日本障がい者乗馬協会は、パラスポーツの魅力を発信し、共生社会の実現を訴求する『パラ馬術 講演プログラム Para Dre Plus-(パラドレプラス)』をスタート。10月19日に世田谷区立京西小学校で行われた4年生に向けた講演会では、パラ馬術とパラ射撃という異色の組み合わせが実現した。その様子をお届けする。

世田谷区内には、東京大会でパラ馬術会場となった馬事公苑があるだけに、7、8割の児童が馬を見たり、乗馬体験をしたりしたことがあると回答

子どもたちの質問で競技のおもしろさを深掘り

登壇したのは、パラ馬術の稲葉将、パラ射撃の佐々木大輔の二人のパラリンピアン、そして、馬術への造詣が深い女優の佐藤藍子の3名だ。

会場となった体育館で4年生約110名を前に、講演会はスタート。司会者の進行のもと、3人が鼎談し、合間に子どもたちが質問をするというスタイルで講演会は進んだ。

稲葉は、自身初のパラリンピックとなった東京大会は、ユニバーサルデザインも素晴らしかったと語った

馬という生き物と一緒に演技をする馬術と、ライフルという日ごろなじみのない道具を使う射撃。まったく異なる二つの競技の組み合わせの妙もあってか、子どもたちは最初から興味津々の様子。佐々木と稲葉、佐藤が質問し合うのはもちろん、講演の合間に子どもたちから活発に質問が出ることで、競技の魅力が引き出されていく。

元小学校の教員で、「経験を子どもたちに伝えることが自分の使命」と語る佐々木は、子どもたちの生の反応がうれしかったと振り返った

「東京大会のパラ射撃を観ましたが、すごく緊張しそうだし、まん中に当てるのが難しそうだなと思いました。実際はどんなところが難しいですか」

という質問に対し、佐々木は、「緊張するところです。緊張すると、心臓がどきどきします。すると、鼓動に合わせてライフルが揺れて、的が狙いにくくなるんです」と回答。射撃の中でもライフルの選手は、競技の際、重くて硬い専用のウエアを着ているのだが、これも体のブレを銃に伝えないためなのだという。

佐藤は、馬とポニーの違いや馬術の面白さ、障がいのあるなしにかかわらず困っている人を助けることの大切さについてやさしく語りかけた

一方、パラ馬術については稲葉が、「20m×40mまたは20m×60mのアリーナと呼ばれる長方形の囲いの中で、人と馬が一体となった演技の美しさや正確さを競い合います。私は20m×40mのアリーナで演技しているのですが、馬は大きな生き物なので、狭く感じます。アリーナが小さいほど、より細やかなコントールが必要になります」と解説すると、子どもたちは、なるほどと納得した様子。

馬に親しみがある児童も多いことから、「初めて馬を見たときはどう思いましたか」「怖くなかったですか」といった質問も出た。これに対し、稲葉は、「最初に馬を見たのは、リハビリのために乗馬クラブを訪れた小学6年生の時です。自分から馬に乗りたいと思ったわけではなかったし、馬は大きく、乗るとすごく高くてバランスもとりづらかったので、怖かったです。でも、何度か通ううちになぜだか馬と離れがたくなり、今に至っています。始めるきっかけは何でもいいけど、やってみると楽しいスポーツだと思います」と、馬や馬術に魅かれていった過程を説明した。

東京大会のパラ馬術やパラ射撃を自宅で観戦したという子どもたちも少なからずいて、質問したいと手を挙げる子どもたちも多かった

自分らしく輝けるものを見つけてほしい

東京大会についても質問が出た。その中で、稲葉と佐々木の二人が口をそろえたのが、応援の力の大きさだ。

「無観客になったのは残念でしたが、小学校時代など昔の友だちから連絡をもらって、ほかの大会よりたくさんの応援を直接感じられる機会がありました。そういう意味で印象的な大会になりました」(稲葉)

「口から心臓が飛び出そうなぐらい、めっちゃ緊張しましたが、応援してくれている人たちのことを考えると、安心して緊張が和らぎました」(佐々木)

生き物や道具を大事に扱うことの大切さにも言及した。

「練習場所から競技会場に移動すると、馬も緊張します。そういうときは声をかけたり、ストレスを発散させてあげたりしながら、競技までの時間を一緒に過ごします。東京大会では海外の馬に乗らせてもらったため、一緒に過ごす時間は多くはなかったのですが、会えた時はできるだけ声をかけるようにしました」(稲葉)

「小学校高学年や中学生は、もっとも多感な時期。何か一つでも印象に残ればと思う。また、こうした活動を通じて、競技を見る人も増えたら」(稲葉)

「ライフルは1週間に一、二度、油をさしたりして手入れしています。道具にありがとうという気持ちを持つといいですよ。なでたりきれいにしたりしてあげると、自分の気持ちもやさしくなれます」(佐々木)

犬や猫といった生き物を自宅で飼っていたり、テニスや水泳など道具を使うスポーツをしたりしている子どもたちも多く、自分に置き換えて考える機会となったようだ。

「選手たちがみんな馬を大切にしてることがわかりました。私もハムスターを飼っているので、しっかりお世話をして大切にしていきたいなと思いました」(女子)

「乗馬は3回ぐらいやったことがあるのですが、やっぱりコミュニケーションをとることが大事なんだなと改めて思いました」(女子)

最後に、子どもから「車いすになったきっかけと射撃をしている理由」を聞かれた佐々木が、「夏休みに交通事故に遭って背骨を折り、神経が傷ついて足が動かなくなりました。リハビリセンターで障がいがあってもスポーツができると知って、車いすバスケットボールや水泳をしました。水泳を練習し過ぎて肩を壊した後、障がいがあってもなくてもできるスポーツを探して、射撃に出会いました」と説明し、講演会は幕を閉じた。

「東京大会以後、射撃は健常者と障がい者がチームを組んで競技を行うなど、明らかに変わった。もっとこういう競技が増えるといい」(佐々木)

この講演をきっかけに、馬術や射撃、共生社会への関心も高まったようで、
「馬に乗る楽しさや、馬の特殊な性格をいろいろ教えてもらってすごく学んだ気がします」(女子)
「(パラ射撃やパラ馬術、選手たちについて)あんまり知らなくて。テレビで見なかったので、そういうことがあったんだなと知れてよかったです。(障がいのある子が近くにいたら)一緒に遊んだりしたいなと思いました」(女子)
といった感想が聞かれた。

講演後、稲葉、佐々木ともに、オンラインとは異なり、子どもたちの反応を間近で見て感じられるリアルの講演会はやはり楽しかったと充実した表情を見せた。

今回の機会を通じて、「障がいのあるなしにかかわらず、自分が輝ける、自分の力で勝負できる場所を見つけてほしい。障がいがあってもあきらめず、何でもチャレンジしてほしい」(稲葉)、「自分の特技、好きなことを見つけ、他人と比べたりせず、自分のペースで自分らしくやっていってほしい」(佐々木)という稲葉と佐々木の思いが、子どもたちに少しでも伝わればと願わずにはいられない。

世田谷区には、エアライフル場もあることから今回の組み合わせが実現。「マイナースポーツの選手同士(笑)、知り合えてうれしい」(佐々木)、「近くに競技場がある小学校で、タイミングよくご一緒できてよかった」(稲葉)

※本事業は、「香取慎吾NFTアートチャリティプロジェクト」寄付金を活用しています。

text by TEAM A
photo by Haruo Wanibe