸せで、他はみんな不幸な世界なんてありえないじゃないですか。みんなが幸せになってはじめて娘たちの暮らす世界が幸せになる。だから、みんなまとめて幸せにしたいなぁ、と。でも、もし娘が「パパ、一緒にケーキ屋さんやろう」なんて言ってきたら、0.5秒後にはロボットづくりを辞めちゃうかもしれない(笑)。

※3 イヴァン・イリウチ/オーストリア出身の思想家・哲学者。著書『Tools for Conviviality』の中で、人間の本能や技術を喪失させる“便利な道具”を批判。“人間を活かす道具”の必要性を訴えている。

千葉工業大学 東京スカイツリータウン®︎キャンパスで未来を体験しよう!


東京スカイツリータウン®︎キャンパスのエリア1。
マクロスF に登場する『バルキリー VF-25F』の実物大模型。汚れなど細部まで再現されている。
高い運動性や機能性をもつ人型ロボット『morph』。
小惑星探査機『はやぶさ2』の原寸大模型。小惑星リュウグウに関する展示もある。

東京ソラマチの8階にある千葉工業大学 東京スカイツリータウン®︎キャンパスでは、千葉工業大学が有するfuRo、PERC(惑星探査研究センター)、STAIR Lab(人工知能・ソフトウェア技術研究エンター)の研究活動を通じて生まれた最先端の科学技術を誰でも無料で見学・体験することができる。ロボットの設計図を操作しながら細部まで鑑賞できる超巨大ロボティックスクリーン、大迫力の時空旅行が楽しめる300インチ3Dシアター、世界最大級の可搬重量性能を有した大型二足歩行ロボット『core』など、見どころもたっぷり。

その中で最も体験してほしいアトラクションが、西暦2100年の東京をイメージしたハイパーな都市空間の中を近未来の車いすレーサーで疾走するVRエンターテインメント『CYBER WHEEL X(サイバーウィルエックス)』だ。
2017年、デジタルテクノロジー企業のワントゥーテン(1→10)が初号機となるCYBER WHEELを開発。そのアップデート版となるCYBER WHEEL X(※ワントゥーテンとRDSの共同開発)で、fuRoは映像のアップダウンに連動するトルクチェンジャー部分の設計開発を担当。コースの起伏に合わせてハンドリム(駆動輪の外側に付いているハンドル)に掛かる負荷を変化させ、よりリアルな乗り心地を再現した。

「CYBER WHEEL Xは、パラスポーツ選手のトレーニングにも使用できる本格マシーンです。東京スカイツリータウン®︎キャンパスでは隣にいる人と対戦しますが、設定や環境次第では、遠く離れた場所にいる人や過去の自分、世界のトップレーサーと対戦することもできます。パラスポーツにあまり馴染みがないという人も、CYBER WHEEL Xをきっかけにパラスポーツに関心や興味を持ってもらえたらと思います。みんなでパラリンピックを応援できたら嬉しいですね」(fuRo副所長 大和秀彰さん)

子どもから大人まで楽しめる千葉工業大学 東京スカイツリータウン®︎キャンパスに、ぜひ一度足を運んで未来を体感してほしい。

PROFILE 古田貴之
1968年東京生まれ。千葉工業大学 常任理事・未来ロボット技術研究センター所長。各界から注目される日本屈指のロボットクリエイター。昨年、テレビ番組で『研究に没頭しすぎて1ヶ月で43kg痩せる天才ロボット博士』として取り上げられ、大きな話題に。文部科学省のユニバーサル未来社会推進協議会で副会長を務める。

fuRo
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(Future Robotics Technology Center)
学校法人直轄のロボット技術研究センターとして2003年に創設。「ロボット技術で人々の文明・文化の進歩に貢献する」をテーマに、企業や国と積極的に連携して、新たなロボット技術・産業の創造を目指している。
https://www.furo.org

千葉工業大学 東京スカイツリータウン®︎キャンパス
http://www.it-chiba.ac.jp/skytree/
※展示内容が変更されることがあります。お出かけの際はホームページで、開館時間・休館日をご確認ください

text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photo by Takeshi Sasaki