7月に入り初夏を感じると無性に行きたくなるのが、自然の中で過ごす解放感が魅力のアウトドアレジャー。中でもキャンプは芸人やタレントにも愛好家が多く、キャンプをテーマにしたTVアニメも人気を集めるなど、今熱いレジャーのひとつだ。そこで今回紹介したいのが、毎年八丈島で行われている「ユニバーサルキャンプ」。通常のキャンプとはひと味違った体験ができるという口コミが広まり、募集を開始するとあっという間に定員が埋まってしまうという人気のイベントだ。そんな新しいキャンプの形を提案しているNPOユニバーサルイベント協会の方々にお話を伺った。

新しい発見の宝庫? ユニバーサルキャンプの面白さって?


ダイバーシティ・コミュニケーション終了後の恒例の記念撮影。(写真は2019年以前のもの)写真提供:ユニバーサルイベント協会
ユニバーサルイベント協会のみなさん。左から常務理事/事務局長・守屋和彦さん 理事長・内山早苗さん 専務理事・高橋保之さん 実行委員・井上直人さん

――ユニバーサルキャンプin八丈島は、2005年から15年も続いていると伺いましたが、どんなキャンプなのでしょうか?

高橋さん(以下、高橋):ユニバーサルイベント協会が毎年八丈島で行っているキャンプです。最初は定員を設けていなかったのですが、口コミで広まってあまりに参加希望者が増えたことから、今は定員を120人と決めています。

内山さん(以下、内山):通常キャンプというと、家族や友達など気の合う仲間と楽しむことが多いと思いますが、このキャンプは参加者を募集していて、1人からでも参加できます。応募要項には特に制限を設けていないので、いろいろな方が参加してくれています。たとえばNHKの英会話の番組を監修している方。彼はイギリス人ですが、私たち日本人よりも日本の文化に詳しいんです。

井上さん(以下、井上):あるいは聴覚や視覚に障がいのある方もいますね。そういった初対面のいろいろな人と八丈島という自然豊かな素晴らしい場所で、料理をしたりスポーツをしたり、ダイビングをしたり、夜はお酒を飲んだりして2泊3日のキャンプを参加者全員で楽しみます。これまでの価値観が変わる多様な人々との出会いができるのが最大の特長です。初日と最終日ではみんな表情が違いますよ。すごく生き生きして帰っていかれます。

内山:障がいのある方が参加しているというと、障がいのある人がキャンプを楽しめるように手助けをしているボランティアだと思われがちですが、そうではありません。このキャンプのコンセプトは「みんな対等」です。楽しいし得るものがとても多いと評価いただいてリピーターもすごく多いんです。

高橋:障がいのない人は障がいのある人とどうやって接したらいいのか、最初はみんな戸惑った様子ですが、最終日には障がいの有無に関係なく仲良くなっています。キャンプが終わってからオフ会を開いて交流を続けている人たちもたくさんいますよ。仲良くなりすぎて結婚された人たちが何組もいるくらいですから。もちろん障がいのある人と、ない人が結婚したケースもあります。

守屋さん(以下、守屋):僕の妻は聴覚に障がいがあるんですが、出会いはこのキャンプです。

――出会いや発見がたくさんありそうですね。キャンプでは具体的にどんなことをするのですか?

井上:最初に班分けをするのですが、班の中には障がいのある人もいれば、障がいのない人もいます。初日は班のみんなで協力して食事を作ります。その他にも、全員で行うイベントの他、スノーケリングやヨガなど11のコースの中から自由に選択できるプログラムなど内容はかなり盛り沢山。その全てがダイバーシティ(多様性)を体験できる内容になっているのが特長です。


初めて会った人たちと最初の共同作業の夕食づくり。食事が終わるころにはすっかり打ち解けて。(写真は2019年以前のもの)写真提供:ユニバーサルイベント協会

“目隠し”や“筆談”でお酒を楽しんだり、とユニークなイベントが目白押し


最後は120人が使ったテント撤収。重いテントは車いすの人の膝の上、後ろでサポートするのは見えない人! 知恵が詰まった多様な仲間たち。(写真は2019年以前のもの)写真提供:ユニバーサルイベント協会

――障がいのがある人もスノーケリングなどをやるのですか?

内山:自由選択ですが、目が見えない人や耳が聞こえない人、電動車いすの人がスノーケリングを選ぶこともあります。手話が使える聴覚障がい者は水中でも手話を使って会話ができますから困ることはないですし、視覚障がいの方も水の温度や流れなど、全身で海を感じて楽しむことができるんですよ。他にも全盲の女性でとても料理が得意な人がいて、見える人よりも上手にみじん切りをするんです。見えないから、聞こえないから、歩けないからできないだろうというのは、障がいのない人の勝手な思い込みですね。

高橋:夜には、目隠しをしてお酒や会話を楽しむ「バー・イン・ザ・ダーク」や、音声の代わりに身振り手振り、筆談で会話する「サイレント・バー」といった場を設けます。目隠しをすると見える人はグラスに上手にビールを注げないのに、視覚に障がいのある人が、きれいに泡をたてて注いだりするんですよ。

内山:障がい者のサポーターとしてキャンプに参加したいというお問い合せをよくいただくんですが、全てお断りしています。このキャンプにサポーターはいりません。参加者はみんな対等で、誰かができないことがあれば、できる人がやります。障がいのある人にもできることはたくさんあって、障がいのない人がサポートしてもらうこともいっぱいありますから。

そもそも、ユニバーサルキャンプはなぜ生まれたのか?

ユニバーサルキャンプが始まったのは2005年。まだダイバーシティという言葉は一般的でなかったが、ユニバーサルデザインを取り入れた商品が世の中に出始めた頃だった。しかし、ユニバーサルデザインの商品について内山さんが障がいのある人たちに聞いてみると「使いづらい」「なんでこのデザイン?」という意見が多かったそうだ。そんな時、たまたまユニバーサルデザイン協議会が立ち上がり、内山さんは参加している若いデザイナーたちに「障がいのある友達はいる?」と聞いてみたという。結果はノー。

「彼らはたくさんいるモニターの声を参考にデザインをしている、って言うんです。その時にはじめて、なるほど鏡越しに見ているからこういうデザインになるのねと気づいて、彼らにそのことを話しました」(内山さん)

    
八丈島の小学校を借りて行われるユニバーサル盆踊り。婦人会の指導で皆で皿踊り。地元住民も参加する一大イベントになっている。(写真は2019年以前のもの)写真提供:ユニバーサルイベント協会

問題を指摘されたデザイナーたちから「確かにそうかもしれないけれど、じゃあどこへ行けば障がいのある人と友達になれるんですか?」と聞かれた。そこで内山さんは、「どこかでユニバーサルデザインに関わる人と、障がいのある人を集めて友達になる機会を作れないだろうか」と考えた。

その後、たまたまユニバーサルイベント協会の会員企業が八丈島に土地を持っているという話を聞いた内山さんは、みんなでキャンプをすることを思いつく。この話を聞いた周囲の人たちは、最初は「危険だから難しい」と難色を示していたそうだが、内山さんの説得により、2005年に第1回のユニバーサルキャンプが開催された。参加者は企業研修枠で来る人たちと、募集を見て集まってくれた一般枠の人たち。障がいのある人が1人で応募して参加するケースも少なくないという。こうした人たちが、年齢や性別、国籍、企業名や役職、障がいのあるなしに関係なくみんなで協力しあってキャンプを楽しんできた。八丈島でのキャンプは台風などの影響で中止になったことが2度あるものの、その時は都内でデイキャンプを実施。キャンプは口コミで広まり参加企業も増えて、現在までずっと継続されてきた。

また八丈島の島民たちも、毎年行われるこのキャンプを楽しみにするようになったそうで、2010年からは、八丈町との共催事業となった。第1回目からプログラムの中にユニ盆と呼ばれる地元住民も参加する盆踊りが組み込まれるていて、まさに地元密着の恒例行事となっている。

人気の秘密は、通常のキャンプでは得られない“新体験”と“気づき”


3日目は、各班で振り返りを行う。3日間の各自の気づきを話し合い、フラッグに書き込み発表後、班ごとの記念撮影。(写真は2019年以前のもの)写真提供:ユニバーサルイベント協会

どうしてここまで、ユニバーサルキャンプが人気となって、多くの人を惹きつけるようになったのか。障がいのある人をサポートするキャンプとはどこが違うのだろうか。

井上:障がいのある人と接したことがない人は、このキャンプを体験すると「そうか、そういう風に考えればいいのか」という気づきがたくさんあるようです。それをきっかけに、生活や仕事、人との関わり方が変わるというのも、このキャンプの魅力じゃないでしょうか。

内山:ある時、企業研修で参加した人が初日に私のところにきて「僕は仕事でユニバーサルデザインをずっとやってきているので、よくわかっています」と言ったんです。でも帰る時になって彼が私の前にきて「ごめんなさい、僕はユニバーサルデザインを全くわかっていませんでした。これからは仕事のやり方を変えます」と深々と頭を下げたんです。実際に彼は本当に仕事のやり方を変えたそうです。ユニバーサルキャンプは、そういう気づきができる場なんですね。

高橋:キャンプの2日目には地元の小学校をお借りして行う「どっぷりコミュニケーション」というプログラムがあります。5つの部屋にそれぞれ「主人」がスタンバイして、参加者が部屋を巡って主人に質問をするんです。主人は聴覚や視覚、肢体などに障がいのある人なんですが、普通だったら、こんなことを聞いたら失礼かなと思うようなことでも聞いていいんですよ。

内山:たとえば家族のことや仕事、恋愛の話だって聞いていいんです。聞かれた側は答えたくなければ答えなくていいんですが、他ではできないような濃い話を聞くことができるということで好評です。

高橋:ユニバーサルデザインを勉強してきた人たちも、そういう一歩踏み込んだ話をすることで、自分の考えややり方が間違っていたということに気づかされるんでしょうね。

内山:今まで保護しなくてはいけないと思っていた障がいのある人が、実はひとりで海外旅行に行ったり、いろんなことに果敢にチャレンジしたりしていることを知って、逆に励まされる人もたくさんいますよ。

守屋:障がいも人の特性や個性のひとつなんですよね。だから、このキャンプに参加すると、障がいのあるなしに関わらず、お互いの個性や特性を認め合えるようになるんです。たとえば、自分の性格に悪いところがあっても相手が認めてくれる。お互いに認め合うから付き合えるということに気づかされます。私自身もこのキャンプに参加するようになってから、障がいがあるとかないとかではなく、どんな相手でも一人の人間として見ることができるようになりました。

ダイバーシティの本質がそこにある

同協会では、企業研修の一環としてユニバーサルキャンプと同じようなプログラムをオフィスや研修室で行うこともあるそうだ。もちろん研修室で行っても多様な特性のある人から直接聞く話は、大きな気づきとインパクトをもたらすことはできる。しかし、キャンプのようなあえて不便な環境の中で、寝食をともにしながら、一人ひとりがお互いの尊厳を認め対等な関係を築き、自立・自律をめざすことは、本当の意味でのダイバーシティを体験できる貴重な機会となっている。

残念ながら、2020年9月に実施予定の「第16回ユニバーサルキャンプ in 八丈島」は、新型コロナウイルス感染症対策のため中止となってしまったが、ユニバーサルイベント協会では、オンラインでの手話サークルなど、新しい形式でのイベントの実施も模索中とのこと。ユニバーサルキャンプは一般参加のほかに企業研修としての利用もされているようなので、来年の再開を楽しみに待ちたい。

ユニバーサルイベント協会
http://u-event.jp/

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Kazuhisa Yoshinaga