今年9月に発足したデジタル庁の初代デジタル監に就任した石倉洋子氏。名だたる大学や企業でグローバルに活躍してきた石倉氏は、日本のデジタル化にいかに取り組むのか。世界における日本の立ち位置とともに語る。

※本稿は『Voice』2021年12月号より抜粋・編集したものです。(聞き手:Voice編集部・中西史也)


デジタル化の目的は社会に多様性を生むこと

――石倉さんはこれまで、青山学院大学や一橋大学で経営戦略を中心に教鞭を執る傍ら数々の有名企業の社外取締役を務めるなど、多方面かつグローバルに活躍されてきました。そして今年9月には、新たに設置されたデジタル庁の初代デジタル監に就任されたわけですが、どのような覚悟で受けられたのでしょうか。

【石倉】デジタル庁の設置は日本を大きく変える一大プロジェクトですから、携われること自体がまたとない機会です。「やるしかない」との思いでお受けしました。非常にエキサイティングな打診だったので「もし断れば後悔するだろうな」とも。

もとより私は「デジタルは世界を変える」と考えているんです。物理的な距離やさまざまな壁や境界を越えて、世界中の人びとがオンラインでつながることができる。そんな無限の可能性をデジタルは秘めています。

世界のなかでの日本の立ち位置を考えたとき、かつての日本企業には活力があり、国際会議でも海外の有識者から「日本の科学技術は素晴らしい」と評価されることは珍しくありませんでした。これは私自身の実感です。

ところがいまの日本におけるデジタル化の状況をみると、明らかに諸外国の後塵を拝している。このまま黙って世界に引けをとるわけにはいきません。大きなポテンシャルをもつデジタルの力をもとに、日本に再び活力をもたらしたい。そうした思いから、デジタル監の職務に従事することを決断しました。

――日本のデジタル化における最大の課題は何だとお考えですか。

【石倉】デジタルという概念そのものが、人びとにまだ浸透しきっていないように感じます。「何か難しい。情報がとられそうで怖い」といった声も聞こえます。

しかし考えていただきたいのですが、そもそもデジタルとは人間の暮らしを便利かつ豊かにするための「道具」にすぎません。我々は言語を使って人とコミュニケーションをとっていますが、デジタルという新しい手段を活用することで解決できる問題が存在します。

であるならば、デジタルを活用しない手はない。デジタルがあくまで手段である以上、何がしたいのか、という目的がなくてはなりませんが、それは皆さんの日々の暮らしを便利で豊かにすることだけにとどまりません。

――豊かな暮らしの実現以外の目的とは何でしょう。

【石倉】日本社会に多様性をもたらすことです。いまの時代、一人ひとりに合った働き方やライフスタイルを模索するうえではデジタルの活用が不可欠です。

学生であればデジタル教育、社会人であればリモートワーク、高齢者であればデジタル医療など、世代や性別、価値観を問わず、それぞれの暮らしに合った活用の方法があります。日本社会が本当の意味で多様な社会に生まれ変わることこそ、デジタル社会の理想像です。

――では、デジタル監としてとくにやり遂げたい施策を挙げるとすれば、何でしょうか。

【石倉】まず開発したいのが、新型コロナワクチン接種歴の電子証明書を表示できるスマートフォンアプリです。現在は各自治体が紙の証明書を交付していますが、アプリを通じて電子申請によって交付できるようにしたいと考えています。

アプリには生年月日や接種日などの基本情報を、海外渡航時などにQRコードで読み取れるようにする予定で、今年中の実用化をめざして開発チームが必死に制作しているところです。

もう少し中長期的なスパンの取り組みをお話しすると、省庁間や中央政府と地方自治体間におけるデータ連携の確立です。

たとえば後者でいえば、新型コロナのワクチン接種における問題点として、国が所管する自衛隊の大規模接種センターと市町村や区といった地方自治体の予約システムが連携していなかった点が挙げられます。重複予約が生じるケースもあった。このようにバラバラだったデータの管理・運用をつなぐ役割こそ、デジタル庁の使命です。