日本代表が世界ランキング1位の車いすラグビー。国内のシーンでも激化するクラブチームの争いにファンは沸き立っている。

9月3日と4日、渋谷区スポーツセンター体育館で行われた、渋谷区長杯第5回車いすラグビー大会(日本選手権予選 東京大会)。国内9チームのうち3チームが出場し、日本選手権への切符をかけて争った。

期待の10代選手が存在感

出場した3チーム、TOHOKU STORMERS(東北)、AXE(埼玉)、Okinawa Hurricanes(沖縄)はいずれも若手を擁し、選手数が約80人の日本車いすラグビー界において、世界で戦う選手底上げの重要な原動力となってる。

なかでもAXEの青木颯志は渋谷区長杯の個人賞(ミドルポインター選手賞)を受賞する活躍。車いすツインバスケットボール経験があり、車いすラグビー歴1年の新人ながら車いす操作技術に長けている。

「試合の締めの部分を青木選手に任せる。それだけヘッドコーチも彼に期待している」とベテランの岸光太郎が語るように、チームメイトたちがバックアップする17歳はAXEの柱となりうる存在だ。

高校生の青木は堂々としたプレーでコートを駆け抜ける

昨年、日本選手権予選(※本戦は中止)埼玉大会でデビューしたときから、飄々とした顔つきでトライを重ね、気持ちの強さも感じさせる。

「スピード、パワー、パスの正確性を磨き、オールラウンダーになりたい」と目を輝かせる青木。同じチームかつ同じ2.0クラスの羽賀理之を目標にし、育成合宿などで基礎を学びながら、将来的にパラリンピック出場を目指す。

若手とベテランの融合が進むAXEだが、試合は4戦全敗と振るわず、12月開催予定のプレーオフへ進む。「チームとして学びも多かった。プレーオフでしっかりと日本選手権切符を取って、日本選手権ではあわよくば勝ち進めるようにしたい」と岸。試合数の分だけ経験値を高めて上位をうかがう。

表彰式で「緊張した」と胸の内を明かした奥原をチーム全体が盛り上げた

渋谷区長杯優勝のOkinawa Hurricanesにも秘蔵っ子がいる。今大会が試合デビューとなった17歳の奥原悠介。中学2年でこの競技を始め、まだ体の線は細いが、クラスは最も状態のいい3.5Rに。アグレッシブにコートを駆け回ると、3日のAXE戦で初得点を決めてチームメイトに向かってガッツポーズ。ベンチも一気に沸き上がった。

「若い選手が戦力になってくれた。そのおかげで、ベンチで休む時間ができ、コートでしっかりプレスをかけることができた」とは、キャプテンの若山英史。さらに、若手がコートに送り出された場合でも、ケガで出場できない日本代表強化指定選手の壁谷知茂がベンチにおり、的確な指示を出したことで時間管理もうまくいった。

日本代表でもある若山は静岡に拠点を置きながら、沖縄のチームに所属する

パラリンピック4大会出場の仲里進も新人を盛り立てる一人だ。昨年は、コロナ禍でチームとして大会への出場を取りやめただけに、「やっとデビューさせてあげられてよかった」と胸をなでおろした。

今大会で最もカナダからの助っ人ザチャリー・マデルも、Okinawa Hurricanesの予選1位通過に大きく貢献。「若い才能のある選手へのサポート体制もあるOkinawa Hurricanesは強いチーム」と評し、日本選手権に向けて「大会前に沖縄で数日間練習して臨む。質の高い試合ができるようにしたい」と意気込みを語った。

「チームは僕が正確にゲームプランを理解するために、常に通訳を僕のそばにつけてくれた」とチームに感謝した

そのOkinawa Hurricanesの好敵手となったのは、東京パラリンピック日本代表の橋本勝也を擁するTOHOKU STORMERS。20歳の橋本は、パリ2024パラリンピックで日本代表のエースになるべく、今年4月から企業の雇用アスリートとして新たなキャリアをスタートさせている。そんな橋本の「本気度UP」もチームを刺激したのだろう。TOHOKU STORMERSの円陣は、他を寄せ付けない強固なエネルギーが静かに蓄積されているようだった。

「ナンバーワンとしての自覚という面で、チームのキーになると思うので、もっと伸ばしてチームの助けになりたい」と生き生きと語る橋本は、「練習してきた(中町)俊耶さんとの連係プレーを試合で発揮できた。今、TOHOKU STORMERSのラグビーが楽しい」と手ごたえと収穫を口にした。

2日間の最後を飾るOkinawa Hurricanes 対 TOHOKU STORMERSは延長にもつれ込む接戦だった。TOHOKU STORMERSは、持ち味のスピードを駆使してマデルらキーマンの体力を奪おうと畳みかけたり、ハイロー(ハイポインターとローポインターが組むライン)で戦うOkinawa Hurricanesに対し、タンデム(2.0クラス選手4人)でミスマッチを生み出したりした。しかし、“日本一”になった経験で勝るOkinawa Hurricanesはプレッシャーのかかる場面でミスをしない。試合は62対61でOkinawa Hurricanesが制した。

東京パラリンピック以降、トレーニングを見直した橋本。マデルと競り合っても当たり負けしなかった

有観客ならではの雰囲気

代表選手にとってはジャパンパラ車いすラグビー競技大会以来となる有観客試合。さらに日本車いすラグビー連盟主催大会は、コロナ禍以降、縮小開催していたため、観客の中でクラブチームの試合が行われるのは久しぶりだ。

東京2020パラリンピック銅メダルメンバーの倉橋香衣(AXE)は笑顔で客席を見上げた。

「近くに観客のいる雰囲気で試合できるのが本当にうれしい」

立ち見が出るほどの観客数だった

来場していたのは、選手の家族、所属先の同僚、大会関係者、そして東京パラリンピックで日本代表を知ったファン。

ラグビー日本代表のファンで、知り合いに誘われれて初観戦だという男性は「車いすでどうラグビーをするのだろうと思っていたが、実際に見ると迫力がすごい。頭脳プレーの競技で奥深いと感じた」(60代・三鷹市から来場)と身を乗り出して観戦していた。

今大会のハーフタイムはキッズチアリーダーが会場を盛り上げた。小学2年生の娘の付き添いで来た女性は、「車いすラグビーは東京パラリンピックの活躍で知ってはいたが、生で見るとぶつかりあう音にとにかく驚く。使用するボールは楕円でなく丸だったのですね」(40代・渋谷区内から来場)とコメント。

TOHOKU STORMERSの主力である中町がゲームをコントロールした

来場理由はさまざまだが、初観戦の観客も多く、会場は実にぎわっていた。

そんな雰囲気の中、今大会はレベルの高い試合が繰り広げられたが、Okinawa HurricanesもAXEも今大会はベストメンバーで戦えていない。TOHOKU STORMERSの20代なかばの選手らまだ力を見せていない選手もいる。そんなクラブチームの伸びしろが、来年1月の日本選手権をますます面白くさせるだろう。

2018年以来2大会ぶりに日本一を目指すOkinawa Hurricanes。渋谷区長杯のタイトルを獲得した

text by Asuka Senaga
photo by Atsushi Mihara