アップルは、iPhoneなどプロダクトの製造からサプライチェーンにつながるパートナーによる取り組みを含めて、自社の事業に関わる電力をすべて再生可能エネルギーに置き換えることにも注力している。エコフレンドリーなマテリアルの開発、リサイクルのためのテクノロジーなど、アップルが押し進める環境対策の現状を取材した。

■アップルが宣言している環境対策とは

アップルは2018年春、世界各地に展開する同社施設の電力についてについて、100%クリーンエネルギーでまかなうことを達成した。続いて2020年の夏には、プロダクトのライフサイクルのすべてを通じて、2030年までに気候への影響をネットゼロとする「100%カーボンニュートラル」化に転じる目標を宣言している。これは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が掲げる目標よりも20年早い達成目標だ。

「アップルでは自社事業のオペレーションを100%再生可能エネルギーでまかなうノウハウを蓄積した。いまはサプライチェーンにつながる外部パートナーとの連携による製造を含む、カーボンニュートラル実現に向けた知見を着実に積み重ねている」と、米アップルの環境およびサプライチェーン・イノベーション担当シニアディレクターであるサラ・チャンドラー氏は語る。

2015年以降、アップルはサプライヤークリーンエネルギープログラムを通じて、太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの転換を促進し、個別の製造サプライヤーの取り組みを支援してきた。アップルのサプライチェーンに使われている再生可能エネルギーは、2021年に1,830万メガワット時のクリーンエネルギーを生み出し、約1,400万トンの炭素排出を回避することにもつながった。

現在、213社のサプライヤーが、アップル製品の製造に100%再生可能エネルギーを使うことを確約しているという。日本では2022年現在、29社がアップルのクリーンエネルギープログラムに賛同し、製造環境の “再エネ化” を図った。本誌でも以前に村田製作所と恵和の取り組みをレポートしている。チャンドラー氏によると、日本企業のサプライヤーは昨年同時期から3倍に増えたという。

かつて再生可能エネルギーによる電力は供給量が不足しており、製造サプライヤーに少なからぬコストの負担を強いていた。現在では、再生可能エネルギーの選択肢は太陽発電だけでなく風力などほかの発電方法にも拡大している。

■プロダクトに使われているマテリアルを一つずつ吟味した

アップルは同社の製品が排出する「カーボンフットプリント」を減らすための手段として、エコフレンドリーなマテリアル(=材料)の開発と、これをリサイクルする技術と環境の整備にも力を入れている。

「従来のサプライチェーンは地球から新たにマテリアルを採掘し、片方向に消費するリニアな形態が中心でした。製品に使われる材料は常に効率よくリサイクルされていたわけではありません。アップルが理想とするのは循環型のサプライチェーンです。すなわち、新しい製品をつくる際にもリサイクルされた材料、再生可能なマテリアルのみを使い、またその材料は循環型のサプライチェーンの中で繰り返し役目を果たすような在り方です」(チャンドラー氏)。

アップルによる循環型サプライチェーンには以下、4つのポイントがある。

・Sourcing:リサイクルされた再生可能なマテリアルを使う

・Efficiency:マテリアルの使用量を減らし効率よく製造する

・Longevity:プロダクトライフを長寿命化する

・Recovery:使用を終えた製品から材料を回収、リサイクルする

アップルは2019年、同社製品の基幹部品に使われている45種類のマテリアルについて、それぞれの精密なデータ解析を行い、分析結果を「Material Impact Profiles」として報告した。

カーボンニュートラルを達成するために、高い効果が引き出せるマテリアルから優先順位を付けて取り組んできた。現在アップルが出荷する製品の総質量の約9割を占めるという14種類のマテリアルについて見直しを行い、その成果をホワイトペーパーとして公開している。事例については後述する。

■独自のリサイクルロボット「Daisy」を開発

チャンドラー氏によると、アップルでは使い終えた製品から部品を効率よく回収し、再利用するための技術開発にも注力しているという。その代表格が、iPhoneをリサイクル可能なパーツに分解する産業用ロボット「Daisy(デイジー)」だ。

従来は、ス製品の原材料となるマテリアルを細かく刻んでからリサイクルしていた。だが、この手順では回収すべきマテリアルの純度が下がり、回収率も上げられない。アップルではより効率のよいリサイクルを実現するため、iPhoneなどデバイスを丁寧に分解し、リサイクル可能なマテリアルを分類抽出するロボットを自社で設計開発した。

Daisyは最大で年間120万台のデバイスを分解できる。現在は23種類のiPhoneのモデルに含まれている素材を精密に特定しながら、必要な部品を取り出す作業に従事しているという。米国とオランダで、1台ずつのDaisyが稼働している。

続いて誕生した「Dave(デイヴ)」は、Daisyの作業ラインの後続ステップで、iPhoneからTaptic Engineを取り出し、希土類元素の磁石やタングステン、鋼鉄を回収するスペシャリストだ。

Daisy、Daveが取り出したiPhoneの部品、約1トンぶんからリサイクルされる金属の量は、鉱山から採掘される金属の量をはるかに超える規模にもなるという。ロボットが分解・回収した部品を元にリサイクルされる材料は純度も高いことから、再利用にも適している。

2021年は再生されたタングステン、希土類元素、コバルトの使用量がそれぞれ2倍以上になり、2021年にアップル製品に使われた全素材のうち、およそ20%を再生素材でまかなった。これは過去最大の規模になるという。

さらにアップルが2019年にテキサス州オースティンに開設したMaterial Recovery Lab(素材再生研究所)では、最新のリサイクルマシン「Taz(タズ)」が開発された。アップル製品のオーディオモジュールに含まれる磁石を分離し、より多くの希土類元素を回収する役割を担っている。

チャンドラー氏は「これらのロボットには常に忙しく働いていてもらいたいので、ユーザーの方々にはカーボンニュートラル社会への貢献も兼ねて、手元で役割を終えたアップルのデバイスを積極的にApple Trade Inサービスに持ち込んでほしい」と呼びかけた。

■アップルを象徴する「アルミニウム」のリサイクルを実現

アップルは製品に使われるマテリアルのリサイクル率をさらに上げることにより、従来は困難とされてきたマテリアルの再利用にも挑戦している。

「アルミニウム」はアップルがiPhoneやMacなど、多くの製品ラインナップに使うメインのマテリアルだ。2015年には製品製造のフットプリントにおける約4分の1以上を占めていた。かたや炭素排出源としても大きな比重を占めるアルミニウムに置き換えて、カーボンフットプリントを減らすために、アップルは純度の高いアルミニウムと性能、および耐久性の面で変わらない「100%再生アルミニウム合金」を独自に開発した。

その素材が、新しいiPad Airを含むすべてのiPadシリーズの筐体に使われている。Apple Watch Series 7、Apple Watch SE、MacBook Air、Mac mini、14インチと16インチのMacBook Proも同様だ。さらにMac Studioでは筐体の80%、Studio Displayのスタンドではこれを100%使っている。新しいアルミ合金は従来のマテリアルに美しさの面でも劣らない。チャンドラー氏も「今後アップルは様々な製品に同素材を広く波及させていく」と述べている。

■困難とされてきた希土類元素のリサイクルにも挑んだ

希土類元素(レアアースエレメント)は昨今、デジタルデバイスのスピーカーやカメラなどのユニットに多く用いられている。マグネットを含む希土類元素は、リサイクルされた材料から、同じ性能を持つ材料を生み出して再利用することが現在の技術では困難とされてきた。アップルは独自にパフォーマンスの高い希土類元素素材を開発し、iPhoneに載せて技術の実用性を証明してみせた。2019年に発売したiPhone 11から、iPhoneとして初めて100%リサイクルされた希土類元素を採用することに成功している。最初に使われたパーツは、触感フィードバックを実現するTaptic Engineだ。

いまアップルでは、全ての新しい製品にリサイクルされたマグネットを使っている。製品一個単位で見ると、リサイクルされた希土類元素の比率はiPhone SEの91%から、最大ではMac StudioとStudio Displayの100%に及ぶという。

タングステンもまた、iPhone、Apple Watchの触感フィードバックを生むTaptic Engineの製造に欠かせないマテリアルだ。iPhone 12シリーズと、Apple Watch Series 6がリリースされた2020年時点で、これらのデバイスのTaptic Engineに使われているタングステンは100%リサイクルされたものだった。2021年モデルのiPhone 13、今年発売された第3世代のiPhone SEでもタングステンのリサイクル使用率は100%に到達している。

錫(スズ)もまた、昨年時点で25%がリサイクルマテリアルを使っており、その比率を高めている。iPhone、iPad、MacBookのメインロジックボードのプリント基板に部品を溶接するための “はんだ” にも使われている。

なお、2020年に発売したiPhone 12シリーズから、アップルは商品パッケージに電源アダプターを封入することをやめた。電源アダプターにはプラスチックに銅、錫、亜鉛といったマテリアルが多く使われている。同梱品から省くことで「55万トン以上の銅、スズ、亜鉛の採掘を回避できる」という試算も示されている。

電源アダプターを省略した効果はパッケージの小型・軽量化も引き出した。輸送用パレット1台に積めるiPhoneのボックスの数が最大70%も増え、ひいてはカーボンフットプリントの削減にも貢献するという。

■パッケージに使う素材の環境負荷を減らす試み

最後にアップルの「プラスチックと紙」に関わる取り組みを紹介しよう。

プラスチックはアップルの製品からパッケージにまで幅広く使われているが、アップルはやはり独自に高い品質基準を定めてつくったリサイクルプラスチックへの置き換えを進めている。新しいiPhone SE、iPad Air、Studio Displayに使われているリサイクルプラスチックの比率は35%以上にのぼる。

部品の一例は、iPhone 13のアンテナ線だ。同素材は不要になったミネラルウォーターのプラスチックボトルからアップサイクルされたリサイクル素材が使われている。化学的処理を経て、強度、パフォーマンスの高いマテリアルに仕上げた。アップルはこれを業界初の試みと紹介している。

本体だけでなく、製品の外装パッケージからもプラスチックの使用を減らしている。アップルでは2025年までに全製品のパッケージから完全にプラスチックをなくすことを宣言しているが、その第一歩として直近に発売されたiPhone 13シリーズ、およびiPhone SEではボックスを包むフィルムを省略した。これにより、iPhone 13シリーズだけでもプラスチックの使用量を600トンも減らすことに成功したという。

パッケージに使用する紙素材についてもまた、リサイクルされた素材、あるいは管理された森林から採取されるウッドファイバーを特定して使っている。チャンドラー氏は、責任あるかたちで管理・生産されている紙を今後も持続的に使えるように、アップルは使用した資源の量に相当する投資を森林環境の育成に還元していると説いた。

先にチャンドラー氏が触れたアップル製品の下取りサービス「Apple Trade In」は、地球環境に優しいリサイクルの循環にも貢献する。次のアップル製品を安価に手に入れられるサービスとしても魅力的だが、もし近くアップル製品の買い換えを予定しているようであれば、ぜひ利用してみることをすすめたい。アップルの環境に対する取り組みの詳細はホームページにも公開されている。