ちょうど1年前、2019年のCESで、ソニーは独自のオブジェクトベースによる立体音響技術「360 Reality Audio」を発表した。そして今年。「CES 2020」のソニーブースには、近いうちに商品化が期待できそうな一体型ワイヤレススピーカーや、スリムなサウンドバーを中心としたホームシアターサラウンドシステムなどの試作機が並んでいた。CES会場で、ソニー担当者に360 Reality Audioの展望を聞いた。

ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ(株)で360 Reality Audioのプロジェクト全般に携わる岡崎真治氏、一体型ワイヤレススピーカーを担当する河合哲郎氏、サラウンドシステムを担当する岡田知佳子氏、そしてオートモーティブ向けビジネス部門の佐々木信氏にお話を伺った。ホームオーディオ製品のデモを体験したファーストインプレッションも報告したい。

■2019年登場、秋に商用配信を開始した360 Reality Audio

まず360 Reality Audioとは何か、かんたんに振り返っておこう。360 Reality Audioとは、360度全天球空間に広がるオブジェクトベースのサラウンド音声を、ホームオーディオやスマホなどのモバイル端末、そして車内空間でも、あふれる臨場感で楽しめるよう、ソニーが独自に開発した音楽再生技術だ。

専用のプロダクションツール「アーキテクト」により、非可逆の圧縮方式であるMPEG-H 3D Audioでエンコードした音源が製作される。音源に配置できるオブジェクトの数は最大24(以下16/10)で、音源制作者やプラットフォーム事業者がこれを選択できる。選んだオブジェクトの数に応じて配信ビットレートも変わり、最大約1.5Mbpsから最小は約640kbpsとなる。

日本国内では、昨年12月にAmazon MusicがHDプレミアムサービスの配信サービス上で「3Dミュージック」音源を配信開始。360 Reality Audio対応作品が、アマゾンAlexa最上位機「Echo Studio」で楽しめるようになった。

北米など海外では、Amazon MusicのほかにもTIDALやDeezer、nugs.netが2019年秋から360 Reality Audio音源を配信し始めている。そしてEcho Studioだけでなく、スマホと一般的なヘッドホン・イヤホンによる組み合わせで楽しめるサービスも開始されている。筆者もこれを、2019年9月にベルリンで開催された「IFA2019」のソニーブースで体験している。

■ぐんと小さくなった一体型ワイヤレススピーカー

そして年が改まり、2020年のCESでソニーが出展した360 Reality Audio対応の試作機。一体どのようなものなのか、現時点で取材できたことを余さずお伝えしたいと思う。

なお今回展示された一体型ワイヤレススピーカーとサラウンドシステムは、ともに型番や製品名、スペックなどが公開されておらず、商品化の予定も明らかにされなかった。ただ、どちらの製品も、音・デザインともに、完成形に近いところまで磨き上げられているように筆者は感じた。

一体型ワイヤレススピーカーは、Echo Studioの筐体を縦に長く、スリムにしたような円筒形。1基のフルレンジスピーカーと2基のトゥイーターが配置されている。計3基のスピーカーシステムのレイアウトや、アンプを含む詳細なシステム構成については現時点で非公開とのことだ。外観を眺める限り、Echo Studioのような、音の出口となるスリットは設けられていない。

実機写真でピンクゴールドに配色された正面左右グリルの中には、トゥイーターから出力された音を増幅した後、指向性を持たせて放出するための、特殊な音道管が配置されている。河合氏は3基のスピーカーユニットにDSP等を使って信号を振り分けて、360 Reality Audio音源から豊かな立体感を生み出せるよう設計に工夫を凝らしたと語る。

ソニーは一年前のCESでも、360 Reality Audio対応の一体型ワイヤレススピーカーのコンセプトモデルを展示していたが、今回、筐体が一段とコンパクトになった。デモルームに置かれているスピーカーは電源ケーブルに接続されていたが、家の中のどこにでも置けるサイズ感を意識しているようだ。遮蔽されていない会場のデモルームで音を確かめた限りでは、高さ方向に豊かな音の臨場感が再現されており、音の定位の明瞭度も格段に上がっていた。

■サラウンドシステムは4つのコンポーネントで構成

別室でデモを行っていた360 Reality Audioのサラウンドシステムは、スリムなサウンドバーとサブウーファー、左右2本のリアスピーカーという4つのコンポーネントで構成されていた。

デモルームでは映像付きのミュージックビデオなどいくつかの音源を聴くことができた。サラウンドシステムでは、360 Reality Audioの大きな特徴である、足元から押し寄せてくるような低音の臨場感が存分に味わえた。

360 Reality Audioの音源は、エンコードにオープンフォーマットのMPEG-H 3D Audioを採用している。再生時にはデコードされた音源に含まれるオブジェクトデータを解析し、スピーカーシステムの構成に合わせたレンダリング処理が行われる。今回出展されたシステムの場合、フロントに3チャンネル、上方向の反射に2チャンネル、リアに2チャンネルとサブウーファーのオブジェクト信号を再配置し、豊かな臨場感を再現していた。

ドルビーアトモスやDTS:Xなど他フォーマットへの対応なども気になるところだが、今回の取材時点では、こちらのプロトタイプについても詳細は明らかにされなかった。ただし、従来のサウンドバーと同じレイアウトでも360 Reality Audioコンテンツが楽しめるよう、技術検討が進められていると岡田氏は話していた。

■クルマの中にも360 Reality Audio体験が広がる

両製品のデモを体験し、待望のソニー自身による360 Reality Audio対応ホームオーディオの誕生が迫っていることを感じさせられた。そして今後、360 Reality Audioが楽しめる空間はクルマの中にも広がりそうだ。

ソニーは今年のCESで新たなモビリティサービスの取り組み「VISION-S(ビジョン エス)」を発表し、エンターテインメントスペースとしての自動運転車のコンセプトモデルを公開した。

このデモカーでも、複数個のスピーカーユニットを組み込んだ360 Reality Audioの体験デモを行っている。ソニーの佐々木氏は、ホームオーディオやヘッドホンによるポータブルリスニングとは異なる、車内空間にとって最適なチューニングをこれから別途追い込んでいく必要があると前置きし、今後、ソニーのモビリティサービスの特徴として、360 Reality Audioをひとつの柱に育てていく考えを語ってくれた。

日本国内では、まだ360 Reality Audioを体験できるサービスや環境が限られているが、2020年には、いよいよ生みの親であるソニーがリードし、新たな音楽体験スタイルが広まっていきそうだ。そして、Amazon Musicに続き、360 Reality Audioの音楽配信についても、ぜひソニーグループで実現させてほしい。