■あの “INORANさん” に怒られる心当たりなど……

2020年9月某日。我々「オーディオ絶対領域」担当ライターと担当編集は某代理店から呼び出しをくらっていた。メーカーから呼び出しをくらう心当たりなど我々には……それはないわけではないが、指定された場所がどうもおかしい。某レコード会社の一室とは?

ちょ!?INORANさん?!??!?!

我々にはオーディオメーカーに怒られる心当たりはあっても、INORANさんに怒られる心当たりなど.……ぁ……(回想)

…まさか…怒られる!?

「沼に片足っていうやつですね」

── ニューアルバム「Libertine Dreams」発売を控えてお忙しい時期と思うのですが(※取材は9月前半に実施)、そんな最中にオーディオ情報サイトにご登場いただけるとは……

INORANさん: 2016年にMaster & Dynamicというオーディオブランドのイメージキャラクターをやらせていただいて、その縁でイヤホンやヘッドホン、プレーヤーを紹介してもらう機会が増えたんです。それでこのポータブルオーディオという、自分がまだまだ知らなかった面白い世界があるんだなということを知ったんですね。

僕らミュージシャンもヘッドホンなんかは仕事道具だけど、レコーディングで使うモニターヘッドホンとかって、同じものを長く使ってるんです。音の判断の基準として、不変のものであることにも意義があるので。

対してポータブルオーディオのアイテムって、すごくアップデートされていくものなんだなっていうのが新鮮で。ゲストで呼んでいただいた「ポタフェス」とかでブースを眺めさせてもらっていたら、同じメーカーのラインナップでも、技術の進歩やその時のトレンドを取り入れて、どんどん新しくて良いものになっていたりする。それがすごく楽しいなって。

それをきっかけに……沼に片足っていうやつですね。

今はこういう状況で、ポタフェスのように実際に人が集まる大きなイベントは中止になってるって聞いて、それでもこの世界の楽しさは届けていってほしいなと思ったんです。今回、僕もその力になれるならということで。

── ありがとうございます!(怒られるやつじゃなかった…!)新型コロナ下のこういう状況は、オーディオ業界もそうですが、INORANさんご自身も大きな影響を被っていらっしゃいます。

INORANさん: まず大きいのは、2月から5月まで続くはずだったツアー「LUNA SEA 30th Anniversary Tour 2020 -CROSS THE UNIVERSE-」が、2月末以降に開催予定だったところはすべて延期することになって。延期か決行かギリギリまでみんなで考えたんですけど…残念だけど、これは仕方がないですね。

それで、ライブという形では止まらざるを得ない。でも待ってくれていた人に何か届けることはできないか?ということで急遽、配信シングル「Make a vow」をリモート制作したんです。

そうやってLUNA SEAとしても立ち止まらずに動いてはいたんですけど、世界的なロックダウン、日本でも外出自粛が始まって……この間は特に、音楽人、バンドとして何ができるかをすごく考えた時期でした。

あえて深刻じゃない言い方をしますけど、突然「春休み」が来ちゃったみたいな。急に家で過ごす時間が増えたからみんな、植物を育て始めたり、パンを作り始めたりしたじゃないですか。同じように、僕は曲を作り始めたんですよ。この長い春休みはいつまで続くのか?なんて思いながら。

「僕たちはそれぞれの頭の中に現実よりずっと広い世界を持ってる」

── 現在の状況がアルバムの内容や制作過程に与えた影響は大きかったのでしょうか?

INORANさん: 9月29日の「INORAN 50th ANNIVERSARY」に向けて、アルバムを作ることはもちろん決めてたんですけど、曲を作り始める前には、どういう音にしようみたいなイメージは全然なかった。だから今回のアルバムの音や雰囲気は、この状況になって曲を作り始めてから出来上がったものですね。

ただ、僕のソロではいつもドラムを叩いてくれているRyo Yamagata君、彼が手を痛めてしまって、去年の年末から少しお休みに入ることはわかってたんです。その上にこの状況になってしまって、ミュージシャンにスタジオに来てもらうことも、ましてやみんなで集まってレコーディングなんて難しい、と。その二つが重なったことで、今回はサンプリング、打ち込みのビートをベースにっていうのは、曲を作り始めるときには見えてました。

結果的にどういうアルバムになったかというと……それがアルバムタイトル「Libertine Dreams」なんです。同名の収録曲「Libertine Dreams」からもらったんですけど、その言葉が今回のアルバム全体を表すのにもぴったりだなと。

これまでは例えばハワイやメキシコに行って、その空気を感じながら曲を作ったりしてたんです。その土地っぽい音楽要素を入れるってことじゃなくて、環境を変えたらそこから自然に生まれてくるものがあるんで。

それが今自由が制限されて、どこにも行けなくて、しかもドラムは打ち込みでやるしかない。だけど、周りの世界がどうであれ、僕たちはそれぞれの頭の中に、現実の世界よりずっと広い世界を持ってる。僕はあなたより広い世界を持っていると思うし、だけどあなたも絶対、僕より広い世界を持っているはずなんですよ。誰の世界が広い狭いなんてない、一人一人の広い世界をみんなが持ってる。

今回はその僕の頭の中の世界を旅して、その中で夢や喜怒哀楽、好きなところ嫌いなところ、色んなことをふわふわと考えながら、曲を作り続けてました。そこで生まれた曲の一つを作詞家に送ったら、仮タイトルとして返ってきたのが「Libertine Dreams」で。それがアルバム全体を表す言葉としても「これだ!」ってハマったんです。

「Libertine」という言葉には、宗教的観念的なニュアンスでの「自由」という意味もあるんですけど、このアルバムでの「Libertine」は「放浪者」みたいな意味合いですね。生々しくて人間臭い自由というか。他の言葉だと「Desperado」、「ならず者」とかにも近いかな。

そんな風に自分の頭の中を放浪して、そこで見た夢の記録。それが今回のアルバム「Libertine Dreams」です。

「僕の原風景にあるものもこのアルバムには入ってる」

── インダストリアル的でもあるビートの曲にはNine Inch NailsやMxAxSxSの雰囲気も感じたりしました。

INORANさん: 「Libertine Dreams」は今までの自分の集大成のようなアルバムにもなってるんです。僕の作ってきたサウンドって前期、中期、後期とかそれぞれで結構バラバラで。このアルバムには全部ごちゃっと入ってる。Nine Inch NailsとかMxAxSxSが思い浮かんだっていうなら、それらはたぶん僕の原風景にあるものだからだと思う。

でも「50th ANNIVERSARY」だから、自分のキャリアをまとめ上げるぞ!みたいな意識があったわけじゃなくて。3月4月5月と「今日はこういう感じの曲を作ろう」って、3日に1曲くらいのペースで作ってたら自然とこうなっただけなんですよ。

あと今までは、まず僕がデモテープを作って、それをベースにバンドメンバーと一緒に曲を完成させるって流れだったんですが、今回はそのデモテープ段階くらいのが実際に収録曲になってリリースされる感じなんですよ。

今までは、ここからドラムやベースを生音に差し替えて、自分のギターもアップデートしたりして、それが完成形。今回は生演奏への差し替えがないから、自分のスタジオで一人で作った音が丸々入っている。ボーカルだけは、歌詞をもらった頃にはスタジオに行ける状況になってたんで、外のスタジオで録ることができました。

「最初のイメージから変わっても、かっこいいならそれもいい」

── 自宅スタジオではギターはどういったシステムでレコーディングを?

INORANさん: ギターアンプは鳴らしてなくて、プラグインで作ったギターサウンドです。ギターサウンドをプラグインでいけるかどうかっていうのは時と場合によりますね。生のドラムやベース、バンドの空気感に合わせるには、やっぱりギターもアンプを鳴らさないとってのはあるんです。でも今回は他の音も、全部を自分で自宅で作ってるんで、ギターもプラグインで馴染んでくれてます。

── ちなみに曲作りのときに頭に浮かんだ音を、実際の音としてどうやって鳴らすのかっていうのは、結構悩まれますか?

INORANさん: うーん…1時間くらいまでは試行錯誤することもあるけど、それ以上になったら「もうやーめた!」ってなりますね、僕は。そういうところにはそんなにハマんない。音色にしてもフレーズにしても、突き詰めすぎずにやってます。

最初に浮かんでたイメージと違ってもいいんですよ、これもかっこいいじゃん!って思える音にさえできれば。

もちろん、こだわるところはこだわりますけど、「木を見て森を見ず」になるのもダメだと思う。細かいところじゃなくて、全体として最初のイメージを表現できていればそれでいいし、最初のイメージから変わっちゃっても、それがかっこいいならそれもいいんですよ。

例えば、今回一人で作らなきゃいけなかったので、曲に入ってる女性の声とかもぜんぶ僕の声なんです。最初は遊び感覚で、自分の声を加工して女性っぽく聞こえるようにしてみたんですけど、「いいじゃん!これ使おう!」って。

音楽に限らず、物作りにおいては、与えられた状況を面白がっていくことって大切なんじゃないですかね。料理でいえば冷蔵庫の余り物だけでどんだけ美味しいものを作れるか、みたいな。

それに僕は、音の組み合わせ、バンドメンバーの組み合わせ、そこから生まれるハーモニーっていうのは偶然であって、同じ雰囲気は二度とは生まれない、それを楽しみたいって考えて生きてるんで。レストランで偶然近くの席にいたやつが面白そうだったから一緒に飲もうよ!って声をかけたらすげえ楽しかった!みたいなノリですよ、曲作りも。

だから、曲に取りかかるタイミングが一日ずれてたりしたら、全然違うものができてたでしょうね。雨が降ってるのか晴れてるのかとか、僕のバイオリズムとか、その時の全てが曲には反映されていると思います。

── そういった曲作りを、思わぬ状況で思わぬ期間続けることになった、と。

INORANさん: ですね。その日その日の記録みたいな感じでもある曲作りを、3月から5月の3ヶ月、3日に1曲っていうペースでやってたわけですよ。だから30曲は作ってるってことですよね?なので、アルバムもう一枚出します。「Libertine Dreams」との二部作として来年に出します。

── そうなんですか!それはまた楽しみが増えました!

INORANさん: 「Libertine Dreams」も次のアルバムも、曲の収録順は曲を作った順のほとんどそのままなんで、次のアルバムに入る曲は4月5月分って感じです。

曲を時系列順に並べたのは、今回の場合、音楽的な流れを整えることよりも、日記みたいな気持ち、パッションの流れを届けることに比重を置いたというか。さっき言ったように、ステイホーム期間に自分の頭の中を旅した放浪日記みたいなものですから、このアルバムと次のアルバムは。

「コミュニケーションの方向性とかの個性ってメディアごとに違う」

── ステイホームの間、リスナーとしてはどのように音楽に触れていましたか?

INORANさん: サブスクで何か曲を聴いて、その曲から他の曲にたどっていって…みたいなこともしてましたね。それも音楽の世界を放浪してたと言えるのかもしれない。

でもサブスクでたどるのって、サービス側からのレコメンドもあるにせよ、自分の意図とか好みの枠内での出会いになりがちだと思うんですよ。それがいいところでもあるんだけど。

だから、自分では出会えない曲に出会わせてくれる、ラジオもよく聴いてました。

それにあの時期、ラジオっていうメディアはすごく頑張っていた印象があります。コミュニケーションの方向性とか、メディアごとに個性が違うと思うんですよ。YouTubeは「僕はここにいるよ」っていう自己発信に向いていて、実際そういう使われ方が多いように感じる。ラジオからは「あなたに届けるよ」みたいに、受け手が主軸となった雰囲気を感じますね。

そういった形でいろんな音楽に触れていて、そのときに聴いていた曲っていうのも、もちろんその日の僕に影響を与えているわけだから、今回作った曲たちにも影響を与えているんだと思います。

「みんながそれで音楽を聴いているものっていうのを知っておきたい」

── 音楽を聴くのに使うオーディオアイテムは、近頃はどのようなものをお使いですか?

INORANさん: 完全ワイヤレスはすぐに使い始めましたね。今はMaster & DynamicのとAirPods Proを使ってます。

AirPods Proは、みんなが使っていて、それで音楽を聴いているものを知っておきたいっていうのもあって。スタジオではGenelecのでっかいモニタースピーカーで鳴らして音を確認するわけだけど、その感覚だけで作っちゃうのは違うと思うので。

だから、スマートフォンとAirPodsで聴く音の感覚を知っておいた上で、それも踏まえて、どういう音に仕上げてみんなに届けるのがいいんだろう?っていうことは意識してます。

今回マスタリングをSTERLING SOUNDのランディ・メリルに頼んだのには、その考えの延長線というところもあります。彼はレディー・ガガ、ジャスティン・ビーバー、アリアナ・グランデ、ミューズとかの作品を手掛けていて、今の時代の音作りの担い手みたいなエンジニアですから。彼のその感覚で僕の曲を仕上げてもらいたかったんです。

そうしたらやっぱり、音の作り方、空気の入れ方は、さっき挙げたような作品と一緒で、これが今のトレンドなんだなって感じました。さっきアルバムの印象として「音の響き、スケール感が大きい」って言ってくれたじゃないですか?そこなんかは特に、ランディがマスタリングで引き出してくれたところですよ。

「RYUICHIのスタジオ?あれはヤバい、ヤバいです」

── オーディオといえば、Astell&Kern「SA700 LUNA SEA 30th Anniversary Edition」、こちらも改めてお話伺わせてください。

INORANさん: Astell&Kern「SA700 LUNA SEA 30th Anniversary Edition」は、最初は僕とAstell&Kern代理店のアユートさんとのお付き合いの中で、そんな話が出てきて盛り上がったんですよ。それで他のメンバーにも話してみたら即OKでした。うちのバンドは音へのこだわりも強いですし、こういうアイテムとかガジェット、ギアみたいなものもメンバーみんな好きですから。

そういえばうちらって世代的に、アナログテープからデジタルテープ、ProToolsまで、すべてのレコーディングメディアをリアルタイムで体験してきたんですよ。ビンテージギターも今ほど高くなる前に手にして体感できたし。昔で言えば、CDをプレスする工場だけじゃなくて、その工場の何番ラインっていうのまで指定したりもしてましたね。音が違うんですよ、実際。

そうやって経験してきたからか、みんな機材へのこだわりもすごいですよ。レコーディングで使うヘッドアンプとかも、NeveとかAPIとかのビンテージのすごいやつを揃えてたりするんで。RYUICHIのホームスタジオ?あれはヤバい、ヤバいです。ギターもビンテージ含めて、僕やSUGIZOのところより揃ってますからね。

そんな風に機材とかも大好きな僕らなんで、バンドオリジナルのポータブルミュージックプレーヤーっていうのは嬉しいですよ。音はもちろん、起動時のスクリーン演出とかこのケースとか演出にも凝ってくれて。

しかも、アルバム「CROSS」の96kHz/24bitハイレゾ音源がプリインストールされてますからね。スティーブ・リリーホワイトのプロデュースで、これまでとはまた違うサウンドを作り上げた「CROSS」を、ベストなパッケージで届けることができたと思います。

あ、「Libertine Dream」もSA700 LUNA SEA 30th Anniversary Editionに入れてきてくれたんですか?そういえばこの組み合わせで聴くのは初めてかな。イヤホンはAcoustune?楽しみだな…(試聴)。

僕はこの3モデルだと最初に試した「HS1677SS」が好みですね。ローが削れることもなければピークが出ることもなくてバランスがいい。「HS1697TI」はハイが綺麗なので、女性ボーカルの方が合うかもしれない。「HS1657CU」はローミッドが強いから、その個性が好みに合うか次第じゃないですかね。

「こういうときだからこそ曲を作らなきゃならないし、届けたい」

── まだまだ先が読めない状況ですが、音楽、オーディオの楽しみは途切れないものとしてあってほしいですね。

INORANさん: そうですね。外出自粛になってたあの時期、僕自身も含めて、日本のミュージシャンとしてもうちょっとやれたんじゃないかなと思ったりはするんです。

僕らもみんなも、もちろんできるだけのことはやったんだけど、でもあの状況では、何をしたところで達成感とか満足感っていうのはないんですよ。できることはやってるはずなのに歯痒さの方が上回るというか。

それでも、これからも、できることをやり続けていきますよ。

直近では9月29日にストリーミング・ライブ「INORAN – VISION – SUITE ROOM#929」、30日にアルバム「Libertine Dreams」を発売。来年には次のアルバムと続いていきます。

結局、僕はこういうときだからこそ曲を作らなきゃならないと思うし、それを届けたいんです。

【Infomation】

New Album「Libertine Dreams」2020.9.30 発売!

■完全生産限定盤/LP SIZE BOX仕様(NKCD-6929/¥12,000+税/CD+Blu-ray+写真集)

[CD]

M-1. Don’t Bring Me Down

M-2. Soul Ain’t For Sale

M-3. Libertine Dreams

M-4. Purpose

M-5. Missing Piece

M-6. Soundscapes

M-7. ‘75

M-8. Kingdom Come

M-9. Shaking Trees

M-10. Dirty World

[Blu-ray]Don’t Bring Me Down (Music Video) 、INTERVIEW (Full Version)

[写真集]全28ページ予定

※KING e-SHOPオリジナル特典:「サイン入りポストカード」・「オリジナルコメントDVD」付き

■初回限定盤/三方背BOX仕様(KICS-93940/¥4,800+税/CD+Blu-ray)

[CD]全10曲収録(※完全生産限定盤-LP SIZE BOX-と同内容)

[Blu-ray]Don’t Bring Me Down (Music Video) 、INTERVIEW

■通常盤(KICS-3940/¥3,000+税/CD)

[CD]全10曲収録(※完全生産限定盤-LP SIZE BOX-と同内容)

◇◇◇

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi

趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。