ソニーのウォークマン「NW-A300」シリーズが今年1月末の発売から好評を博しているようだ。Android OSを搭載するハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーの入門機から、ベストなサウンドを引き出せるヘッドホン・イヤホンの組み合わせを試した。音楽配信サービスを“いい音”で楽しむ方法も探ってみよう。

■銘機の誕生から10年、エントリークラスの銘機が生まれた

ソニーが2013年の冬にハイレゾ対応のウォークマン「NW-ZX1」を発売してから、間もなく10年を迎える。

「NW-A300」は、10年前のフラグシップモデルだったNW-ZX1の「ハイレゾ再生」と「Android搭載によるストリーミング再生」という2本柱の楽しみ方を継承しながら、Bluetoothによるハイレゾワイヤレス再生、多彩なEQ機能によるサウンドのカスタマイゼーションなど、さらに用途を拡大してきた。高音質パーツの採用など細部にまでわたるブラッシュアップも遂げている。

ソニーストアでの販売価格は「NW-A306」が46,200円(税込)から。ハイレゾ対応の“ストリーミングウォークマン”の中ではエントリークラスのモデルだが、開発に携わったソニーのスタッフは発表当時、NW-ZX1の音質を凌駕するサウンドと充実した機能を実現できたと語っていた。

NW-A300が搭載する機能やスペックの詳細についてはPHILE WEBの関連記事も読みながら補足してほしい。

最新A300シリーズに合う有線イヤホン・ヘッドホンを探せ!

NW-A300シリーズはLDAC対応によるハイレゾワイヤレス再生も楽しめるが、やはり本命は有線接続のヘッドホン・イヤホンを組み合わせる本格派のリスングスタイルだ。ソニーの開発担当者も以前、NW-A300シリーズを含むハイレゾ対応のウォークマンは「有線接続による高音質」を大事にしていると語っていた。本機はバランス接続には非対応だが、グランドを分離・強化したこだわりの3.5mm/4極ジャックを搭載している。アンプは独自のフルデジタルアンプ「S-Master HX」だ。

今回は比較的安価なハイレゾ対応のイヤホンからハイエンドクラスのヘッドホンまでをいくつか集めて、NW-A300シリーズの実力を確かめてみよう。リファレンスの楽曲にはOfficial髭男dismの『宿命』(96kHz/24bit FLAC)を選び、純正音楽プレーヤーの「W.ミュージック」アプリで再生した。EQは使わずにソースダイレクトを選択している。

■オーディオテクニカ「ATH-CKS770X」 -ハイレゾ探訪がここから始まる-

まずは“アンダー1万円台”のハイレゾ対応イヤホンから。オーディオテクニカの人気シリーズ“SOLID BASS”の「ATH-CKS770X」だ。

ウォークマンがイヤホンの実力を余すところなく引き出している。見晴らしが良く、低音の切れ味が鮮明。ボーカル、ホーンセクションの高音域が気持ちよく伸びる。ハイレゾらしい解像度の高さも感じられる。だが、同時にウォークマンの側にまだ「余裕」があることもよくわかる。音のきめ細かさ、パワーと厚みをもっと引き出したい。「ハイレゾ探訪」がここからスタートした手応えを得て、ワクワクが止まらなかった。

■ソニー「MDR-1AM2」 -音の輪郭がシャープで躍動感も冴え渡る-

2012年に誕生したレジェンド「MDR-1」を始祖とするソニーの“有線専用”ハイレゾ対応ヘッドホンも、現状の最新モデルである本機が発売されてから、早くも5年が過ぎた。ソニーストアでの販売価格は34,100円(税込)。NW-A300シリーズとの値段的な釣り合いがとても良い。ソニーのハイレゾ対応ポータブルオーディオ製品どうしで「音・使いやすさ・デザイン」の相性もベストだ。

インピーダンスが16Ωで、ハイレゾスマホでも鳴らしやすいヘッドホンだが、ウォークマンA300と組み合わせれば「もっと良く鳴る」。『宿命』冒頭の重低音をどっしりと響かせる。音の輪郭がシャープで歯切れよく気持ちいい。ボーカルは芯が強く粘り腰。躍動感も冴え渡る。ブラスの煌びやかな高音域に包まれる。ピアノやギターの音は過度に飾り立てることがなく、すっきりと心地よく聴ける。ソニーにはぜひすべてのウォークマンAシリーズのユーザーが幸せになれるように、MDR-1シリーズを次の世代につないでほしい。

■ソニー「IER-M7」 -繊細なディテールの描写力に長ける-

ソニーが新しいウォークマンA300シリーズとの組み合わせに最適としているイヤホン。本機も発売から4年半ほど経つモデルなので、もはやその実力は多くのポータブルオーディオファンが知るところだろう。オーディオリスニングからイヤーモニターとしての用途にも幅広く支持されている。

クワッド・バランスド・アーマチュアにより繊細なディテールの描写力に長けている。NW-A300に組み合わせると、ピアノやギターの音の輪郭が力強く立体的に描かれた。打ち込みのリズムは軽快で抑揚に富んでいる。低音は柔らかくしなやか。NW-A300が持つパフォーマンスをフルに引き出せている満足感が得られる。ただ、価格がNW-A300の倍以上(104,500円・税込)もするので、なかなか手を出しづらい。ソニーには3〜5万円前後の良質なハイレゾ対応の有線イヤホンの開発にもぜひ力を入れてもらいたい。

■ソニー「MDR-Z7M2」 -シルキーでふくよか、余韻が芳醇-

ソニーの密閉型ヘッドホンフラグシップ機も聴いた。期待通りのいい組み合わせだ。明るく朗らかな印象だったMDR-1AM2のサウンドに対して、MDR-Z7M2のサウンドはシルキーでふくよか、余韻が芳醇。キャッツアイの来生姉妹で例えるならばMDR-1AM2が「愛」で本機は「泪」だ。課題曲とした『宿命』では雄大な情景を描く。元気な楽曲も良いが、Z7M2との組み合わせならジャズやクラシックも存分に聴き込みたい。いつかはZ7M2、憧れのヘッドホン。

■ゼンハイザー「HD820」 -音場の見晴らしが広がり迫力も感じられる-

最後に、NW-A300が300Ωのハイ・インピーダンス仕様のプレミアムヘッドホンも鳴らせるのか確かめた。サウンドはちょっと硬めに感じられるものの、端々までフォーカスが合った美しい風景写真を眺めているような透明感を味わった。音場の見晴らしが高さ方向にグンと広がり、ボーカルも前に近付いてくるような迫力がある。音量設定はMDR-Z7M2よりもう一段上げる必要があるものの、鳴りっぷりの良さに不足感はない。HD 820との相性は文句なし。ほかのプレミアムヘッドホンとの組み合わせもぜひ聴いてみたくなった。

■ハイレゾストリーミングを良い環境で楽しむ方法

NW-A300シリーズはAndroid 12とWi-Fiによるインターネットへの常時接続機能を備えるストリーミングウォークマンだ。Amazon Music UnlimitedやApple Musicのアプリをインストールして、それぞれのサービスが配信するハイレゾ音源のストリーミング再生が楽しめる。

ウォークマンの場合、システム設定から「音」を選択後、「ハイレゾストリーミングの使用」をONにすると、音楽配信サービスのハイレゾ楽曲を「ハイレゾで聴く」ための体制が整う。この設定がOFFのままだと、Amazon MusicやApple Musicのアプリ側のストリーミング設定からハイレゾを有効化しても、すべての出力が48kHz/16bitに制限されてしまうので要注意だ。

ただ、「ハイレゾストリーミングの使用」をONにすると、ウォークマンが搭載するAndroid OSの制約によってアプリ、およびアラート音などシステムの音声出力が192kHz/32bitに変換されてしまう。唯一、W.ミュージックアプリによる音楽再生のみ、システムのハイレゾストリーミング設定に影響を受けることなく、元の楽曲データのサンプリング周波数とビット深度のまま出力される。

ハイレゾ配信よりも、moraなどミュージックストアで購入したハイレゾ音源をウォークマンにダウンロードしてW.ミュージックアプリで聴く方が、同じ楽曲で聴き比べた時に純度が高く感じられる理由はこの辺りにありそうだ。

でも、だからと言ってウォークマンでAmazon MusicやApple Musicなどアプリによるハイレゾストリーミングを楽しまない手はないと筆者は思う。ストリーミングサービスによってハイレゾで入手可能な様々な楽曲を知り、気に入った音源は別途購入して、より良い再生環境を探求すればいい。

■DSEE Ultimateやバッテリーセーバーも使いこなそう

ハイレゾ以外のストリーミング音源やダウンロード音源、CDからリッピングした音楽ファイルをウォークマンに保存して聴く場合はDSEE Ultimateの機能も有効に使いたい。

DSEE Ultimateは、AIにより楽曲再生時にハイレゾ級の音質にまでリアルタイムにアップスケーリングする技術。最新版Ultimateではサンプリング周波数とビット深度の両方をAIによって拡張する。

2019年に発売されたNW-A100シリーズではヘッドホン・イヤホンの有線接続時、およびW.ミュージックアプリによる再生時のみDSEE Ultimateが有効になった。一方、今回のNW-A300では音楽再生時はアプリによる制約を設けず、DSEE UltimateをONにすればアップスケーリングがかかる。ただし、元が88.2kHz/24bit以上のコンテンツを再生する場合には効果はない。

NW-A300シリーズでは、SoCに省電力性能の高いクアルコムのチップを採用した。さらにソフトウェアのチューニングをブラッシュアップしたことで、Wi-Fi経由によるストリーミング再生時に消費されるバッテリーをNW-A100シリーズよりも低く抑えている。

とはいえ、Wi-Fiを使わない場合に比べるとバッテリーが消費されるスピードはNW-A300シリーズも若干早くなるように、実機で試した限りで筆者は感じる。Android OSの設定にある「バッテリーセーバー」をONにしても、端末のオーディオ再生のクオリティには基本的に影響が及ばない。なので、この機能を積極的に活用する手もアリだ。

Androidスマホの感覚で、NW-A300シリーズもつい電源を常時オンのままに使ってしまうという方もいるはずだ。電源の切り忘れにより、いざ音楽を聴きたい時にウォークマンのバッテリーが尽きているということがないように「自動電源オフ」の設定も済ませておこう。

これからウォークマンAシリーズの購入を検討している多くの方々に、このレポートが良いヘッドホン・イヤホン、そして音楽コンテンツとの出会いを呼ぶきっかけとなることを願うばかりだ。