2021年に相次いだ携帯料金引き下げによって、月額1,000円以下で利用できるような低価格のモバイル通信サービスが大幅に増えたが、ここ最近、その低価格サービスへの関心が急速に高まっているようだ。その理由として、ここ最近携帯電話業界で起きた2つの出来事が影響していることは間違いないだろう。

■低価格サービスの関心を高めた2つのトピック

1つは、楽天モバイルの「月額0円」廃止だ。楽天モバイルの従来プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は、月当たりの通信量が1GB以下であれば月額0円で利用できる仕組みがあったことで好評を得ていたが、2022年7月に開始した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」でその仕組みを廃止、最低でも月額1,078円かかるようになってしまったのだ。

その結果、月額0円での利用を見込んでいた人の多くが楽天モバイルに失望。他社の低価格プランに乗り換える動きが急加速し、一時は競合となるサービスへの加入が殺到したようで、手続きに遅れが生じるなどの騒動も起きていた。

そしてもう1つは、2022年7月2日より発生していたKDDIの通信障害である。この通信障害は3日以上にわたる大規模なものとなり、とりわけ音声通話に影響が出たことから110番などの緊急通報ができなくなるなど、社会的にも大きな影響を与えたことは記憶に新しい。

それゆえ、今回の通信障害を機として、バックアップ用のサブ回線を持つことが注目されるようになってきている。最近はiPhoneをはじめとして、2つのモバイル回線を同時に使用できる「デュアルSIM」に対応するスマートフォンが増えていることから、現在使用しているメインの回線とは別にもう1つ、低価格で維持しやすいバックアップの回線を追加することで、通信障害に備えようという動きが高まりつつあるのだ。

■注目される“特需”を迎えた「MVNO」の動向

これら2つの出来事により、低価格のモバイル通信サービスには“特需”がやってきたといえる。とりわけこの動きを歓迎しているのは、携帯大手からネットワークを借りてサービスを提供しているMVNO(仮想移動体通信事業者)ではないだろうか。

MVNOは小規模の企業が多いことから、必然的に店舗を持たず、オンライン専業に近い低コストの運用体制を取り、携帯大手が力を入れてこなかった小容量・低価格という領域のサービス開拓を推し進めてきた。それが功を奏して、「格安スマホ」などの名称で2015年頃から急速に注目を集め、契約を増やしていった。

だが、MVNOへの顧客流出を懸念した携帯大手が、「ワイモバイル」「UQ mobile」などのサブブランドで低価格帯サービスを強化してきたことで、MVNOは苦境に立たされ、2017〜2019年頃には破綻・売却など再編の動きが相次いだ。

それに加えて、菅義偉前首相が携帯大手に料金引き下げを迫り、サブブランドより一層低価格な「ahamo」などのオンライン専用プランが登場したことで、MVNOを取り巻く環境は一層厳しいものとなった。

そこでMVNO側も、携帯大手より一層低価格のサービスを提供して巻き返しを図るため、2021年には小容量の通信量であれば、月額1,000円を切るような料金プランを各社が相次いで投入するに至っている。実際、NTTレゾナントの「OCN モバイルONE」は、最も安価な通信量500MBのコースで月額550円という価格を実現しているし、日本通信の「合理的シンプル290プラン」に至っては、通信量が1GBまでであれば月額290円で利用可能だ。

■それでも安泰とは言えない、今後の懸念点

ここまでの低価格が進んだタイミングで、先程挙げた2つの出来事が起き、低価格サービスへの注目が高まったことが、MVNOにとって大きなメリットとなっていることは間違いないだろう。ただそれだけの特需があっても、MVNOを取り巻く環境が改善されるわけではない。

そもそもMVNOが「格安スマホ」として注目された頃の料金は、月額2,000円前後が相場だったのだが、現在は1,000円を切るくらいにまで下がってしまっている。もちろんその間に、携帯大手からMVNOにネットワークを貸し出す際の接続料も大幅に引き下げられているのだが、MVNO事業者数は大小含めると既に1,000を超えており、低価格帯を巡る携帯大手、さらには競合MVNOとの競争も激化していることを考えると、利益を上乗せするのは難しい。つまり、薄利のビジネスとならざるを得ないのだ。

しかも多くのMVNOは、企業体力がないこともあってネットワークに手を入れる余地が少なく、他社との差異化が難しい。例えば、組み込み型のSIM「eSIM」に対応するには、MVNO側が一定の設備を持つ必要があるのだが、企業体力が弱い多くのMVNOはそうした投資が難しく、現状eSIM対応サービスを提供できる事業者はごく一部に限られている。そうした投資をしなくても、MVNOがeSIMサービスを提供できるようにする動きが総務省で進められているものの、具体的なサービス化に至る例はまだ少ないようだ。

さらに今後を見据えた場合、MVNOが5Gを活用したサービスを提供する上でも、課題が少なからずある。例えば、MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO委員会は、5Gで導入が進むネットワークの仮想化技術を活用し、コアネットワークを自ら運用するなど、よりMVNO側の自由度が大きく高まる「VMNO」という新しい形態を提唱している。

だがVMNOに関しては、まだ国際的な標準化作業が完了していないことから、実現を見通せない状況にある。そうした状況が長く続くほど、MVNOが5Gの性能を有効活用できず、とりわけ5Gで期待される法人向け分野で、携帯大手に大きな後れを取ってしまうことになりかねない。

そうしたことから、一時的な特需だけでMVNOを取り巻く環境が改善するとは考えにくく、事業環境や構造が劇的に変わらない限り、今後もMVNOにとって厳しい状況が続くというのが筆者の見方である。再びMVNOの再編が起こる可能性も、十分にあり得るのではないだろうか。