モバイル通信の世界では、5Gのネットワーク整備や6Gに向けた技術開発が積極的に進められているが、モバイル通信のベースとなる固定回線においても、新たな技術の開発が進められている。とりわけ、日本で進められている取り組みとして注目されているのが「IOWN」だろう。

■NTTが研究を進める新ネットワーク基盤構想「IOWN」

IOWNは、日本電信電話(NTT持株)を軸としてNTTグループが研究開発を進めている、新しいネットワーク基盤構想のこと。その大きな特徴は、NTTグループが強みを持つ「光」の技術をベースとしたネットワークであることだ。

IOWNの構想の中で最も注目されているのは、その光技術を軸とした「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」である。

固定のブロードバンド回線などに光ファイバーが用いられることから、現在のネットワークには光の技術が多く用いられていることはご存知の方も多いと思うが、IOWNが掲げるAPNは、ネットワークだけでなく、ネットワークを構成するコンピューターの内部、そして半導体にまで光技術を用いる「光電融合」が大きな特徴となっている。

現在、半導体などの伝送には電気信号が用いられているが、なぜそれを光に置き換える必要があるのか。それは今後のニーズに応え、ネットワークを一層高度化していく必要があるからだという。現在では、映像配信など大容量通信を必要とするサービスのニーズが高まっているが、今後映像の高精細化、さらにはメタバースなど新しいサービスが広まることで、一層の大容量通信が必要になってくる。

そうするとネットワーク側にも、一層の高速大容量通信が求められるのだが、そこでもう1つ浮上するのが電力消費の問題である。ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、ここ最近電気代が高騰しているが、そうしたイレギュラーな要素がなくても、ネットワークの高度化によってクラウド、ひいてはデータセンターの利用が拡大し、今後電力消費が一層増えることが見込まれ、問題となっているのだ。

ネットワークの高度化と、低消費電力化という相反する課題の解決に向け、IOWN構想で打ち出されたのが光電融合である。電気より消費電力が小さく、高速化しやすい光をあらゆる部分のデータ伝送に取り入れることで、それらの問題を一気に解消しようとしているわけだ。

実際NTTは、IOWNで光ファイバー1本当たりの伝送容量を従来の125倍に増やし、同一圏内での非圧縮によるエンド−エンドでの映像伝送遅延を200分の1にする一方、光技術を適用した部分の電力効率を100倍に向上させることを目指すとしている。

そして先日11月15日、NTT持株はIOWNの第1弾となるAPNのサービス(IOWN 1.0)を2023年3月に開始することを発表している。最初のサービスということもあって、IOWN 1.0は企業などに向けた100Gbpsの専用線サービスとなるようだが、最大の特徴は低遅延であり、従来の200分の1というIOWN構想で掲げられた目標の低遅延をいち早く実現したという。

その実力は、NTT持株が2022年11月16日より実施していた「NTT R&Dフォーラム 2022」でも披露されている。このイベントはオンラインで実施されたもので、事前に報道関係者向けに展示が披露されたことから、筆者もその取材を進めていたのだが、中でも注目を集めたのはIOWN 1.0の低遅延を活用した遠隔手術のデモである。

これは、メディカロイド製の遠隔手術ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」を、IOWN 1.0のネットワークを用い、離れた場所から遠隔で手術をするというもの。本来遠隔操作する装置は、ロボットの近くに設置する必要があるのだが、IOWN 1.0のネットワークを経由し、離れた場所からズレのない操作を実現しているという。

ちなみに、実際に接続しているケーブルの長さは120kmを超えているとのこと。それだけ長いケーブルを経由しながらも、遅延は1ミリ秒以内に抑えられているとのことで、デモにおいても遅延によるズレのないスムーズな操作や映像伝送ができることを確認できた。

5Gでも遅延が小さいことを活かし、遠隔医療などへの活用が期待されているが、無線ではどうしても遅延のムラが生じてしまい、安定しないことから、遠隔手術の実現はなかなか難しいとされている。だがIOWN 1.0は、固定回線で品質の保証ができ、なおかつ従来より非常に遅延が小さいことから遠隔手術にも十分活用できるようだ。

■光電融合デバイス実現に向けたロードマップを公開

ただIOWN 1.0では、遅延以外の性能向上はあまり進んでおらず、通信容量は従来の1.2倍となるが、電力効率などは大きく変わっていない。その実現に向けては、IOWNの最大の目玉となる光電融合デバイスの動向が大きく影響してくるようだが、NTT持株はIOWN 1.0の開始に合わせ、光電融合デバイスの実現に向けた具体的なロードマップも披露している。

そのロードマップによると、まずは2023年度にネットワーク向けの小型・低電力デバイスを用意し、2025年度にはそれをオンボード型にしてネットワークの高速大容量化とサーバ側の低消費電力化を実現。2029年度には、チップ間の配線を光化してさらなる低消費電力化を進め、そして「IOWN 4.0」となる2030年度以降にはチップ内の伝送も光化するとしている。

そしてNTT持株では、IOWN 4.0で先に挙げたスペックを実現したいとしているようだ。IOWNが持つ高速大容量化や低遅延、そして何より低消費電力に関する技術は、5Gの高度化や6Gでも求められるものだけに、IOWNの実現はモバイル通信の高度化にも影響してくる可能性が高い。

ただ、その実現がスムーズに進むかどうかは現時点では分からない部分も多く、とりわけ光電融合デバイスの実現に向けた動向は今後も注目されることとなりそうだ。また、IOWNのネットワークや技術を、日本だけでなく、海外に広めていけるかどうかという点も、技術やサービスの多くが国内に閉じてしまっている日本の通信産業にとって非常に大きな課題となってくる。

もちろんNTT持株も、そうした点は構想当初から意識しており、IOWNはNTT持株だけでなく、ソニー、そして米インテルの3社によって設立された「IOWN Global Forum」を軸に、実現に向けた取り組みが進められている。そしてIOWN Global Forumには、既に国内外の100社が参加するなど、国際化を強く意識した展開がなされているようだ。

ただ、これまでの国内企業の実績を考えれば、その成功が保証されているものではないことも確か。国際的にうまく立ち回ることができなければ、技術的優位性を持ちながらビジネスで敗北を繰り返してきた、これまでの日本企業と同じ轍を踏むこととなりかねない。

失敗続きの日本の通信産業に、IOWNが逆転のチャンスをもたらすのかどうか、期待と不安の両面から見守っていくこととなりそうだ。