2018年6月に長野県がスタートした、日本財団パラスポーツサポートセンターとの協働プロジェクト「パラウェーブNAGANO」。
「障がいのある人ない人も巻き込んだ大きなパラスポーツの波を起こしたい」というこのプロジェクトは、パラスポーツを通じた共生社会づくりを目標に、これまで数多くの取組を行なってきた。そんな中、1月28日にイオンモール佐久平で開催されたのが「パラウェーブ広場 in 佐久平」だ。

偶然居合わせた人に「共生社会」を考えるきっかけを

開催場所はイオンモール佐久平1Fのセントラルコート。休日には多くの地元住民で賑わう

これまで障がいのあるなしに関わらず、参加できるボッチャ大会や、パラアスリートが学校へ赴く体験授業「パラ学」などを通して共生社会づくりを推進してきた「パラウェーブNAGANO」。だが今回の「パラウェーブ広場」は少し異なるねらいをもったイベントだった。プロジェクトの統括を担う、長野県障がい者支援課の笠原祥多さんは、開催経緯を次のように話す。

「パラウェーブ広場は2021年、2022年に続き3回目の開催となります。パラウェーブNAGANOの旗揚げ時にも大きな体育館を借りてパラスポーツ体験会を実施しましたが、参加申込制のイベントは、パラスポーツのことをあまりご存じでない方にリーチするのはなかなか大変です。そこを自然と人が集まるショッピングモールで行うことで、偶然居合わせた方にも気軽にパラスポーツに触れていただくことができます。そうすることで、パラスポーツに関心のあるなしに関わらず、少しでも多くの方、幅広い層の方にアプローチすることが重要だと考えました。
また、パラスポーツという名前は知っていても、見たこともやったこともない人は多いと思います。一度でもやったことがある、車いすも乗ったことがあるという人を増やすのは、地域として障がいへの理解を浸透させていくのにとても重要なことではないでしょうか」

長野県障がい者支援課の笠原祥多さん

障がいへの理解が深まる多彩なアクティビティを設置

視覚障がいのある方の誘導を体験できるコーナーでは、アイマスクで視界を遮り、白杖を使って2人1組で歩いたり、点字ブロックの形状の意味なども学ぶことができた

今回のパラウェーブ広場は、「共生社会体験エリア」と「パラスポーツ体験エリア」の2つのエリアで構成され、多くの人でにぎわいを見せていた。

共生社会体験エリアでは、参加者がより関心を深めながら障がいについて学べるアクティビティが並んだ。
2人1組で1人がアイマスクを装着し白杖をもち、もう1人がガイドをする視覚障がいのある方の誘導体験に始まり、車いすユーザーが日常の買い物で出会うできごとなどを経験。次に車いすを操作するスラローム体験、最後に車いすバスケットボールのシュートをするという、障がいのある人の日常生活からパラスポーツまで体験できる幅広い構成となっていた。
途中には障がいの理解が深まるクイズコーナーも設けられており、日常目にするバリアフリーについて考えたり、普段なかなか気づかない障がいのある人からみた視点などを取り上げていたことで、参加者からは「貴重な経験になった」との声が多くあがっていた。

車いすユーザーが使いやすい駐車場について考える問いかけも。車いす専用駐車場は、横幅にスペースが広く設けられている。これは車の座席から降りて車いすに乗り移る場所が必要だからだ。クイズを通して理由がわかると実生活にも活きてくるだろう

「白杖は初経験で、見えていたものが見えなくなるってすごく不安な気持ちになりますね。そういう方を街で見る機会はあまりないですが、これからはできる限り声をかけたいなと思いました。(車いすでの)買い物の場面の体験も、店舗の陳列で床にものが置いていると、棚の上段に車いすから手が届かないことに気づいて、いろいろ考えさせられました」

日常で目にする何気ない買い物の場面も、車いすだと……異なる人の視点に立つことで、気づくことがある

「パラスポーツの選手たちは当たり前のように軽々やってますけど、実際やってみるとすごく難しかったり、すごくテクニカルなことをやっているんだなっていうのを肌で感じました。特に車いすバスケットボールが印象に残っていて、あそこまで小回りの効く車いすに乗れることがないのですごくいい経験になりました。(選手たちには)もっともっと頑張ってもらいたいですし、車いすの人を街中で見る機会が増えればいいなと思います」

車いすバスケットボール体験も大人気。車いすの構造を利用したテクニカルな拾い上げ方を教えてもらい実践する人も

もうひとつの「パラスポーツ体験エリア」では、パラアイスホッケー体験や、パラ陸上で使用される車いす・レーサーでの年代別スピード測定が実施され、パラスポーツをメインに体験することができた。こちらも親子連れを中心に大いに賑わい、来場者の多くは両エリアを存分に楽しんでいた。

「意外にバスケとホッケーが上手くいったんですけど、腕の力をすごく使うんだなってことがわかって、かなり疲れましたね。個人的に楽しかったのはホッケーで、大変だったのは車いすバスケです。子どもも小さい頃にこういう経験をすると、物事の考え方を学べるのですごく良いなと思いました」

「普段生活していて、社会の中で車いすユーザーの方を見かけるケースはまだまだ少ないと感じます。社会参加含め日常生活にもどんどん出てきてもらえるような、どこに行っても困らない世の中にならないといけないと思います。僕らももっと頑張りたいと思いました。改正された障害者差別解消法が4月から施行になりますが、それがもっといい社会になるきっかけになればいいなと思います」

一般男性、一般女性、小学生以下の3部門でスピードを競うレーサー(パラ陸上)チャレンジ
ゴールに向かってボールをシュートするパラアイスホッケー体験。輪っかの大きさに合わせ30点、50点、100点にゴールが振り分けられており、高得点のシュートが決まるとひときわ大きな歓声が上がっていた

未来を選ぶ投票コーナーで通りがかりの人も気軽に参加

自分は「どんな未来を応援したいか」を選ぶ地域の方々。このちょっとしたアクションが意識を変える一歩に

・障がいの有無にかかわらず誰もが仲良く、快適に暮らせる未来
・自然災害があったときに、誰もが助け合える未来
・新しいパラスポーツが長野県からたくさん生まれる未来
・次の世代のパラスポーツへの挑戦が次々と生まれる未来

会場の横には、上記の4つの未来の中から応援したい未来にシールを貼ることができる投票型パネルが設置された。中でじっくり体験する時間はなくとも、シールを貼って投票するだけでも意識付けはできる。そうした小さな一歩一歩が共生社会づくりに繋がっていくだろう。

1階で広がるこうした風景を、吹き抜けの2階から見つめる人もたくさんいた。ショッピングモールに買い物にくる、そんな何気ない日常から、誰もが活躍できるより良い未来・社会を感じ、考える。そんな光景がイベントのあちこちで広がっていた。

パラアスリートも感じた手応え

長野パラリンピックに出場したパラアスリート、加藤正さん(写真中央)。パラアイスホッケー体験にきた子どもたちを優しく指導していた

また今回のパラウェーブ広場は、長野パラリンピックに出場した加藤正さん、パラアイスホッケーチームの長野サンダーバーズに所属する新津和良さんと馬島誠さんら、県にゆかりのあるパラアスリートがパラスポーツ体験の講師として参加。パラアスリートが直接参加者に魅力や楽しさを伝えれば、参加者にとってもその日の出来事はより印象深いものになるだろう。参加したアスリートの方々からも多くのポジティブな声が聞こえてきた。

「冬季競技であるパラアイスホッケーも体験していただけたので、とても良かったです。3歳くらいの子でもちゃんと狙って打ってくれましたし、本人も親御さんも楽しそうだったので、とても良い体験だったのではないかと思います。パラスポーツは他にもいろいろな種類があるので今後は他の競技も人の目に触れるようなイベントができたらいいですね」(加藤正さん)

「イオンモールという多くの人が集まる場所でできただけでなく、ブースの見せ方も良かったですし、通る人も声をかければみんな興味を持って寄ってくれて本当に楽しかったです。自分が担当したパラアイスホッケー体験は氷が無い状態でどうやって体験していただくか? が課題でしたが、今回はゴールに入れるゲーム形式でお客さんも楽しんでくれました。そういうところからでいいんだ、というのは発見でしたね。今後も引き続き盛り上がっていってほしいです」(新津和良さん)

パラアイスホッケーの現役選手として活躍する新津さん

「ここまで多くのパラスポーツとバリアフリーに向けた体験をまとめてショッピングモールでやるのは初めてでした。いろんな競技をやってもらう、見てもらうことは本当に大事ですし、広がっていく第一歩だと思いました。もっともっといろんな競技をやれたら良いですね。私自身ももっと協力していきたいと思いました」(馬島誠さん)

笑顔でブースを盛り上げていた馬島さん

また、長野県と協働でパラウェーブNAGANOに取り組む日本財団パラスポーツサポートセンターの職員の山本恵理さんも、来場者の反応を見て手応えを感じていたようだ。

「子どもたちにたくさん参加していただけました。最初はすごく恥ずかしがってた小さな子が、終わったら満面の笑顔で帰ってくるのを何回も見られてよかったです。今回長野県の方々とパラサポからの企画でやらせていただいたのですが、最初はぎこちなかったスタッフもこうやればいいんだ、というのが進めるうちにだんだんわかってきて、そこからたくさんの人が来てくれて多くの子どもの笑顔が作れたんじゃないかなと思います。とっても良いイベントでした」(山本恵理さん)

イベント中は様々なエリアに顔を出し、参加者と積極的にコミュニケーションをとっていた山本さん

共生社会への気づきをパラスポーツを通じて広めていく意義

当日は老若男女、多くの人が列を成して参加していた

最後に、今回のイベントの手応えについて笠原さんに伺った。

「親子連れ中心に年配の方から若い人まで積極的に参加してくれたことがとてもよかったです。パラスポーツ体験を楽しんでいただいたのはもちろん、途中のクイズなどで取り上げた点字ブロックや駐車場は、会場の外に出ればすぐ目の前にある世界です。そこの理解を少しでも広められたのは意義があったのではないでしょうか。これからも草の根活動にはなると思いますが、パラスポーツと掛け合わせて障がいや共生社会への理解が進む取り組みを幅広くやって行きたいですね」

また、長野県は2028年に全国障害者スポーツ大会の開催を予定している。そのためにも、パラスポーツの認知をさらに広めていきたいと笠原さんは語る。

「長野県は冬季オリンピック・パラリンピックを開催した経験があり、加藤正さんのように県にゆかりのあるアスリートもいます。パラスポーツの露出を増やし、例えば県民人口あたりのパラスポーツ体験率1位になったとすれば、その数字は必ず障がいや共生社会に対する理解も比例して高まっていくのではないでしょうか。パラウェーブNAGANOの取り組みがきっかけとなって、2028年の全国障害者スポーツ大会を見たりボランティアに行ったり、参加する人が一人でも増えてほしいと思っています」

障スポ(全国障害者スポーツ大会)は、まだまだ知らない人も多い。「国体(国民スポーツ大会)なら聞いたことあるけど、障スポって何?」 という人も多いという話は取材中に出てきたフレーズだ。しかし、今回のイベントのようにパラスポーツの面白さに触れ、共生社会に少しでも考えたことがあるし人が増えていけば、「そういえば今度大会あるよね?」といった会話が自然と出てくるようになるだろうし、より良い社会の実現にも近づき、大会が地域にもたらす価値もより大きいものになるはずだ。

多様な人々が心地よく暮らせる未来に向けて、パラスポーツの波を起こし続ける「パラウェーブNAGANO」。今後もさらに多くの人々に関心を持ってもらえる場づくりに期待したい。

text & photo by Yoshio Yoshida