8月7日、日本とイギリス政府は新たな貿易協定をめぐり、今月末までの大筋合意を目指す方針で一致した。早くから、日英の連携について提唱していた高橋洋一氏が、その背景について説明する。

※本稿は、『漫画でわかった!日本はこれからどうするべきか?』(かや書房)の内容を抜粋・編集したものです。


イギリスにとってマイナスでしかないEU離脱

イギリスは2020年1月31日、47年間加盟していたEUを離脱した。

私は、イギリスはEUを離脱すべきではないと思っていたが、イギリス国民が判断したことなので、こちらがとやかく言うべきでないことはわかっている。

しかし、イギリスのEU離脱はイギリス経済にとってマイナスの効果でしかないばかりか、ヨーロッパ全体の景気にも大きく影響してくることは紛れもない事実である。

イギリスの国立経済社会研究所によると、イギリスがEUを離脱した場合、離脱しない場合に比べて年間700億ポンド(約9兆8000億円)の経済損失が見込まれるとする報告書がすでに発表されている。今後15年間にわたり、イギリス経済の成長は2〜8%阻害される見通しなのだ。

なぜそのような損失が生まれるかといえば、EUという自由貿易圏の中にいたからこそ得られていたメリットを放棄することになるからだ。

これまでイギリスはEU域内での人やモノの移動が自由であり、EUが日本などと結んだ貿易協定が適用されてもいた。しかしEUを離脱するということは、これまであったEU域内での人やモノの移動の自由がなくなり、EUが結んだ貿易協定も適用されなくなる。

イギリスは今後、EUや日本、アメリカなどと単独で貿易協定を結ばなければいけないことになる。いきなりそんな事態になれば大変な問題が起こる。そこでイギリスとEUは経過措置としてイギリスが暫定的にEUに留まるとする「移行期間」を設定した。

さらに6月までに両者が了承すれば移行期間を2年延長できる。しかし、イギリスのボリス・ジョンソン首相は移行期間の延長を拒否し、2020年12月31日までに決着させると表明している。

はたしてうまくいくだろうか。

というのも貿易協定を結ぶには数年かかるのが一般的だからだ。もしも交渉がまとまらず、「合意なき離脱」にでもなれば、イギリス経済は大混乱となるだろう。しかもコロナウイルス問題で、世界はパニック状態だ。

特にイギリスにとって最大の貿易相手は、輸出入の約半分を占めるEUなので、EUから一方的に高い関税をかけられたりしたら大打撃となる。

「合意なき離脱」を見越して、イギリスに進出している日本企業のなかには、すでにヨーロッパのほかの国へと移転しているところもあるほどだ。

また、イギリスのロンドンにあるシティには世界の有力な金融機関が集まり、ヨーロッパの金融の中心になってきた。しかしEU内での人やモノの移動の自由が制限されることになれば、ロンドンのシティにいる意味がなくなり、その拠点をEU内の別の国に移すことも十分に予想される。

ドイツのフランクフルトなどはその有力な候補だ。EU離脱は、シティの金融センターとしての優位性が失われてしまうということでもある。


日本主導で日英自由貿易協定を

イギリスは国民投票を行い、自分たち自身で決めたのだから自己責任だ。

日本にとってはこれを好機と捉えたい。

先に述べたようにイギリスはEUとの包括的な自由貿易協定を結ぼうとするだろうし、アメリカとの包括的な自由貿易も検討するだろう。これに日本も積極的に参加していくことだ。

すでに日本はEUと2018年にEPA(経済連携協定)を結んでおり、日本とEUの間に巨大な自由貿易圏を誕生させているが、イギリスともこのEPAの締結を結ぶのがベストだろう。イギリスは一刻も早く自由貿易協定を結びたいと思っているので、日本は有利に交渉を進めることができる可能性も高い。

また、日本が主導している「TPP11」にイギリスを導くのも一案だ。

TPPは環太平洋地域だけの協定かと思われるかもしれないが、加盟国であるカナダやオーストラリア、ニュージーランド、ブルネイ、マレーシアはイギリス連邦の一員であり、当のイギリスも2018年7月、リアム・フォックス国際貿易大臣が「TPP加盟に強い関心がある」と日本に伝えたという報道もあるほどだ。

さらにアメリカのトランプ大統領はTPPのような多国間の貿易協定はやらないといっているが、アメリカを巻き込んで日本主導で日米英のFTA(自由貿易協定)を締結するという方法もある。

トランプは何も自由主義貿易を否定しているわけではない。しかも歴史的にみてもイギリスとアメリカは強固な絆で結ばれているので、そこに日本が参加すればいいだけの話なのだ。

いずれにせよ、日本とイギリスが自由貿易経済圏を構築することは、「経済的依存関係」を強化することになり、安全保障の観点からも望ましいといえる。