中国が積極的にタリバンに接近しようとしている。それはいったいどんな理由からなのか? 現地を取材してきたジャーナリストの眼から見ると、中国の抱えた大問題が浮かび上がる。

※本稿は、佐藤和孝著『タリバンの眼――戦場で考えた』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。


「文明の十字路」「シルクロードの拠点」

日本から見ればアフガニスタンは遠く、世界の繁栄から見捨てられた国かもしれない。しかし歴史を見れば、アフガニスタンは古来「文明の十字路」と称されてきた。

アフガニスタンは紀元前の時代から、東西の文化の結節点だった。代表的なのは、パキスタン北西部(インダス川の支流に囲まれたペシャワール盆地)に栄えたガンダーラ美術の影響だろう。2001年、タリバンによって破壊されたバーミヤン渓谷の石仏・石窟も、ガンダーラ仏教美術の一つである。

アフガニスタン内の遺跡から出た出土品を見ると、アレキサンダー大王の東征による古代ギリシア文明の影響や、交易によるインド、シリア、ペルシャの影響が強い。インドの女神像やローマ、エジプトのガラス・青銅・石膏製品も国内の遺跡から出土している。

アフガニスタンはまた、シルクロードの拠点の一つとして知られる。マルコ・ポーロや『西遊記』のモデルだった唐代の僧・玄奘三蔵も通った国だ。


「一帯一路」とソ連の南下政策

さらに現在、中国が進めるシルクロード経済圏構想「一帯一路」も、アフガニスタンと関わりを持つ。パキスタン南西部からイラン南東部、アフガニスタン北西部、トルクメニスタンに居住するバルチ族という民族がいる。

バルチ族の一部は現在、バルチスタンの分離独立を掲げるバルチスタン解放軍(BLA)として活動しており、中国とのあいだで軋轢を生んでいる。バルチスタンは資源が豊富で近年は中国企業が進出しており、BLAによれば「自国の資源が収奪されている」という。

パキスタンとアフガニスタンの国境は、地政学上の要衝である。以前はアメリカもこの地域を梃子入れしようと、アフガニスタンの国境に近いパキスタンのクエッタからカンダハルを通る石油パイプライン構想を立ち上げた。しかし結局、頓挫してしまった。

他方、かつてのソ連にとってパキスタンは南下政策の重要な通過地点である。とくに、パキスタン最大の都市カラチの港を不凍港として求めていた。

ソ連は1971年〜75年の第四次5カ年計画でパキスタンに当時2億ドルを投じ、カラチ地区に年産200万トンの製綱所を建設した。インフラと借款債務によって相手国をがんじがらめにする手法は、現在の中国とほぼ同じといってよい。


中国人のアルカイダと会う

タリバンに対する中国の接近ぶりが近年、報じられている。中国は暫定政権樹立前の2021年7月に、タリバンの代表団を招待した。

カブール陥落後は暫定政権の樹立を「必要なステップ」とし、王毅外相は300万回分の新型コロナウイルスワクチンの提供を表明した。接近の理由は簡単で、ウイグル対策である。

新疆ウイグル自治区におけるウイグル族の人口は1000万人を超えており、中国共産党にとって大きな脅威である。ウイグル族はイスラム教徒であり、もしウイグル族の武装勢力がアフガニスタンを経由して中国の新疆ウイグル自治区に侵攻してきたら、甚大な損害を受けることが予想される。

2000年、パンジシェールを取材した折に戦争捕虜収容所を訪れる機会を得ることができた。深い渓谷に切れ込んだ険しい石ころだらけの斜面を一時間以上登ると、石積みの建物が岩肌に溶け込むように立っていた。

看守の案内で鉄格子の小窓のついた扉を開けると、5、6人のアジア系の顔をした男たちが囚われていた。看守が「中国人のアルカイダだ」と男たちに向けて顎をしゃくった。どこから来たかを尋ねると、ウイグルだとの答えが返ってきた。中国が支配する新疆ウイグル自治区から来た若者たちである。

「我々がここに来たのは、アルカイダから戦闘訓練を受け、故郷に戻り中国と戦うためだ」

彼らは、中国共産党にとってはテロリストだが、ウイグル族にとっては解放闘争の英雄と映っているかもしれない。