今年8月に出版された名和高司著『稲盛と永守』(日本経済新聞出版)は、今の日本を代表する2人の名経営者、稲盛和夫氏(京セラ創業者)と永守重信氏(日本電産創業者・会長)の経営(同書では「盛守経営」と呼ぶ)に共通点をいくつも見出し、それを「MORIモデル」というモデルにまとめあげた書籍だ。執筆の経緯や反響を、名和氏に聞いた。


人の弱さを理解したうえで、強さに変える人間力

――永守さんとは親しくされているということですが、初めて会われたのはいつですか?

【名和】2016年です。永守さんが設立されたグローバル経営大学校というビジネススクールの全体をコーディネートすることになって、それからよくお会いするようになりました。

――永守さん側から話があったのでしょうか?

【名和】そうです。理由を直接聞いたことはないのですが、永守さんはアカデミックなものは役に立たないということをよくわかっているので、実践を兼ねた教育がしたいと考えていましたから、それで私にお声をかけていただいたのだと思います。私は、実践知を知識体系にして、広く理解していただくような仕事をしているので。

――永守さんへの関心は、それ以前から持っていたのでしょうか?

【名和】私はファーストリテイリングの社外取締役も務めていて、柳井(正)さん(会長兼社長)と長く交流があります。柳井さんと永守さんが同時期にソフトバンクグループの社外取締役を務めていたことがあって、柳井さんを通じて、永守さんの話は聞いていました。

柳井さんも、永守さんも、(ソフトバンクグループ会長兼社長の)孫(正義)さんも、カリスマと呼ばれていますが、型にはまらないスタイルで組織全体を動かしています。

しかも、それぞれに個性があって、違うんですね。そこに関心を持ちました。ソフトバンクグループの取締役会では、3人の個性がぶつかりあっていたようです。

――実際に会って、永守さんに対する印象は変わりましたか?

【名和】すごく変わりました。永守さんって、ちょっと強面じゃないですか(笑)。だから、人の話を聞かない人なのかなと思っていましたが、会ってみると、まったくそんなことはない。もちろん、自分の言葉でしっかりと話をされるのですが、人一倍、他の人の話に耳を傾けるし、周りへの気遣いもされる方です。

気遣いと言っても、機嫌を取ったり、媚びたりはしません。人が悩んでいることや関心を持っていることを察知したうえで、それに正面から答えるというよりは、自身のエピソードも交えながら、参考になる話をされます。

すると、話が身近に感じられて、自分がやるべきことがイメージでき、何だか元気になるんです。グローバル経営大学校で永守さんの講義を受けた方も、同じように感じるようです。

――本書で取り上げているもう1人の稲盛さんとは、面識がないということですが。

【名和】接点がなくて、お会いしたことはないのですが、やはり学ぶことが多い方ですね。稲盛さんが再建中にJALにいた方々、例えば大西賢さん(当時社長)や大川順子さん(当時客室乗員部マネージャー、のちに副会長)と接点があったので、そのときの生々しいお話を聞いたりはしていました。

――稲盛さんと永守さんに共通点が多いことに気づかれたのは、きっかけがあったのでしょうか?

【名和】永守さんの話を聞いていると、言葉は違うのですが、どこかで聞いたことがあるなと思うようになりました。初めは柳井さんから聞いた話に近いのかなと思ったのですが、よく聞いていると、やっぱり柳井さんとは違っていて、著作で読んだり、DVDで観たりした、稲盛さんの話に近かったんです。

――柳井さんは、稲盛さんや永守さんとは違う?

【名和】「志(パーパス)」を重視していることなどは同じですが、柳井さんは人に対して厳しい。「正しさ」で引っ張る人です。

一方、稲盛さんや永守さんは、人の弱さを理解したうえで、それを強さに変える人間力があります。私は、「人を変える」という意味で、「変人力」と呼んでいます。合理主義者と言うよりも、心理学者に近いですね。

――稲盛さんが創業した京セラも、永守さんが創業した日本電産も、京都の企業です。『稲盛と永守』には、京都の文化や風土の影響についても書かれていますね。

【名和】2人とも、人の真似をしないなど、京都らしいところがあると感じます。人は、それぞれの思いで、それぞれのやり方でやればいい。ただし、生態系に配慮しなければならない。仲間と共生するために、それぞれの個性を大事にする、という考え方です。干渉はせず、それぞれの個性を活かすのがうまいですね。

共生という言葉は永守さんがよく使うものですが、今で言うダイバーシティのような考え方を、京都の人たちはずっと大事にしてきています。

――京都には他にも数多くの企業がありますが、それらとも共通すると感じますか?

【名和】そうですね。例えば、堀場製作所は「おもしろおかしく」が社是で、社員がそれぞれの思いを追究することで何かを達成するということがうまい会社です。

――東京の企業とは違う?

【名和】東京の企業は、学ぶ力がすごくあるし、吸収力もあります。しかし、そこから自分なりのものを捻り出すところが弱い。学んだことの上辺しか理解していないので、身になっていないことも多いと感じます。守破離の守はうまいのですが、破と離が弱いと言えるでしょうか。お行儀のいい優等生のようです。

――なぜなのでしょう?

【名和】東京に来ること自体、「体制派」なんじゃないでしょうか。地方には、体制へのアンチというか、東京とは違う文化を作ろうという人たちがいて、京都はその代表なんだと思います。

――東京の企業が欧米流の経営を上辺だけ学んで失敗しているというのは、名和さんがしばしば指摘されていることで、『稲盛と永守』でも随所に書かれています。そう感じるようになったのは、いつ頃ですか?

【名和】私は1991年からマッキンゼーに在籍していました。駆け出しの頃は大前研一さんがいて、彼は欧米流の経営をうまく日本流とかけあわせて、ハイブリッドにしていました。しかし、彼が去ってから、マッキンゼーは完全に欧米流になってしまいました。

それでも私は勝手に日本流とのハイブリッドをやっていたのですが、リーマンショック後は、「そんなことはいいから、欧米の真似をしろ」ということになったので、袂を分かちました。

欧米流を学んだうえで、それを乗り越えて自分流を作り出すべきなのですが、欧米流を学ぶ中で自分流を見失っていった企業が多いのは、非常に残念です。