港区立赤坂小学校では、東京2020大会によるオリパラ教育推進をきっかけに取り入れられた5人制サッカー(ブラインドサッカー)の体験から、ユニバーサルデザインや共生社会についての特別授業に力を入れている。
そんな中、開幕100 日前の2021年5月、同校でパラ陸上の佐藤友祈選手のオンライン特別授業が行われた。その時子どもたちの前で誓った東京2020パラリンピックでの「金メダル獲得」の約束を見事に果たした佐藤選手が、2022年3月7日、赤坂小へ来校。「みんなに、本物の金メダルに触れて欲しい!」という佐藤選手の希望で、子どもたちがメダルを胸にかけ、その重さを感じた。文字通り「夢を実現」させた佐藤選手から、子どもたちは何を学んだのか? 教育において、パラアスリートとの出会いは子どもたちに何をもたらすのか? 来校の模様と共にお届けする。

子どもたちの印象に残った、佐藤選手の「プレッシャーを楽しむ」という言葉

前回、「夢をかなえるために」をテーマに特別授業を行った佐藤選手。そのときに語られた大きな夢であり、生徒たちと交わした東京パラリンピックでの「金メダル獲得」の約束。実際競技にのぞむにあたり、押し寄せてくるプレッシャーをどのように乗り越えたのだろうか?


東京2020パラリンピックの陸上競技で二冠を達成した佐藤友祈選手

「目標は金メダル!と言った以上、結果で示さなくてはいけないので、当然プレッシャーはあったんですが、自分自身、試合前は【プレッシャーを楽しむ】ということをすごく大事にしています。プレッシャーや緊張感がないと、楽しくないんですよね。100%以上の力を発揮するためには、まず、緊張している自分を受け入れる。その上で緊張感を楽しみつつ、みんなの想いを背負っていくんです」

と、佐藤選手ならではの向き合い方を教えてくれた。また、競技前日は緊張しまくりだったが、ある行動をすることで緊張を乗り越えたそうだ。

「フライングして失格になったらどうしようとか、前日はネガティブなことを考えがちです。けれど、ネガティブなことを自分で貯め込まず、まわりのトレーナーやスタッフにあえて口に出して言っていました。レース当日までにネガティブな感情などを、口から体の外に吐き出して、一回スッキリさせるんです」。

そのスッキリした状態に、今まで誰よりも練習してきたことを脳裏に蘇らせ、集中していくという。

「自分はこのレースに向けて誰よりも頑張ってきた、誰よりも練習してきたんだと、口に出して気持ちを高めていく。そうするといい感じに緊張感のバランスを保つことができるんです。そうやって自分が勝つ可能性をどんどん高めていきました」と教えてくれた。
また、生徒からの質問コーナーでは、金メダルを獲得したときの気持ちを問われ、「まわりでサポートしてくれた人、応援してくれたみなさんが喜んでくれているだろうなと。自分がやりたくてやっていることを応援してもらえることに、本当に感謝の気持ちでいっぱいで。これほど幸せなことはないなと感じました」と語った。

子どもたちが感じた金メダルの重み。大きな夢を叶えた佐藤選手から受け取ったメッセージとは?


特別授業の最後に、児童代表の二人が佐藤選手へ贈ったメッセージでは、ユニバーサルデザインを勉強したことや前回のオンライン授業から受けた影響、佐藤選手の目標への取り組みや東京パラリンピックでの活躍を見て感動したことなどが語られた

前回の佐藤選手の特別授業の後、クラスでは東京パラリンピック、そして佐藤選手の応援に大いに盛り上がったという。実際、子どもたちは佐藤選手からどんな影響を受けたのだろうか。今回、佐藤選手へ言葉を贈った二人の児童に話を詳しく聞いてみた。


インタビューに応えてくれた前澤さん(左)と中山さん(右)

ーーパラスポーツは佐藤選手との出会いをきっかけに興味を持たれたそうですが、東京パラリンピックの期間中、応援で盛り上がったそうですね!今日、金メダルに触ってみてどうでしたか?

前澤:そうですね。パラスポーツはそんなに知らなかったのですが、佐藤選手の授業で、知る機会になりました。

中山:僕の家では家族みんなテレビにかじりついてずっと見ていました。スポーツの力ってすごいなと、興奮しました! 今日メダルを手にとったときに、これが世界一練習をして、一番の成果を出した人の、たくさんの感動とか、人々の支えが集まったのが、この金メダルなんだなと思いました。

前澤:僕も中山さんと同じように思いました。金メダルを獲る人は、悔しい思いをたくさんしてきて、それに向かって努力をしてきた人なんだなと感じました。

ーー前回と今回の特別授業で佐藤選手の話を聞いて、影響を受けたことや自分自身の変化はありましたか?

中山:「目標をすぐ口にする」ということが一番印象に残っていて、まだ何もしていないところから、自分はできるんだと言える勇気がすごいなと思いました。僕もそれに倣って、勇気を出して一歩踏み込んでみようかなと思うことがたくさん増えました。これからも、たとえ誰かに笑われたりしても、目標に向かって自分はやるんだという強い意志でやっていきたいなと思います。

前澤:プレッシャーをいい方向にもっていく、ということがすごいなと思いました。僕もそういった状況があるので見習いたいです。実際に変わったことは、目標を達成したときに、次の目標をすぐに作って、それを達成しようと頑張ることが増えました。スポーツではないですが、僕は受験をする予定なので、同じように頑張っていきたいと思います。
他にも、前回の特別授業後のクラスでは「すごかった!」と口にする生徒が多かったという。赤坂小では、授業の一環で車いすバスケットボールや車いすテニスの体験を行ったこともあり、子どもたちは車いすの操縦がどれほど難しいかわかっているのだ。それゆえ、佐藤選手の努力が凄まじいものであることを肌で実感したのだろう。

パラアスリートとのリアルな交流は、多様性を肌で感じて学ぶ、絶好のチャンス


港区立赤坂小学校の齋藤恵校長

齋藤恵校長は、今回のような特別授業は今の時代に合っていると語る。

「多様性を認め合う時代の中で、そうは言っても障がいのある方がどういう生活をしているのか、どういう競技をやっているのか、子どもたちはほとんど知らないわけですよね。そうなると、まずは“知る”ということが第一歩です。そういう意味で、パラスポーツやパラアスリートを通して知っていくことは、入口としてすごく入りやすかったと思います」

また、佐藤選手が再度来校し、実際に夢をかなえた姿を見て、交流することは子どもたちにとって非常に意義のあることだとも言う。

「例えば街中で障がいのある方とすれ違っても、今回のようにご本人にいろいろと質問させていただくのは難しいですよね。パラスポーツのことをよく知る、よく理解できる機会を持てるのは学校ならではだと思います。そして実際に佐藤選手に来てもらい、さらに次を目指している姿を見せてもらうことは、本当にありがたいことです。学校という場を活用して、今後もこういう機会を設けられればいいなと思います」(齋藤校長)


5年生担任(当時)の関口由美子先生

また、今回の特別授業は担任の関口先生が、<町にはいろいろな人がいて、お互いを認め合い、助け合っていける世の中にしていく>ということを趣旨に企画したという。

「一般的に、障がいのある方に対して、かわいそうだから手伝わなくてはいけないという感覚を持っていることが多いと思うのですが、でもそれは人として違うなと思うんですね。そこで今回のように佐藤選手をお迎えして実際にお話を伺うことで、分かることがたくさんあります。例えば、人生にはいろいろな困難がありますよね。山あり谷ありだし、そして夢もある。うまくいかないときは自分に言い訳をするし、すぐに諦めたりしがちです。そんな中で、障がいのある方が目標に向かって努力をしている姿を見ること、話を聞くことは、自分の人生にとって大きな意義があると思います。実際に前回の特別授業の後、子どもたちから、街中で車いすに乗っている方に声をかけてみたい!という声も上がりました。そういう気持ちの変化も見られたのは本当によかったなと思いますし、児童はもちろん教員である私自身も、人間として大事なことを教わったと思います」(関口先生)

子どもたちとの「金メダル獲得」の約束を守り、再度特別授業を行った佐藤選手。トップアスリートの貴重な体験談と熱い想いを聞くことは、生徒たちも大いに感じるものがあったはずだ。東京2020パラリンピックでの金メダルだけでは満足せず、「パリ、ロサンゼルス、ブリスベンと3大会同じ種目で金メダルを獲得し、記録を更新し続けることを目標にしています」と、今後も前へ進み続けると宣言した。そんな佐藤選手との交流は、生徒たちにとって各々が目標をかなえるための原動力となる貴重な体験となったことだろう。

text by Jun Nakazawa(Parasapo Lab)
photo by Yoshiteru Aimono