現在、国内ビール類市場でシェアナンバーワンを誇るキリンビール。歴史のある大企業であれば、トップは社員よりはるか上の立場から指示を出すイメージがあるかもしれない。

だが、社長を務める布施孝之氏は違う。営業畑で長年働き、「上におもねらず、下を見て仕事をする」をきれいごとで終わらせず、成果を上げてきた。現場を知り尽くす、人望厚いリーダーの仕事術をうかがった。(取材・構成:林加愛、写真撮影:永井浩)

※本稿は、『THE21』2021年8月号の内容を一部抜粋・編集したものです。


良いことは部下のおかげ、悪いことは自分のせい

大手4社が熾烈な戦いを繰り広げるビール業界。その中で昨年、キリンビールは11年ぶりにビール類の国内シェア1位を奪還。コロナ禍の影響をも跳ね返す好業績を積み重ねている。

だが、同社を率いる布施孝之社長は「すべては従業員のおかげです」といたって謙虚に語る。布施氏の信条は、「良いことは部下のおかげ、悪いことは自分のせい」だという。

「その基盤にあるのは『自分など大したことはない』という自己認識です。

というのも、リーダーの仕事とはすなわち『人を通してことを成す』こと。私が一人でできることなど、たかが知れています。戦略立案やマーケティング、財務や販売、あらゆる分野で力を借りなければ何事も成せません。

ですから、成果は部下やメンバーのおかげなのです。一方で、うまくいかないことは自分が原因だと捉えます。それが『責任を負う』ということだからです。『部下のミスのせいで』といった他責は、リーダーにはあってはならないことです」


個々の社員を尊重する姿勢を、日々の行動で示す

「社内では、とにかくこまめに声をかけます。『元気?』『この間は大活躍だったらしいね』などなど。ただし、それらは口先だけでなく、芯からの感謝と信頼を持っていなければ意味がありません。そうした内心の思いは、言葉以上に、身体からにじみ出るものです」

こちらから伝えるのみならず、相手から伝えてもらう双方向性も、布施氏が重要視するコミュニケーションだ。

「折に触れ、『思うところがあればぜひ私にメールを』と呼びかけます。そしてメールが来れば、最優先でレスポンス。誰もが意見を言える組織を作るには、まず自ら実行すること。これもトップの欠かせない仕事です」