東映ビデオは、特撮ドラマ「仮面ライダー」のシリーズ50周年を記念して、「昭和ライダー」の劇場作品8本を収録した「仮面ライダーTHE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」を11月10日(水)に発売する。

去る7月、その発売を記念して藤岡弘、(本郷猛/仮面ライダー1号役)、佐々木剛(一文字隼人/仮面ライダー2号役)、宮内洋(風見志郎/仮面ライダーV3役)のレジェンドライダー3人が並び立ったスペシャルイベントが開催されたのも記憶に新しい。

レポート記事にもその興奮を綴ったが、丸の内TOEIのスクリーンに映し出された昭和ライダーの姿は「今まで見たことがない」という感想が素直に零れ出る程に美麗な画質に “変身” を遂げていた。あまりに鮮烈な画に、「変身プロセスはどうなっているんだ…」と、スレた大人のようなことを考え出す始末だ。

そこでこの度、昭和ライダー劇場映画の4Kリマスター化の実作業を担った編集スタジオの株式会社キュー・テックにて、発売元である東映ビデオ株式会社、パッケージ事業部長の小田元浩氏と、キュー・テックのテクニカル推進部部長であり、シニアカラリストの今塚誠氏(以下敬称略)にお話を伺うことが叶った。

シリーズ50周年という節目に発売される本パッケージの企画の発端から、TV発のヒーローである「仮面ライダー」の劇場映画をレストアする上での難しさ。収録メディアが代替わりする度に出る映像パッケージの中でも「これまでとは別物」という言葉まで飛び出した「仮面ライダーTHE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」。長い時を経て、クリアな映像に “変身” を遂げることとなったその過程に迫りたい。

■「50周年」という大きなメモリアルで披露する「4Kライダー」

−−劇場のスクリーンで観た1号、2号、V3らの勇姿があまりにもクリアで、こんなに綺麗な「昭和ライダー」をコレクションとして手元に置けるなんて、すごい時代になったなあ…と思う次第です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

小田 ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。

−−早速ですが、「4Kリマスター版」作成の経緯について、11月発売の「仮面ライダー THE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」に先立って、自分が参加させていただいた上映イベントの母体となる「KAMEN RIDER FILM ARCHIVE vol.1」、また遡れば「東映チャンネル」での放送がありましたが、製品を出す前に4Kリマスターを施した映像を見せていくというのは、どのような意図があってのことでしょうか?

小田 この展開にあたっては、「仮面ライダー THE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」の企画立ち上げについて、2つポイントを説明させていただきます。まず1つ目に4Kリマスター製作する上で、必須素材となるオリジナルフィルムのデジタルスキャンの実施についてですが、元々東映本社はフィルム作品のデジタルアーカイブ化という活動を進めていて、1950年代の作品から順番に、フィルムのネガが劣化していく前にスキャニングをしていくというプロジェクトを毎年続けています。

その作業を担当しているチーム「アーカイブ・スクワッド」内で「どの作品からスキャンをするか」という、フィルムライブラリの中から選定を行うミーティングが開かれているのですが、毎年対象作品を決めていく中で、本年迎えた「仮面ライダー50周年」というのが「記念イヤー」の中でも非常に大きなトピックな訳です。

仮面ライダーの劇場作品は古くても70年代の作品と、フィルム作品という括りでは比較的新しい年代の作品ですが、アニバーサリーイヤーということで、優先的にスキャニング対象として選ばれたという経緯があります。つまり、製品主導というよりもアーカイブ化を目的とした側面が強いものでした。

そして2つ目、「仮面ライダー50周年」という大きなトピックの中、スキャニングしたものを世の中にどうお披露目するかを考え、最終的に「4Kの製品を出す」ことを大きな柱として据えました。そこで製品の発売前に今回の4Kリマスターの実力とその魅力に触れていただく機会として、4月から行った東映チャンネルでの放送と、「KAMEN RIDER FILM ARCHIVE vol.1」として丸の内TOEIでの上映企画を実施したという経緯になります。

−−収録作の劇場上映は11月発売の製品を手に取って貰うのに、十分なインパクトを与えられる施策だったかと思います。放送、上映と段階的に4Kリマスターの実力をファンへ向けて訴求していった…というワケですね?

小田 そうですね。ただ、これらの展開で本来の4Kの実力の全てをお見せすることができたかと言われればそうでも無く、このあとキュー・テックの今塚さんからもお話があると思いますが、東映チャンネルでの放送と劇場での上映の絵出しは2Kです。と言っても4Kマスターを元にレストア等の作業したものがベースになっているので、放送/上映をご覧になられた方へは、仮面ライダー史上これまでに無い「解像感の高さ」という観点は訴求できたと思います。

それでも11月発売の「仮面ライダー THE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」については、担当者としては「こんなもんじゃねえぞ!」と、さらなる違いをアピールさせていただきたいなと思います(笑)。

−−自分が観賞した2K出しの映像でもレストア作業を経た高解像感は十二分に感じた次第です。ネイティブ4Kで堪能するこれ以上の「仮面ライダー」に期待が膨らんでしまいます! では、ここで4Kマスター製作における作業フローをお伺いしてもよろしいでしょうか?

今塚 まず、フィルムスキャン作業に関しては弊社(キュー・テック)ではなく、東映ラボ・テックさんにて行われています。ネガフィルムを5K解像度でスキャンしたデータをいただきまして、弊社の方ではノイズを除去するためのリマスター作業、映像が綺麗になった段階で映像全体の色味を決めるカラー調整、これらを終えた後にロールごとに繋ぎ合わせて作品として1本化するというのが大まかな流れです。

また、ロール単位でスキャニングされたデータの画郭はフルフレームのままになっています。この状態ですと、上映画角よりも広く、画として見えていない部分も含まれていますから、サイズの設定などを行います。そしてリマスター作業の方針としてはやはり「フィルムの良さ」を残したいのが大前提としてあります。

例えばフィルム撮影作品に見られる画の粒子感はフィルムの良さ、味の一つだと思いますが、デジタル処理で補正を掛けすぎるとフィルム特有の粒子は無くなりツルツルした画になってしまいますから粒子の残し方、修復の程度については小田さんにも相談しながら進めていきました。

■ネガフィルムからのスキャン素材だからこそできた高解像感

−−製作の上で「フィルムの良さ」を引き出すリマスター方針を進めるとこととなった「決め手」みたいなものはありましたでしょうか?

今塚 リマスター作業を行う際、デジタル処理を効かせて粒子の無い現代風な風潮に仕上げるか、当時の印象を残しつつ綺麗に仕上げるかは、作品によって選ぶことになるのですが、今回は一番古いもので1972年撮影の作品になるので、個人的にはフィルム感、当時の質感は残してあげたいなという気持ちがありました。ただ、ライブラリとして保管されているフィルムがポジフィルムだった場合、本来ネガフィルムが持つ色情報が失われがちな色調となります。

フィルムは、オリジナル編集ネガ→マスターポジ→デュープネガ→上映用プリントと代を重ねて行くごとに1Kずつ解像感や色情報量が抜け落ちてしまいますから、今回の「仮面ライダー」では、幸いにもオリジナルのネガフィルムからのスキャン素材を提供していただけたのもあり、フィルムに刻まれたすべての色情報を引き出すことができました。

それと35mmフィルムには5K相当の情報量が刻まれていて、素材となるスキャンデータもそれをフルに収めた解像度のものになります。「フィルムのアーカイブ化」という側面では、4KをサポートするUltra HD Blu-rayというメディアが登場し、前世代のメディアでは不可能だったフィルム本来のポテンシャルを反映させることができるようになった今! というのもあって、フィルム本来の味を活かしたリマスター作業を推し進めることとなりました。

小田 東映では、今回の仮面ライダーに限らず劇場作品のオリジナルネガを、DVDやBlu-rayなど様々なメディアのソースとしています。ポジスキャンの時代もあったりしましたが、結局はネガからプリント(ポジ属性)を焼かなければいけませんので、マスターとしてオリジナルネガを保管しています。

先ほどお話したように年代が進むと古いネガの状態がだんだん怪しくなっていくので、二次利用をする上で、ネガの代わりにマスターとなりうる素材として4Kでのスキャンデータ化を推し進めていくのがアーカイブ・スクワッドの仕事となっております。

−−「フィルムの良さ」を活かしたリマスターの実施には、オリジナルネガの情報量を完全に読み取ったデータが必須だったというわけですね。

今塚 はい。先程も触れたように35mmネガフィルムは5K相当の情報量を持つという事実は撮影年代を問わないものですし、ビデオレンジに比較してフィルムのラティチュード(露光量によって表現される明暗差)も広いので、それを反映したスキャンデータから4K化を行うことで、これまでの最高画質であったHDリマスターと比較しても遥かにクオリティが高いものとして生まれ変わっています。

また今回は、収録メディアであるUltra HD Blu-ray のサポートするHDR(ハイダイナミックレンジ)規格によって100%以上の光の表現ができるようになりました。輝度幅や色域が広くなったことで直射日光や、被写体からの反射される光といったシチュエーションをよりリアルに表現できるようになっています。

コスチュームにしてもヘルメットにしてもバイクにしても、光の当たっている部分の反射がより綺麗に出せたりするのも、広いラティチュードを持っているフィルムだからこそ再現できるというのはあります。仮に既存のビデオからHDR化しようとすると100%以上の信号が無いので、擬似的に輝度を上げることになります。

■過剰な光の効果は出さず、作品への没入感と見やすさを重視したHDR効果

−−HDR効果について「100%以上の光の表現が可能」ということですが、古い作品を4K HDR化したという同カテゴリの作品には、デジタル処理で過剰なまでに明暗差をつけている作品もあります。今回の仮面ライダーにおけるHDR効果はどのような方針で演出していったのでしょうか?

今塚  HDRと言いますと、大抵の方は「高輝度、鮮やか、綺麗」という印象を持たれると思いますから、既存のものより良いものだろうというご想像をされると思います。もちろんその通りで、色域、輝度値は色味に関しては今までの放送規格より遥かに幅が広くなっており、元々フィルムが持っていた色情報を忠実に再現ができますが、今回の仮面ライダーにおけるHDRの効果については、高輝度再現を活かしつつ「眩しい」といった印象は出さないように心がけました。

我々はHDRを用いた映像の制作を沢山こなしてはいますが、いちばん大事なのはユーザーが視聴した時に「HDR感は出ているけど眩しさを感じさせない」というところでしょうか。例えば短尺のものだとHDR効果を顕著に出すとユーザーに喜ばれる傾向がありますが、長尺で同様の演出を施すと、眩しくて見ていて疲れるんですよね。ですから、今回の仮面ライダーは光りすぎず、あくまでも自然に、見ていて目が疲れないというガイドラインを狙ってHDR効果を出しています。

仮にHDR感を顕著に見せるためにあえて光を引っ張り出すような味付けをしてしまうと、視聴の際、光の部分に注目してしまい、ストーリーに没頭できなくなる恐れがあります。我々がこういった作品の作業に当たる際は、第一に見やすさを追求して効果を出しすぎないよう注意しながらHDR化しています。ハリウッド系の作品なんかはバリバリに光らせている作品も多いのですが…(笑)。

■撮影で使用されるフィルムの違いを吟味した上で各作品のレストアを実施

−−Ultra HD Blu-rayの特徴とも言える効果をいたずらに “アピールポイント” にせず、そのスペックを活かしながらあくまで見やすさを追求するアプローチからも、作品に対する真摯な姿勢を改めて感じられました。

別の質問になるのですが、本作収録の劇場映画は古いもので「1号ライダー」の1972年、新しいもので「仮面ライダーBLACK」の1988年と、16年もの期間に渡っています。そうなると使用するフィルムの種類なども変わっていたりすると思うのですが、それが起因して収録作の画の仕上がりを均一化する上で苦慮したポイントはありましたか?

今塚 当然、使用するフィルムが変われば、粒子感や色の発色も変わってくるので、すべて同じパラメーターを当てはめて処理する訳にはいかず、一つ一つ作品にあったパラメーターでカラー調整を行います。使用されたフィルムの特性によって赤色が強調されることもあるので、そういった事例を踏まえつつ、その作品のトーン、見え方として正しい色味に持っていくのが重要です。また、リマスターに関しても作品毎に粒子軽減のパラメーター設定を変えています。

細かなゴミや傷を消す基本的なレストア作業以外にも、フィルムのコマに大きなキズなどの破損がある場合、比較的近しい前のコマを持って来たりするのですが、その場合だと連続して同じ画が繋がってしまうため、動きが止まって見えてしまいます。そういうところに関しては細心の注意を払いながら、オートではなく、スタッフの手によるマニュアル作業で傷を修復しています。

オートで下絵を綺麗にするという方法も完璧という訳ではなく、誤修正されてしまう箇所も発生して、かえって作業量が増えるという場合もあります。最終的に物を言うのはスタッフの技量…という世界ですね。消せば消すほど残ったゴミが目立つので徹底的にやっております。

−−今作のレストアに限った話ではないと思いますが、最後は技量で詰めていくというのも、仮面ライダーらしさを勝手に覚えてしまいます。今回の収録作だけでも16年のスパンがあるように、仮面ライダーは歴史の長い作品ですが、このシリーズについて数々のメディアで製品化を繰り返してきた中で、今回の4K化に活きたフィードバックなどありましたでしょうか?

今塚 過去に「仮面ライダーT Vシリーズ」のテレシネ作業(フィルムから映像信号への変換)を何作品か携わった経験がありまして、その作業では16mmプリントフィルムを使用したこともあり、比較的暗部が締まった「おどおどしい色味」で日本の作品独特のブルー系のシンプルな色味が印象的でした。

今回も「おどおどしい色味」に準じて製作することもできはしましたが、技術の進歩やご家庭のテレビのクオリティも格段に上がっていますので、フィルムに収められた情報は極力引き出したいと作業に挑みました。ただし、赤色はフィルムの特性により必要以上に目立ってしまいますのでカラーバランスを調整しています。

また、4K化することで「このキャラはこんなに鮮やかだったのか!」という発見もありながら、鮮やかすぎてカラートーンが「おどおどしさ」から逸脱してしまったり、 鮮明に再現しすぎてショッカーや怪人の持つ恐怖感を失ってしまいますからカラーバランスには十分注意を図りました。

■劇場公開用に作られていてもブローアップ版が帰属するのは「TV作品」

−−実際に2K出しの劇場上映を見ている最中にも、造形物に施された塗装の質感など「手作り感」を感じる程の4Kリマスターの高解像感にテンションが上がりました…!

話は変わりまして、ボックスの収録作品について伺いたいのですが、東映チャンネルでの4Kリマスター版放送の際、ラインナップに『ゴーゴー 仮面ライダー』(1971年)といったブローアップ版(16mmのTVフィルムを35mmの劇場用フィルムに焼き付けた仕様)5作品がありましたが、「仮面ライダー THE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」には収録されていません。何か理由があるのでしょうか?

小田 ブローアップ版もフィルムアーカイブとして、スキャンデータは作成しています。ただ、ファンの方々ならご存知かと思いますが、ブローアップ版を「劇場作品」という括りでパッケージ化したのは現状、2003年発売のDVD「仮面ライダー THE MOVIE BOX」で最後になっています。

このことから、発売を控える「4KリマスターBOX」の前段となる2011年の「仮面ライダー THE MOVIE Blu-ray BOX 1972-1988」にもブローアップ版の収録はありません。TVのフィルムを使用した劇場作品という性質上、Blu-ray以降は、TV版商品にオリジナルを収録するという考え方をしております。今回もそれに倣って、スカパー・東映チャンネルで放送されたブローアップ版5作品の収録を見送ったという形です。

ちなみに2003年発売のDVD BOXにブローアップ版を収録した理由は、もはや歴史的記録の側面が強いですね。TVシリーズが4:3の画角の作品になるので、それを劇場上映用にシネスコ、横長の画面比率にするとなると、元の画からかなりカットされる部分が出てきます。内容的にはTVで放送されていたものと同一ではありますが、「当時どのような形で劇場上映されていたか」という記録として持っておきたいというファンのために収録したというところです。

ファンの方からすれば映倫のマークが入っているだけでも「違い」として取れるだろうということで、劇場作品を集めたパッケージのDVD版ではブローアップ版作品を記録という観点で収録していましたが、その役割もDVDで終わったとしております。

■TV発のヒーローだからこそ生じる撮影素材の違い

−−ブローアップ版の収録見送りは今回に限ったことではなかったというのと、作品性質上TVシリーズのBOXに収録しているというのも腑に落ちました。スカパー放送の4K版ブローアップ5作品もメディアとして発売されるタイミングも「いつの日か」と期待したく思います。

お話を聞く中でDVD/Blu-rayと前世代メディアの存在が話題に上がりましたが、今回の4K化に際して前世代メディアでの作業と大きく異なる点もあったりしたと思うのですが…?

今塚 そうですね。今回のUltra HD Blu-rayの要素として先程もお話しましたがHDR効果を付与する上では、これまで以上にパラゴミの除去作業に相当気を使いました。そこに関して言えばDVD/Blu-rayなどのSDR作品とは大きく異なる部分ですね。HDRは主に光の効果なので、HDRを効かせるシーンにゴミが残っている状態だとゴミも一緒に光りだしてしまいます。

また、繰り返しになりますが今回は35mmのオリジナルネガスキャンから作業を行っていることもあり、35mmで撮影された劇場作品においても変身シーンについてはTVシリーズのバンク(複数の放送回に渡って使い回すことを前提に撮影されるカット)を使用している箇所が多く、該当シーンは16mmのTV用撮影フィルムからブローアップされたものになります。その箇所についてはシーンの拡大と一緒にゴミや粒子感も拡大されているワケです。

前後の35mmのシーンと粒子感を擦り合わせる補正作業も大変でしたし、ゴミを消しても消しても消しきれない難所です。35mm素材とは質も違えば画のフォーカス感も異なるので、イコールの画質にはなりませんが極力ゴミを消し、粒子感をなだめるといった措置を施しました。

他の作品でもままある事例ですが、「変身モノ」である仮面ライダーは特に顕著ですね。変身シーンはTVシリーズの流用としている場合が多いですからね。色味についてもブローアップ箇所は言ってしまえばコピーのコピーなので、色の再現が浅くなっています。そこを如何に繋ぎ良く色調整するのがカラリストの力量だと思います。

あとは、作業も大詰めになると怪人との戦いのような細かいカットが急激に増えてくるので、その時の切り返しの色味の違いや、言ってしまえば天候や時間帯の違いから生じるシーンの違和感を無くすことにも注力しました。この作業が生じるのも、素材の大元となるネガにはその違いが解ってしまう程の光や色味の情報が記録されているからなんですね。代を重ねた上映用のプリントでは意外と目立たなかったりもします。

プリントもそうですが、既存のマスターでもこういった差異はそこまで顕著に出ていません。では、ネガスキャンのマスターを使用する今回の「4KリマスターBOX」でそのままを出してしまうと、やはりシーン単位の繋がりが悪い。その箇所についてはカラー調整を丁重に行うと同時に、先程も触れたようにHDR効果を出し過ぎず、購入されたユーザーにも作品を集中して見てもらうことを前提として作業に当たりました。

−−製品が出る度、最善を尽くして製作に当たられていることと思いますが、今回の4Kリマスターについてはお話を聞いていて「これ以上」があるのか? と言うこだわりぶりに感動を覚えます…! 「ゴミも拡大する」と言われたブローアップ箇所のリマスターは、35mm撮影部分と比較して作業にも手間が掛かるのでしょうか?

今塚 拡大になるのでやはり全体的にボケています。これはシーンだけでなく、ゴミもボケてしまうため、例えばリマスター作業の際に使用するアプリケーションで「オート」という映像として残すものとゴミを自動的に判別して、小さいゴミをある程度取ってくれる機能があるのですが、ブローアップ箇所ではゴミをゴミとして認識してくれないんですね。そうした事情もあり、作品を通して一番手間と時間が掛かるのは16mmからブローアップした箇所、TVシリーズからの流用部分になりますね。

−−なまじTVシリーズと同じシーンなので見る人が見ればわかってしまう部分でもありますからね。ちなみに、1作品あたりどれくらいの時間を掛けてリマスター作業を行うのでしょうか?

今塚 工程ごとに段を追って着手するという流れで、1作品終わったら次の作品、というフローではないので、正確な数値は出せないですが、1作品を30〜40分の上映尺とした場合の作業時間は大体約4日間というところでしょうか。ただ、どの作品もカラコレやリマスターの修正が入るなどしてスンナリ通ることはないので、あくまで目安として捉えていただければ…というところです。理想としては1作品ずつ作業に当たることができればいいな、とは思うんですが(笑)。

−−丁寧なリマスター作業を行っている中、複数の作品を回されていたのですね…本当に恐れ入ります。このように、年代の異なる複数の作品を収録しているので、作品によってシネスコ、スタンダード、ビスタなど画角の違いが生じていますが、アスペクト比の違いで作業を行う中で何か変わるところはありましたか?

今塚 例えば初期作品に多く見られたシネスコ画角の作品はアナモフィックレンズ(横方向を圧縮して結像し、ポストプロセスおよび、映写時に圧縮率を電気的に戻すことでシネスコの画角を生み出すもの)を用いた撮影方式になっています。上下に黒マスクのない16:9の画角を見慣れている身としては、黒マスクが入り縦の画に対して横の情報量が多い比率となり視野範囲が広くなる印象となりますので慣れるまでに多少の時間を費やしました。

また、フィジカル面以外の要素では、カット変わりに生じるスプライスノイズもアナモフィックにより横方向に拡大されてしまいますので、レストア作業は難航しました。

■「4KリマスターBOX」を通じて作品が本来持つ魅力に触れてほしい

−−いずれもこだわりの上で作業に当たっているとは思いますが、収録作で一番作業が大変だった! というタイトルを挙げるならどの作品でしょうか?

今塚 数多くのレストア作業に携わってきたチームリーダーの岩崎曰く「変身シーンが多い作品が1番大変だった」とのことなので、この質問への回答は1974年公開の『五人ライダー対キングダーク』とさせていただきます。恐らく変身シーンの数だけバンクカットも増えて…という感じでしょうか(笑)。それと、『五人ライダー対キングダーク』は全体的にフィルムの露光が暗かったので、明るくしたことでパラが他作品と比べて目立ち、さらにHDR化により光ってしまうことと、粒子感の調整が一番大変だったようです。

−−Xライダー以外の4人が変身するが奇岩城での下りですね! キングダークの強敵ぶりをこんなところでも思い知ることになるとは露ほども思いませんでした…。視聴の際、該当箇所を注視してもらって、すり合わせの見事さに気付いていただければキュー・テックスタッフの激闘も報われるというものですね…!

ここまでリマスター作業に伴う逸話を伺う中でも「これまでと違う」ポイントの数々を知ることができましたが、これまでのお話を踏まえた上で、特に見ていただきたいポイントや、パッケージとしての意義等を改めてお二方から一つずつお伺いしてもよろしいでしょうか?

小田 仮面ライダーの劇場版をその時代の新しいメディアで製品化するというのは、長い間仮面ライダーを支えているファンの方からすれば、LD買いました。VHS買いました。DVD買いました。Blu-ray買いました…と、「何回目の購入か?」という話にもなってしまうんですよね。

1番直近となるのが2011年の「仮面ライダー THE MOVIE Blu-ray BOX 1972-1988」になるのですが、回り道な言い方をすると、東映チャンネルで放送されていたHDリマスターとBlu-rayマスターはそもそも違うもので、放送用にHDマスターを作った後に、Blu-ray収録のために追い込んで粒子感を軽減するなどの作業をしていました。

仮面ライダー以外のタイトルでもそうなのですが、Blu-ray化の作業では画の質感を「ツルツルにする」。粒子感を取ってわかりやすく「DVDとは違うもの」という画作りで、すでにDVDをお持ちのユーザーにも手を伸ばしていただけるよう、第一印象で綺麗な物と感じてもらえるアプローチでリマスターしよう! という意識がすごく強かったです。

ただ、今回の「仮面ライダー THE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」はこれまでお話していただいたとおり、フィルムのもっている情報量をそのままお届けしようというコンセプトで、リマスター化していますので、直近出たBlu-rayとはまったく違う仕上がりになっています。4回目になるのか、はたまた5回目になるのかというメディア化ですが、「これまでとは別物」と思って、作品が本来持つ魅力に触れていただければと思います。

今塚 技術的なところで言いますと、1970年代初期の青系の「おどおどしい色味」が表出する作品でも、もし当時の撮影現場に今の技術を持ち込むことができたなら、今回僕らが仕上げた発色を再現することができたと思います。もちろん当時のスタッフ達が、当時の技術を用いて詰めに詰めたものとして、今日まで親しまれているのも事実です。

ですので、世代の方が今回の「4KリマスターBOX」収録作を見られた際には「仮面ライダーじゃないよ、明るいよ」とか、「発色が良すぎる」などと思われるかもしれません。しかし、我々としてはそういう味付けを後付で行ったのではなく、当時の技術では再現できなかったフィルムに刻まれた色味を今では再現することができる、言ってしまえばこれが作品の持つ本来の色味、明るさ、シーンだよというのを理解して見ていただきたいな、と思っています。

16mmのテレシネについてお話した際にも触れたように、当時の色味というのは携わったクリエイターの狙いというよりも、当時の技術限界の表れとも言えるものだと思います。「昭和感のあるノスタルジックな色味」というのをそのまま出すべきか? と悩みもしましたが、フィルムの持っている情報は本来出すべきという考えの中、出過ぎてしまう部分を抑えながら作業に当たりました。

時代の経過に伴い、フィルムに眠っていた情報を引き出せたというのをお手に取って実感して貰えればと思います! ここで、今回の作業に携わった水沼(キュー・テックカラリスト)が同席してますので意見をいただきましょう。

水沼 HDR化した際にライダーのマスクの光沢感などの素材感の表現には驚きました。あとは、HDR表現が顕著なところですと、爆発シーンには注目していただきたいですね。爆薬の使用量が今にしてみてもありえない『仮面ライダーV3対デストロン怪人』(1973年)オープニングで立ち上がる煙のディテールですとか、『仮面ライダーBLACK 恐怖!悪魔峠の怪人館』(1988年)では空撮で爆破シーンを押さえています。こういった派手なシーンについては、HDRならではの見応えがあると思います。

今塚 確かにあの火薬の量は今ではありえないよね(笑)。当時携わった現場スタッフの方々もかなり危険な撮影だったのでしょう…って心配になるくらいの迫力というか…。

小田 『デストロン怪人』については先日のトークイベントでも宮内さんが「爆破が好きなんです」と話されていたり、むしろ宮内さんが火薬の量を増やす傾向があったり、カメラが回っていなくてもスタッフの中に自ら入っていたりと精力的な方だったそうですからね。仕上がった映像がなまじ迫力があるものだから、ネットでは尾ひれがついた「逸話」を見たりもしますね(笑)。

−−「同じ方法で今の日本だと撮影できないだろう」という映像を、これまで以上に鮮明な映像で自身のコレクションとして所蔵、アーカイブとして手元に残せるというのは本当にファン冥利に尽きると思います。この度はお忙しい中、貴重なお話の数々をありがとうございました!

今から50年前、TVから生まれたヒーローである仮面ライダー。昭和、平成、令和と時代が移ろいゆく中、2000年放送の『仮面ライダークウガ』から現在放送中の『仮面ライダーリバイス』まで、21年に渡って絶えず展開が続いているのも、シリーズの礎たる「昭和ライダー」の存在は非常に大きいだろう。

時代を経るにつれて、シリーズの初期作品群は「歴史的」「レガシー」というような言葉で飾り立てられ、懐かしさを覚える対象となりがちだが、4Kリマスターという技術で文字通りさらなる “変身” を果たした昭和ライダーの劇場版は「懐かしさを覚える対象」ではなく、「仮面ライダー」という映像作品全体の今後の指針と成り得るような、熱いこだわりをもって製作されたことがありありと伝わる取材となった。

インタビュー中でも触れられているように、記者が見て感嘆したイベント上映版の画質でさえ2K上映のもの。フィルムの持つ情報量をすべて反映し、約50年越しの「全力全開」を収めた「仮面ライダー THE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」(税込販売価格:22,000円)は11月10日(水)の発売となる。

また、Amazonでは、めんこ風カード8種セットとカードデッキケース、さらに「東映チャンネル仮面ライダー生誕50周年記念特集放送ポスター(B2サイズ)」を封入したバンドル特典付き仕様を販売(税込:24,750円)。

「仮面ライダーTHEMOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」

組数:4K UHD BD 2枚/BD 2枚。販売価格:22,000円(税込)。

■収録内容

DISC1

・「仮面ライダー対ショッカー」(1972年3月公開)

・「仮面ライダー対じごく大使」(1972年7月公開)

・「仮面ライダーV3対デストロン怪人」(1973年7月公開)

・「五人ライダー対キングダーク」(1974年7月公開)

DISC2

・「仮面ライダー 8人ライダーVS銀河王」(1980年3月公開)

・「仮面ライダースーパー1」(1981年3月公開)

・「仮面ライダーBLACK鬼ヶ島へ急行せよ」(1988年3月公開)

・「仮面ライダーBLACK 恐怖!悪魔峠の怪人館」(1988年7月公開)

スタッフ 原作:石ノ森章太郎

発売元:東映ビデオ株式会社

販売元:東映株式会社

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