世の中が大きな変革期を迎えているとき、ビジネスの常識や前提は短期間でスピーディーに変わっていく。

まったく新しい状況に置かれて試行錯誤しなくてはならない状態にあっても、「センス」があるビジネスパーソンはその直感に従って社会変化の潮目を読み取り、より最適な解を仮説として提示することで、新しい状況への対応を迅速に行うことができる。

Airbnb Japan執行役員の長田英知氏は、その「センス」は後天的に磨くことができると言う。

※本稿は、長田英知著『あたらしい問題解決』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。


「センス」とは論理的思考の結晶である

「センス」が直感に基づくものであることから、「センス」から導き出された答えを、論理的思考から導き出された答えと比較して信用できないと考える人もいるでしょう。

しかし、AIとの比較を行っても分かるように、「センス」は実際のところ私たちがこれまで積み重ねてきた論理的思考の結晶であり、高度な論理的思考を無意識かつ瞬間的に処理するという、ある種の究極形だと考えられます。

また、「センス」を論理的思考の積み重ねの結果であると考えるならば、正しい思考訓練を積み重ねていけば、「センス」を磨くことは可能なはずです。

「センス」とは「世の中やビジネスに関するものさしを持って、認識の解像度を高めることである」と定義できます。また、水野学氏が指摘されているように、センスのいい/悪いを測ることができる唯一の道具となるのは、「いいもの」と「悪いもの」の両方を知ったうえで、「一番真ん中」すなわち「普通」という基準を持つことになります。

そうすると、自分の中に「普通の基準」を作ることができれば、「センス」を磨くことができるのではないかと思うわけですが、ここで意識しておかなくてはならないことがあります。

それは「普通」という基準点は、じつは1つではなく2つ存在することです。

まず「普通」の基準点として一般的にイメージされるのが、世の中の平均を指し示すポイントです。ここでは、この基準点を「平準点」と呼びます。

しかし、「普通」の考え方はもう1つあります。それは、その分野の専門家やマニアが認める基準点です。この基準点をここでは「合格点」と呼びます。私たちが世の中の普通を理解して、ビジネスで活用するためには、この2つの普通に関する「基準点」を持っておく必要があります。

なぜ、2つの基準点を考慮しなくてはならないのでしょうか。その理由は、製品やサービスに対する、興味がない人にとっての「普通」と、興味を持っている人やマニアにとっての「普通」の基準が時に大きく乖離しているからです。

「平準点」は世の中一般の傾向を理解するうえで大事なものですが、しかしそれでは高い要求水準を持っている専門家やマニアを満足させることはできない場合がほとんどです。

だからこそ、ビジネスで商品やサービスを考える際に、2つの基準点を明確に区別して混同せず、そのうえで自分たちはどこを目指すのか、誰を満足させたいのかという視点で、物事を見ていくことが大切なのです。


「普通」の基準によって、訴求する対象も変わる

2つの基準についてもう少し理解を深めるために、ファッションを例にとって考えてみましょう。一般人の中でもファッションに興味のある人と、興味のない人では「普通」と考える基準点が異なります。

たとえば、仕事で着るスーツに関心がない人にとっては、1着2万〜3万円の2プライススーツ(1万9000円と2万8000円など、2つの設定価格から選べるスーツ店の商品ライン)、少し年齢が上がってくると5万円前後のセレクトショップのスーツが「普通」の基準点となってくるのではないでしょうか。

しかし、スーツにこだわりを持っている人であれば、10万円以上のオーダースーツが「普通」の基準点となることを考えると、そこには価格とクオリティに対する考え方における大きなギャップがあります。

2プライススーツの場合、丈夫さや手入れのしやすさが、ある程度確保されているのであれば、生地やデザイン、着心地については妥協しなくてはならないケースも多いかもしれません。一方、10万円以上のオーダースーツの場合、生地や縫製、着心地に対する要求水準は当然ながら高くなります。

「平準点でいい」という人と、「合格点」を求めるマニアの人のどちらをターゲットとするかはビジネス戦略上、どちらもあるとは思いますが、この2つを混同して考えると、適切な戦略を描くことはできません。

一番理想なのは、品質を「合格点」レベルまで高めながら、価格や手に入れやすさは「平準点」のものとさほど変わらない製品やサービスを作り上げることでしょう。

ユニクロは、まさにその典型例と言えます。ベーシックなアイテムを同価格帯よりもワンランク、ツーランク上の素材を使って提供し、さらにはトップデザイナーにデザインを依頼することで、ただ単に最新の流行を低価格で提供する「ファストファッション」とは一線を画しています。