Wi-Fi 7に向けた機能開発も推進

■機器間の接続は高速Wi-Fi

Snapdragon AR2のプラットフォームは、ヘッドセットとホスト機器間の通信をWi-FiによるP2P接続としている。Wi-Fiの次世代規格である「Wi-Fi 7」のローンチに向けて、クアルコムは5GHzと6GHzの複数無線帯域を同時に活用して高速接続を実現する「High Band Simultaneous Multi-Link(HBS)」という機能を開発した。

クアルコムのエコシステムはSnapdragonのモバイル向けチップセットと、AR向けチップセットを搭載する機器を揃えて、Wi-Fi 7とHBSを同時活用することでユーザーにベストな体験を提供する。ただ、一方でWi-Fi 7に対応する機器の数と無線環境は、当初かなり限られることが想定される。またWi-Fi 6以降の新しい無線通信規格を利用できない地域もあるだろう。Snapdragon AR2のプラットフォームは、Wi-Fi 7よりも通信パフォーマンスは落ちるものの、現行Wi-Fi規格でも快適な使い勝手を担保できているという。

■ハードとソフトの両輪でXRを盛り上げる

Snapdragon Summitのイベントでは、クアルコムから、Snapdragon AR2のプラットフォームを採用するリファレンスモデル等のハードウェアの展示はなかった。ナイアンティックがステージで発表したプロトタイプもまた、プレゼンテーションの画像とイメージビデオでの紹介だったため、ハードウェアのお披露目はなかった。今後、新しいプラットフォームに沿って開発されたARヘッドセットを目の当たりにすれば、クアルコムが理想に描く「快適なARヘッドセット体験」がもっとリアルにイメージできるようになるはずだ。

Swart氏は「日本の企業とハードウェアとソフトウェア、両方向からのパートナーシップをさらに深めたい」と意気込む。Snapdragon Summitの直前にも、Swart氏は日本に足を運び、次世代のARビジネスについて多くの企業とディスカッションを重ねてきたという。

「Snapdargon ARは、コンシューマーから産業用まで多くの方々が期待していたARヘッドセットを開発するために最適なプラットフォームです。クアルコムはARのコンテンツを開発するためのプラットフォームも提供しています」(Swat氏)

Swart氏が話題に挙げた「Snapdragon Spaces XR Developer Platform」は、VRやARなど様々な空間コンピューティング体験のアプリケーションソフトウェアを開発するためのデベロッパー向けキットだ。デベロッパーが現在活用するUnity、またはUnrealエンジンによる開発環境にプラグインとして組み込めることから、クリエーションのノウハウや資産の “XR化” がスムーズに行える。

先に触れたナイアンティックとの協業は、ハードウェアだけでなくソフトウェアの開発においても、今後はさらに一歩踏み込んだ形で展開される。ナイアンティックの「Lightship VPS」は、屋外でARコンテンツを楽しむユーザーの現在位置と体の向きを判定し、3D ARマップ情報を元に、現実世界の中にARコンテンツをセンチメートル単位で正確に描画するためのソフトウェア技術だ。クアルコムとナイアンティックはそれぞれの開発環境を結びつけながら、今後は「アウトドアで楽しむARコンテンツ」の拡大にも注力することをSnapdragon Summitで発表した。

クアルコムのARヘッドセットに特化した新プラットフォームを活用した製品開発には、早くもレノボやLG、Nreal、OPPO、Vuzixなど、これまでにもクアルコムと密接に連携してきたパートナーが熱い関心を寄せている。日本の企業はシャープとQONOQ(NTT)が名を連ねている。Snapdragon Spacesのパートナーシップも勢いよく拡大しているようだ。

■クアルコムは今後もXRに全力投球

Swart氏は「クアルコムは今後もXRに積極的な投資を続ける」と力強く語った。「今後、メタバースや空間コンピューティングに対する市場の関心はさらに高まるものと確信しています。業界が手を取り合って盛り上げれば、今後は安定して良い方向へ向かうカテゴリーであると考えていますし、また各国の政府、通信事業者も前向きです。その点で、いまXRやARに注力する選択に迷いはありません」

今回のイベントで発表したARヘッドセット向けのプラットフォームは、なぜ「AR1」を飛ばして「AR2」になったのだろうか。2018年にXR1を立ち上げてから時間が経っていることもあるが、Swart氏は「プレミアムクラスのARヘッドセット向けのプラットフォームがAR2であり、今後は上下にAR1、AR3を展開する可能性もある」と説明している。

クアルコムはSnapdragon AR2について、マルチチップとそれぞれをつなぐインターフェースのレイアウトのレコメンドは各パートナーに供給するものの、基本的に「プロダクトのデザインや差異化につながる機能の設計、外部オーディオ機器やモバイルバッテリーパックとの組み合わせなども自由につくりこめるプラットフォーム」であるとSwart氏は説明している。

あとはiPhoneをはじめ、Snapdragonのチップセットを搭載しないメジャーなスマホとの連携がどのような形で具体的に実現できるのかも気になるが、今後クアルコムのXRに関連するテクノロジーと提案に注目する必要がありそうだ。