トランプ死すとも、不満は死せず――。

恐れ、怒り、憎しみ、攻撃性から力を引き出す世界の「ダークサイド化」が生み出したトランプ現象はこれからも決して消えない、と指摘する宮家邦彦氏。米国社会の内向き傾向と、国内政治の劣化は今後も続くのか。

※本稿は、宮家邦彦 著『劣化する民主主義』(PHP新書)の一部を再編集したものです。


アメリカ民主主義の「聖域」を襲う

2021年1月6日、新年早々ついに恐れていた事件が起きた。過激な陰謀論を盲信するトランプ主義者の群衆が、ワシントンの連邦議会議事堂を襲撃したのだ。

銃撃戦などで警備・群衆の双方に死者5人を含む多くの死傷者が出たという。大半の米国人にとって白亜の議事堂は、ホワイトハウス、最高裁判所と並ぶアメリカ民主主義の「聖域」だ。この日は米国史の汚点の一つとして長く記憶されることだろう。

事件の異様さと米国市民が受けた衝撃の大きさを日本の読者に説明するのは難しい。

誤解を恐れず言えば、(1)日本で世論を二分する総選挙が行なわれ、(2)敗北候補者を信奉する過激な武装集団が、(3)腐敗政治家と高級官僚からなる「影の政府」が日本を実質支配するという陰謀論を信じ、(4)次期首相を決める首班指名選挙が行なわれる国会議事堂に、(5)暴力で乱入し、多数の死傷者を出すような事態を想像してほしい。


過激主義のダークサイド

議事堂に侵入したのは「極右集団『プラウドボーイズ』幹部や陰謀論集団『Qアノン』の説を説く有力者、ネオナチ集団のメンバー」だったと米有力紙は報じている。筆者は「米民主主義への挑戦」などという大上段の議論をするつもりはない。

だが、ネット上で流れた映像を見る限り、襲撃者の大半は破壊や暴力を厭わない白人過激主義者の集団、筆者が「ダークサイド」と呼んできた集団の過激分子のようだ。

それにしても不思議なのは、こんな連中の支持を得てきたトランプ氏の熱烈な信奉者が日本にも少なくないことだ。トランプ氏の反中姿勢を評価したい気持ちもわからないではない。

だが今回、議会議事堂内外で起きた暴力行為の記録ビデオを見れば、彼らもトランプ氏に対する評価を変えるのではないか。もし変えないのなら、残念ながら彼らには「トランプ現象」の本質が見えていない、ということだろう。