コロナ禍で浸透したテレワーク。メリットが多い一方、通勤時間がなくなったことで運動不足になったり、PC画面を見る時間が増えて猫背になったという人が増えているといいます。猫背は見た目がよくないだけでなく、肩こりなどを引き起こす原因にもなるのだそう。そこで健康的で美しい姿勢を手に入れるためのストレッチをご紹介します。

その肩こり、原因は呼吸の可能性も

今回ストレッチを教えてくれたのは、両国東口クリニック附属のメディカルフィットネス「T’s Energy」の片岡秀人さん。メディカルフィットネスとは、医師、管理栄養士、パーソナルトレーナーがサポートしてくれる施設のこと。片岡さんはそのT’s Energyでパーソナルトレーナーを務めていますが、以前は姿勢改善専門のジムでトレーナーをしていた、姿勢のプロです。

――テレワークで会議などもすべてオンラインになったことで、PCを見る時間が増えたという人が多くなっているようです。そうしたことは体にどんな影響がありますか?

片岡秀人さん(以下、片岡):日々PCに向かって仕事をしている方々の体にはいくつか特徴があります。まず胸の部分は胸郭と言って骨で囲まれているので、硬くなりやすい傾向がありますが、現代人の多くは、その胸のかご(胸郭)が硬くなっているということ。またそれに対して、お腹の周辺は背骨1本で支えているため、不安定になりやすく、腰が反ってしまう「反り腰」と言われる状態になりやすい傾向があります。

――そうした肉体的な特徴は健康に影響があるのでしょうか?

片岡:胸のかごが広がらないと呼吸が浅くなり、肩こりや腰痛を引き起こしてしまうことがあります。たとえば全速力で走った後など、息が上がった状態では、肩が上がった呼吸になりますよね。胸のかごが硬い方は、日常の呼吸の時にも、本来の呼吸筋以外の筋肉を呼吸に使ってしまうことで、無意識に肩が上がっているケースが多く見られます。私たち人間は1日に2万2000回くらい呼吸をしていると言われていますが、胸のかごが硬い方は、2万2000回も肩を上げて呼吸をしているということです。毎日2万2000回もそんな呼吸をしていれば、肩もこってしまいます。

――胸のかごが硬くなっているのを改善する方法はありますか?

片岡:肩こりはマッサージで症状を軽くすることもできますが、根本的に改善するためには、セルフコンディショニングを習慣化することをおすすめします。硬くなってしまっている胸のかごを緩め、あわせて反り腰を改善することが肩こり緩和に繋がります。

三日坊主を防ぐために、まずは姿勢のセルフチェックを

今回、姿勢改善のために片岡さんに教えていただくセルフコンディショニングは、自宅でもできるストレッチ4種類。たった5分もあれば全部をこなすことができる簡単なものです。ただ、簡単と言っても運動習慣のない人は三日坊主になる可能性もあります。そこで片岡さんがおすすめしてくれたのが、自分の体のセルフチェック。

片岡:ダイエットでは、日々の体重を記録するとうまくいく方が多いですが、運動も同じです。毎日セルフチェックをすることで、変化を目で見て確認したり、ストレッチの効果を感じたりできるので、モチベーションが上がります。その行動のメリットを感じずに、習慣化することはなかなか難しいです。今回ご紹介するエクササイズなども、効果や身体の変化を自分自身で感じることができれば、自然に続けたいと思えるはずです。

■正しいセルフチェックの方法

まず、上記の写真のように壁に背中をつけます。その時、以下のような状態の場合は、胸のかごが硬くなっているか、反り腰の可能性があり、いわゆる猫背の可能性があります。

・頭が壁につかない
・頭は壁につくが顎が上がってしまう
・腰と壁の間が手のひら2枚以上あいてしまう
・肩と壁と間が手の指を横にして3本以上あいてしまう


腰と壁の間は手のひら1枚くらいが理想
肩と壁の間は指を横にして2.5本以下が理想

このセルフチェックをストレッチの前と後に行ってみましょう。早い人だと1回目から効果を実感できるそうなので、モチベーションアップに繋がりそうです。

猫背を改善する4つのストレッチ

1.ソラシックツイスト
期待される効果:胸のかごの柔軟性向上、巻き肩の改善、肩こり改善

まず基本姿勢を作ります。頭を枕に乗せて横になり、両足を重ねて軽く曲げたら、体の上側の手を側頭部に置き、下側の手で膝を押さえます。

次に目線を後ろに向けながら胸を開くようにして身体をねじります。ねじったままの状態で呼吸を5回ほど繰り返します。ねじった時に膝が起きないように反対の手で押さえましょう。左右3回ずつが目安。この時、体をねじらず、手だけが後ろに行ってしまうと、肩に負担がかかるので、しっかりと体をねじるようにします。

慣れてきたら、側頭部に置いていた手を伸ばします。可能であれば手を地面につけますが、無理をしない程度に徐々に慣らしていきましょう。寝る前に布団の上などで行い、習慣にするのがおすすめです。

2.ロールアップロールダウン
期待できる効果:背骨の柔軟性向上、反り腰改善、腹筋

両足を伸ばして座ります。手は「前へならえ」の姿勢。この時、肩があがらないように首を長く伸ばすイメージで。これが基本姿勢です。

基本姿勢から上体を後ろに倒していきます。この時、両手も一緒にあげていきます。体を倒すスピードは背骨を下から1つずつ床につけていくイメージで、できるだけゆっくりと。

手が万歳の形になるように全身を伸ばして完全に体を倒します。

今度はゆっくりと体を起こします。この時、手で反動をつけないように、背骨を1つずつゆっくりと地面から剥がしていくようなイメージで起き上がります。

片岡:反動をつけずに起き上がれないと腹筋が弱いと考えがちですが、実は腰の背骨が硬い場合が多いんです。反り腰の方もできないことが多いですね。

1日5回を目安に習慣化してみましょう。起き上がれない場合はゆっくり体を倒すだけでもOK。

3.キャット呼吸
期待できる効果:背骨の柔軟性向上、反り腰改善

文字通り猫のような姿勢で呼吸をするストレッチです。まず手が肩の真下、膝が股関節の下にくるように四つん這いになって基本の姿勢をとります。

そのまま息を吐きながら背中と腰を丸めます。しっかり息を吐ききったら、その状態をキープしたまま息を吸います。腰と背中を丸めたまま呼吸を5回繰り返します。

片岡:背中だけ丸めてしまう人が多いのですが、腰もしっかり丸めるよう意識してください。壁に背中をつけた時に、腰の隙間があった方=反り腰の方には、是非やっていただきたいストレッチです。

4.壁バンザイ 期待できる効果:胸の背骨の柔軟性向上、肩こり改善

壁に背中をつけるようにして、あぐらをかき、両手を前に出します。この時、できるだけお尻を壁につけて、腰と壁の間に隙間ができないようにします。


腰はできるだけ壁に近づけるようにします

そのままバンザイをして両手を壁につけます。体が硬い人は壁に手がつかない場合がありますが、無理をせず、上げられるところまででOK。また、手をあげた時に腰が反ったり、肩や顎が上がったりしないように注意。肩を下げて首を伸ばすイメージで。

壁に手をつけたまま、肘が90度になるまでゆっくりと手を下ろします。この時も腰が反らないように注意を。

もう一度、両手を上まで伸ばします。ここまでが1セットで、5回を目安に繰り返しましょう。

片岡:肘と手の甲を壁につけるようにしてアップダウンする動きは、肩こりのある方におすすめです。壁さえあればどこでもできるので、仕事の合間でも取り入れられます。

4つのストレッチを行ったら仕上げに事前に行ったのと同じセルフチェックを行いましょう。ストレッチを行う前よりも壁に肩や腰が近づいていたら、効果を実感できて、やる気アップにも繋がります。

よくある勘違い。いい姿勢を意識して、胸を張るのはNG


今回、お話を伺ったメディカルフィットネスT’s Energyのパーソナルトレーナー片岡秀人さん

ここまで、自宅でも簡単にできる簡単なストレッチを教えていただきましたが、日常生活の中でも気をつけるべきこと、できることがあるそうです。

―――いい姿勢を心掛けるときに注意することはありますか?

片岡:子どもの頃に、親御さんから胸を張りなさいと姿勢について注意された経験がある方がいらっしゃるかと思います。しかし、これは間違いで「胸を張る」は意識してはいけないことです。胸を張るとパッと見、姿勢が良くなったように見えるのですが、硬くなってしまっている胸は動かず、腰を反っているだけで、かえって反り腰を助長することになります。反り腰はお腹の安定性を失う原因となり、猫背を引き起こすきっかけにもなりますから「胸を張る」は忘れてください。

――では、正しい姿勢はどのようにして作ればいいでしょうか?

片岡:姿勢は日頃の体の使い方や習慣の結果ですので、意識だけで正しい姿勢を作るのは正直難しいです。今回ご紹介したエクササイズなどをすることで、自然と体が変わることが理想です。ただ椅子に座る際には、深く腰掛け、胸を張るのではなく、頭のてっぺんを糸で引っ張られているような状態をイメージすることがおすすめです。その時、顎があがらないように注意してください。また、簡単な意識としては、口呼吸の方は鼻呼吸になるように改善することです。口呼吸の方は、顎が後退することで気道が狭くなるので、呼吸がしづらくなり、気道を広げようと顔を前に出すということを無意識にしてしまうので、猫背に大きく影響します。 自分が口呼吸か鼻呼吸かわからない場合は、舌の位置がどこにあるかでチェックできます。舌は本来口を閉じた状態では、上顎の前歯の後ろのところに当たっています。舌でタンと音を鳴らすときに置く場所ですね。ところが舌が下顎、または口の中の真ん中にあるという方は、口呼吸である可能性があります。口呼吸は姿勢に影響するだけではなく、ウイルスが身体に入りやすくなるなど、百害あって一利なしですから、意識して鼻呼吸に切り替えるようにしたいですね。

呼吸が姿勢に関係しているとは驚きでした。人生100年時代と言われていますが、年をとったからと言って、途中で体を新しくすることはできません。片岡さんは「体は替えのきかないものだからこそ、日頃のメンテナンスが大事」と、セルフコンディショニングの習慣化の重要性を語ってくれました。コロナ禍で健康の重要性が再認識されている今こそ、しっかりと自分の体に向き合って、健康で美しい体づくりを始めてみませんか。

【教えてくれた人】 片岡秀人さん
管理栄養士兼パーソナルトレーナー。姿勢改善専門のジムでトレーナーや管理栄養士として保健指導やセミナー講師として活動を行なってきた。現在は、痛風・糖尿病専門外来である両国東口クリニック付属のメディカルフィットネスT’s Energyで活動。

協力:T’s Energy
医師、パーソナルトレーナー、管理栄養士が総合的に健康のサポートをするメディカルフィットネス。
痛風、腎臓病、生活習慣病の改善を望む方やダイエット、パフォーマンスアップまで幅広く指導。
https://www.ts-energy.jp/

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by by Keiji Takahashi,Shutterstock