大正11(1922)年築の五層楼閣純和風建築をリノベートした「FUNATSURU KYOTO KAMOGAWA RESORT(鮒鶴京都鴨川リゾート)」や明治33(1900)年築の「北野異人館 旧レイン邸」(神戸市)をはじめ、60棟以上の歴史的建造物を利活用し、ホテルやレストランなどを運営。さらに、愛媛県大洲市などでは観光まちづくりにも取り組むバリューマネジメント〔株〕。その成長の理由や創業の経緯などについて、創業者で代表取締役の他力野淳氏に聞いた。《写真提供:バリューマネジメント〔株〕》


収益性や投資額よりも「歴史を紡ぐ」ことを重視

――まず、御社の事業内容についてお教えください。

【他力野】国は「歴史的資源」という言い方をしていますが、城や神社仏閣を含む歴史的建造物、保存されている古いまち並み、名勝に指定されている庭園など、いわゆる文化財を保全・活用する事業を展開しています。

従来、文化財は、税金や地元の名士の寄付、神社仏閣の場合は氏子や檀家の寄付によって保全されてきました。しかし、今、多くの文化財がそれでは支えきれなくなり、これからも保全できるかどうかの岐路に立たされています。そこで当社は、その保全を引き受けているのです。

行政から委託を受けて運営費をもらっているわけではありません。逆に使用料をお支払いしています。その使用料が保全費に回っていきます。

――保全のための費用が出せなくなっている物件が、日本中にたくさんある?

【他力野】歴史的建造物は建ててから80〜100年ほどで大規模な修繕をしなければなりません。ちょうどそのタイミングが来ている物件が多いのですが、当社が扱っているような大規模なものだと億単位の費用がかかるので、それが捻出できず、保全を諦めているところも多くあります。

――保全に困っているオーナーや自治体から御社に声がかかる?

【他力野】当社は現在17期目で、その前に個人事業としてやっていた時期が2年ほどありますが、当社からお声がけをしたことはありません。

古い建物の再生をしている企業は他にもありますが、当社にお声がけをいただく方には明確な理由があります。それは、歴史的資源を保全し、後世へと歴史を紡いでいきたいということです。

外観だけそのままにしても、中身を作り変えてしまうと、地域の文化や歴史が途絶えてしまいます。壁をなくして大人数を収容できる部屋にするなど、作り変えたほうが収益性は上がるのですが、当社はそうしたことはしません。投資額が上がりますが、土間を復元するなど、わざわざ昔の形に修復することもあります。

保全をしながら運営するのは事業としての難易度が高いので手がける企業が少ないですし、歴史的建造物の修復に明るい企業も少ないので、当社にオファーをいただけている状況です。

――建物の修復まで御社が手がけている?

【他力野】もともと知見はなかったのですが、物件のオーナーから相談を受け、文化庁や各自治体の教育委員会の文化財担当者、文化財の修復ができる施工会社などとご一緒する経験を何十棟と重ねることで、ノウハウを蓄積してきました。

設計は社内で行ない、施工はそれぞれの地元の企業にお願いしています。

――物件の所有はせず、運営だけをしているのですね。

【他力野】そうです。所有はまったくしていません。

――事業としての難易度が高いということですが、それでも収益を上げられている理由はどこにあるのでしょうか?

【他力野】大きく分けて3つあります。

1つは、赤字を黒字にする、経営の再生をメインドメインにしていることです。個人事業だったときも、物件を運営する企業に社外役員として参加し、ハンズオンで経営再建を行なっていました。

2つ目は、たとえボロボロの物件であっても、修復したあとの収益のプランを描けること。いわば、物件の目利きができるということです。

3つ目が、セールス&マーケティング、つまり、集客する力です。

当社と同じ店舗ビジネスでも、チェーン展開をしている企業は、店舗をどんどんスクラップ&ビルドしますし、より多くの顧客の生活導線に入る立地を求めて引っ越していきます。実は、集客と言うよりも、場所取り合戦のビジネスなんです。ビジネスホテルも同様です。

一方、当社が運営する施設は、そういうわけにはいきません。保存したい文化財は引っ越しができませんから。だから、集客する力をひたすら磨いてきました。

――具体的には、どのようにして集客しているのでしょうか?

【他力野】大きく分けて、広告と自社集客があります。

広告については、私がリクルート出身ということもあって、費用対効果が高い成功の方程式がわかっています。

自社集客については、人はどのような心の動きでモノを買うに至るのかを可視化した「カスタマージャーニー」を描いて、どのタイミングでどのような顧客にどうリーチすると効果的かを考え、PDCAを回し続けています。

マーケティングを外注する企業が多いのですが、当社は社内に30〜40人のチームを持っています。ノウハウが社内に残らないと強くならないからです。

ブランディングの基本となる屋号(施設名)の統一はあえてせずに、その地域や施設の背景をもとに屋号を作っています。

――御社が運営する施設の利用者には、どんな人が多いのでしょうか?

【他力野】私たちは「わざわざ」と「記憶に残る」をテーマにしています。記憶に残る、特別な目的のために、お金を支払っていただける価値観を持っている方々に、ターゲットを絞っています。

当社が運営するホテルは、オフシーズンを含めた平均で、2名1室1泊6万5000円。レストランのディナーも1人1万円ほどですから、安くはありません。利用されるのは、いわゆる「アッパーミドル」の方々です。

ただ、アッパーミドルだからといって、お金を使っていただけるとは限りません。例えば、誰かのお祝いをするなど、特別な目的のためにお金を使う価値観を持っている方が、当社の顧客になっていただける方です。

お祝いのための食事にも、旅にも、結婚式にも、企業のパーティにも、目的があります。そうした目的のために「わざわざ」席を用意する方たちに、当社が運営する施設を利用していただいています。

緊急事態宣言中は、アルコールを提供できなかった分、2割ほど売上が落ちた時期もありましたが、2019年と2020年の4・5月を比べると、飲食の売上はほとんど同じでした。目的があるから、「わざわざ」来ていただけたのです。

当社は、この「わざわざ」を作ることで、歴史的資源を収益化しています。

――まちづくりまで手がけているのは、旅の目的を作るためということでしょうか?

【他力野】そうです。古くていいまち並みや美味しいものは全国にあるので、それだけで集客することは難しい。行きたくなる動機を作らなければなりません。

当社は、愛媛県大洲市の大洲城で、日本で初めて、お城に泊まる「城泊」を始めました。これも、お城だけなら日本全国にあります。また、城マニアしか来てくれないと、街が活性化しません。

例えば、アンコールワットを訪れる日本人観光客は数多くいますが、その歴史や宗教について詳しい人はほとんどいないでしょう。それでも、「どうせ行くなら」本物に触れたいと思いますし、本物に触れると感動します。そして、帰るときには「あの街はすごかったな」となります。

同様に、城泊についても、「どうせ行くなら」お城に泊まってみたいと思ってもらえるようにしています。個人の目的を叶えるために旅をしていただき、「どうせなら」と、お城に泊まっていただくことで、帰るときには「いい街だったな」と思っていただける流れを作っています。