今の大学生は、今の社会や未来に対して、どんなことを考えているのだろうか? 近年、企業や自治体が共生社会実現に向けてさまざまな取り組みをしているが、実は大学生のなかにも、自分たちの手でよりよい未来を作っていこうと自主的な活動を行っている方々がいる。共生社会を作るためにさまざまな活動をしている上智大学の学生プロジェクト「Go Beyond」の皆さんに、普段はなかなか聞くことができない、彼らが思い描く理想の社会について、お話を伺った。

2人の学生が立ち上げた、共生社会実現を目指す学生グループ。4年後、総勢80名以上が所属するほどに!


2022年2月に行った出張授業。この時は小学4年生を対象にパラスポーツと障がいに関する講義を行った

今回、お話を聞かせてくれたのは上智大学3年生の皆さん。Go Beyondの総務セクションリーダーを務める布廣幸太郎さん、次世代育成カテゴリーリーダーの金成桃さん、大学連携セクションリーダーの酒井美帆さんの3人だ。Go Beyondとは、東京2020オリンピック・パラリンピックをきっかけに、共生社会実現を目指して、2018年6月にふたりの上智大学生が立ち上げた学生グループ。創立から4年がたった現在、その活動の主旨は多くの学生の共感を得て、80名を超える上智大生が所属し、さまざまな活動をしている。

その活動は多岐にわたるが、そのひとつが「出張授業」。文字通り小学校などに出張し、「多様性理解」に関する授業やワークショップ、ボッチャ大会などを行い、共生社会とは何か、実現するためにはどうしたらいいのかを考えるきっかけを作っている。


上智大学3年、Go Beyondの次世代育成カテゴリーリーダー、金成桃(かなりもも)さん

金成さん(以下敬称略):私がリーダーをしている次世代育成カテゴリーのミッションは、次世代を担う子どもたちに「一人ひとりが持つ個性」や「共生社会」について考えてもらうきっかけを作ることです。でも、共生社会の実現は大人でも難しい課題ですし、私たちもきちんとわかっているわけではありません。そもそも正解があるものではありませんから、子どもたちが将来、「こういうことを言ってたお姉さんたちがいたな」ということを、なんとなく覚えていてくれて、共生社会を作る上での土台になってくれたらいいなと思っています。

Go Beyondではその他にも、他大学と連携し、東京2020大会を1回のイベントとして終わらせず今後もパラスポーツを日本で日常化させるため、学生が集まるスポーツ祭「パラ大学祭」を開催する。また「心に寄り添う」をテーマに現役アスリートやパラリンピアンの協力のもと、中学生から大学生を対象とした参加型イベントを行ったりしている。

「共生社会の魅力にどっぷり浸かってる感じ(笑)」


上智大学3年、Go Beyondの総務セクションリーダー、布廣幸太郎(ぬのひろこうたろう)さん

Go Beyondの活動は大学公認ではあるものの、授業とは関係のない、あくまでも自主的なものだ。なぜ彼らはこうした活動を積極的に続けているのだろうか。

布廣:僕は生まれつき障がいがあって車いすに乗っています。子どもの頃、体育の授業はほぼ見学でしたし、たとえ参加できたとしても邪魔になるだけで、やる意味がないと思っていました。障がいがある僕にとって、スポーツは見るものだと勝手に思い込んでいた部分があったんです。でもGo Beyondに入って、ルールを工夫すれば、障がいがあってもスポーツを楽しむことができるということを知ってから、それまでの僕は自分で挑戦する機会や楽しむことに制限を作って、自分を殻に閉じ込めてしまっていたことに気付いたんです。Go Beyondには、そういった思い込みや偏ったものの見方を変えてくれる機会がたくさんあって、それが魅力のひとつだと思っています。

と、布廣さんは自分自身の人生観を大きく変えてくれたGo Beyondの活動について語ってくれた。また酒井さんと金成さんも義務や正義感といったことではなく、純粋な「楽しさ」が原動力になっているという。


上智大学3年、Go Beyondの大学連携セクションリーダー、酒井美帆(さかいみほ)さん

酒井:私は小学生の頃は体育の授業でうまくできなくて泣いてしまうほどスポーツが苦手でした。でも、Go Beyondに入って一番最初に車いすの子どもたちと一緒にボッチャを体験したら、すごく楽しかったんです。体力がそれほど必要ないスポーツということもありますが、経験がない私でも対等に戦えるし、年齢や体格、性別など関係なく参加したみんなが喜んだり、悔しがったり、応援したりできる。それが嬉しくて『パラスポーツって楽しいんだな』と実感し、そこからもっとパラスポーツや共生社会について勉強したいと思うようになりました。
そして、学んでいくうちに、それを多くの人に広めていきたいという気持ちがわいてきて、大学連携セクションで他大学の学生と関わって、自分が学んだことを伝えたり、逆に相手から学んだりしてきました。この経験は自分にとってすごく大きなことだったので、今はセクションのリーダーとして、パラスポーツの楽しさや学びを、もっともっと広げていきたいと思っています。

金成:私は大学に入った時にはすでにコロナ禍で1年生の時はオンラインでの活動が主流でした。でも同期も先輩もみんな何かに挑戦したいとか、何かを変えたいとか、こういうものを作りたいといった熱意に溢れていて新鮮に感じたし、刺激されもしました。ちょっと甘えているかもしれませんが、こういう人たちに引っ張っていってほしいというか、一緒に時間を過ごさせてほしいと思ったんです。
2年生になってから対面で活動することができるようになって、パラアスリートの方に取材をさせていただいたり、自分自身がパラスポーツをするようになったりすると、どんどんその楽しさにはまっていきました。見るだけでも楽しいですが、自分も参加することができるパラスポーツは、勝ち負けももちろん大事だしめちゃくちゃ盛り上がるんですけど、それだけじゃなくて、どう工夫したらみんなで楽しめるかなどを考えるのが楽しいんです。
例えば高校生までの体育だったら、運動部の子と文化部の子って、体力や技術の差が全然違ってしまうので勝負にならないことがありました。でもパラスポーツの場合、そこまで大きな差はなくて、みんなで一緒に作戦を練って、スポーツが得意ではない自分でも勝つこと、楽しむことができるのが、すごく面白くて。自分自身がどっぷり浸かってるっていう感じです(笑)。そうした楽しさが私がGo Beyondの活動を熱心にできる理由だと思います。

共生社会の実現は「義務」から「したいこと」へ


2021年12月に行われた「スポーツが世界をつなぐ一週間〜東京、北京、そして未来へGo Beyond(通称:オリパラウィーク)」。オリジナルのスポーツを考案し参加者全員で楽しんだ

共生社会の実現という言葉が世の中に出始めたころ、それは「しなければならないこと」「するべきこと」といった義務に近いニュアンスで語られていた。しかし、イマドキの大学生にとって共生社会について考えること、実現のために行動することは「したいこと」「楽しいこと」「意義のあること」へと進化しているようだ。

2021年の12月にGo Beyondが開催した「オリパラウィーク」というイベントで、酒井さんがリーダーを務める大学連携セクションは、オリジナルスポーツを作ってみんなで楽しむというイベントを行った。酒井さんは、準備期間を含め改めてパラスポーツについて、共生社会について考え、みんなで協力することができた有意義な体験だったと振り返る。

酒井:イベントにはバイト先の先輩や父など、Go Beyondとは全く関係ない人たちも来てくれました。その人たちが「すごく楽しかった」とか「学びになった」とかポジティブな感想を言ってくれたことがとても嬉しかったです。父とはそれ以降もそうした話をするようになり、最近も「またイベントがあったら呼んで」と言われました。自分たちが頑張って作り上げたものが、ほかの人に影響を与えることができたんだなっていうのを感じられたことが、すごく良かったです。


小中学校での出張授業やメンバー同士の交流でボッチャ大会をすることも

布廣:共生社会を実現しよう、作り上げようと言うと、何か大きなことをしなければいけないと思いがちですが、そんなことはないと僕は考えています。酒井さんが言ったように、学生が主催するイベントでも、それまで共生社会に関心がなかった人を巻き込んで楽しかったと思わせることはできる。それが共生社会への1歩なんじゃないでしょうか。大きなことをしなくても、小さな1歩を踏み出すところから、共生社会に近づけていくことができるはずです。
たとえば僕も12月のイベントに僕が所属しているGo Beyondとは別のサークルの友達を呼んでボッチャ大会に参加しました。友達はそれまでボッチャ自体を知らなかったし、パラリンピックにも興味がなかったようですが、それをきっかけにボッチャが楽しいということを知ってくれて、サークル内でもボッチャの話をするようになったり、もっとやってみたいと言ってくれたりしました。そうした小さな出来事から始めるということが大事なんじゃないかと僕は思います。

また、彼らは活動を通して今まで自分が知らなかった世界を知り、結果として自分たちの視野を広げることができているとも言う。


「オリパラウィーク」では、競技体験ブースを学内に設置し、パラスポーツは誰もが楽しめるという体験を通じて共生社会を体感してもらった

金成:東京2020大会が開幕する1年前に、私が初めて企画から参加するオンラインのイベントを開催しました。その時に難民選手団について考える機会があったんです。それまでも難民選手団の存在はなんとなくは知っていましたが、特別注目すること、思いを寄せることもありませんでした。でもイベントのためにいろいろと調べたところ、さまざまな理由で出自を明かせない人たちがいることを知りました。私は福島県の出身なのですが、原発事故の影響で出身地を言えないという子どもたちと共通点を見いだし、そうした深刻な状況がこの世界にはまだまだあることを知って複雑な思いになりました。グローバル社会になっても、実は自分の周りのことだけにしか見えていなかったことを自覚して視野が広がったというか、勉強になったなと思います。

その後、コロナ禍で東京2020大会の開催自体が危ぶまれた時も、Go Beyondは活動を続けた。メディアでは「開催すべきではない」という声も聞かれ、彼らは複雑な思いでその期間を過ごしてきたと言う。

金成:テレビなどの報道を見ると辛くなることもありましたが、頑張れたのは支えてくれる家族や、顧問をしてくれている大学職員の方がいるからだと思うんです。共生社会を作るという大きな理念があっても、それを実現するのは難しいかもしれません。それでも、人と人との直接的な関係を通してまずは少しずつ大学内に広めていって、大学から日本中に広げていけたらいいなと思っている最中です。いずれは私の地元の福島やメンバーの地元にも行って共生社会に関する授業をしたいなという夢を持っています。

イマドキの大学生が考える理想の社会とは?


2019年9月、ラグビーの山田章仁選手(左から2番目)、車いすラグビーの壁谷知茂選手(左から3番目)と、ラグビー日本代表分析スタッフの浜野俊平氏(右)を招いてラグビートークショーを実施。共生社会実現のために大学生として何が出来るのかなどを考えるきっかけに

共生社会の実現は、それ自体が目的ではない。共生社会が実現することによって、世界中のあらゆる人たちが幸せになれることが真の目的であるはずだ。では、彼らが考える人々が幸せになれる共生社会、理想の社会とはどんなものなのだろうか。


コロナ禍でも出来る範囲で活動を続けた金成さん

金成:私が考える理想の共生社会は、困っている人が困っていると言いやすい、助けを求めやすい社会です。どんなにバリアフリーやユニバーサルデザインが普及したとしても、それだけでは対応できないケースがあると思います。それを解決するには、困っている時に「ちょっとやってくれない?」とか「これをやってほしいんだけど」と声を上げやすい状況を作ることが大事なんじゃないでしょうか。私自身、学校になかなか適応できずに、言いたいことが言えない時期がありました。なぜ言えなかったかと言うと、相手に理解してもらえないんじゃないか、わかってもらえないんじゃないかという気持ちがあったからだと思います。ですから、人を助けるための知識や能力や心がある人が増えて、他人への理解が進み、障がいの有無に関係なく誰もが声を上げやすい社会というのが、理想的な共生社会なのかなと思いますし、そんな社会を作ることができたらいいなと考えています。


実際に車いすバスケを体験している酒井さん

酒井:私は全ての人が、その人個人として輝けるような社会、未来を実現できたらいいなと考えています。そう考えるようになったのは、バンクーバーパラリンピックのアイススレッジホッケーで銀メダルをとった上原大祐選手がおっしゃっていた「障がいは個性じゃなくて事実」という言葉に衝撃を受けたからです。元々、パラ陸上の村上清加選手がおっしゃっていた言葉らしいんですが、どういうことかというと、「障がいは個性です」というふうに言う人がいるけれど、それは違うんじゃないかと言うんですね。たとえば目が悪い人はメガネをかけるけど、それが個性だと言うならなぜメガネで個性を殺すのかと言われて、「あ、確かに」と思ったんです。目が悪いのは事実で、それでは不便だからメガネをかける。上原さんは自分にとって障がいがあることは事実であって、その不便さを解決するために車いすを使うというようなことをおっしゃっていたんです。
思い返して見ると学生時代って、席替えの時に目が悪い人は前の席に座らせてもらえたりしましたが、それは目が悪いという事実に対して、周囲がそういう気遣いをしていたということなんじゃないかと思うんです。だから障がいを事実として受け止めて、工夫が必要ならばどう工夫するのかをみんなで協力して改善していくのが当たり前になるような社会。障がいがあることがその人の代名詞になるんじゃなくて、目が悪いというのと同じくらいのことになって、障がいの有無に関係なく、その人個人として輝ける社会。ハード面だけでなく、人同士で気遣いあったり、工夫しあったりできるソフト面が充実した未来を作っていけたらと思っています。


総務として大勢のメンバーを取りまとめる布廣さん。時にはお茶目な一面も

布廣:2人にめっちゃいいことを言われてしまったので、どうしようという感じですが(笑)、僕が考える理想の共生社会は、困ったことがあった時に寄り添い合い続けられる社会です。共生社会というのは、誰もが自分のやりたいことを実現したり個性を発揮できたりする社会だと思っています。
でも、中には「共生社会」という「正しい社会」があって、それに人々が合わせていくのが共生社会だと勘違いされている方が多いんじゃないかと思うんですね。でも、人がぶつかる課題というのは一人ひとり違うはずなので、このやり方が正しいという正解はないはずなんですよ。むしろ課題にぶつかった時に、誰かに話したりだとか、一緒に取り組んで解決するなどして、その課題から受けたストレスを減らしたり、無くしたりできるような繋がりをみんなが持つことが大切で、それがあれば人は挑戦し続けることが可能になるんじゃないかと思っています。
難しく言いましたけど、要するに「やっぱり1人じゃ完結しないよね」ということで、より多くの皆さんに共生社会に関する知識を広めていって、わかり合える、助け合える人が増えれば増えるほど、いろいろな可能性が広がっていくんじゃないかなと。マイノリティもマジョリティも関係なく誰もが「私なんか」と思わずに「私も何かできることがある」、逆に「してもらえることがある」と、お互いが思えて支え合える社会が理想的な共生社会なんじゃないでしょうか。

取材では、3人に質問する内容を詳しくは知らせていなかった。しかし、どの質問に対しても全員が、自分の言葉でよどみなく答え、誰かの意見に流されるといったこともなかった。全員がそれぞれの理想の共生社会を自分の中に持っているようだった。それは、共生社会の実現が学校や親から与えられた課題ではなく、自分たちで調べ、自分たちで気づき、自分たちで見つけた「理想的な社会」「よりよい未来」を作るために必要なことだからではないだろうか。共生社会は、国や自治体が実現してくれるものではなく、私たち一人ひとりが、気づき、意識し、行動にうつして作り上げていくものなのだということに、改めて気付かされた。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)