名選手にして、名監督。日本プロ野球きっての"アイデアマン"でもあり、多くの著書を著した”作家”とも。多くの人々に親しまれた野村克也氏の逝去の報に、日本が驚きと悲しみに包まれた。

その野村氏が旅立つ直前に上梓した書『リーダーとして覚えておいてほしいこと』では、落合博満氏と豪華な「三冠王対談」を繰り広げている場面がつづられている。本稿では、同書よりその一節を紹介する。

※本稿は野村克也著『リーダーとして覚えておいてほしいこと』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです

中日ドラゴンズのマネージャーが試合前に野村監督を訪ねた理由

「落合(博満)が待っております。球場内の通路を通り中日監督室までお越し願えませんか」

06〜09年の楽天監督時代、セ・パ交流戦の試合前、中日マネージャーがよく楽天監督室に私を訪ねて来たものだ。私はうなずき、彼の部屋を訪れる。

「ノムさん、お久しぶりです。すみませんね。記者連中に見つかるとうるさいですから」

「落合は、何でオレと話したがるの」
「そりゃ、ノムさんしか、野球わかる人いないでしょ」

「オレより記者に少しはリップサービスしなきゃ。それこそ野球を教えてあげないと」
「落合中日とか、野村楽天だとか、選手でなく、監督を前面に書かれるのがイヤなんです」

「だって監督はリーダーだから。先発投手や野手のスタメンを決めることからして監督の仕事だ。でも、やっぱりオレとは違うのう。オレが苦労して獲った三冠王を3回も……」
「本当はあと2回獲る予定だったんですけどね(笑)」

そんな野球談議の中で、「打撃の重心バランス」の話が出た。私も落合も、重心を「後ろ側」の足に残して打つ、いわゆる「軸回転打法」だ。

「ワシは、後ろ側の足と前側の足、構えたときの重心バランスは7対3だった」
「僕は9対1でしたよ」

速球を待っていて、遅い変化球に対応する。落合は体が前に突っ込むことによほど注意したということだ。そして「タメ」や「間」ができるから、あれだけ打てたのだろう。


「間ができるとカネがたまる」の格言

イチロー(オリックスほか)は日本時代、「振り子打法」の異名が付けられたように、前側の足を大きく振ってタイミングを取ったが、メジャー1年目の01年シーズン途中からそれをやめた。それでもミートした瞬間、後ろ側の足が地面から浮く「体重移動打法」に変わりはなかった。

2010年、メジャー10年連続200安打達成時のイチローのインタビュー発言だ。

「体は前にいくけど、バットを持つグリップを捕手方向に置いたまま我慢する。腕が後ろに残っているから強く振れる」

落合にしてもイチローにしても、打ち方は違えど、考え方は同じ。バットを早く前に出して投球に当てにいくのは簡単だが、そうすると力ないボテボテの打球が転がってしまう。

だから、肩を開かずにタメを作るのだ。投球をぎりぎりまで引きつけると、ミートの瞬間、蓄えたパワーをバットから投球に最大限の力で伝達することができる。速く強い打球を打てるし、そうすれば安打の確率が高い。

「間ができるとカネがたまる」

プロ野球界に古くから伝わる格言だ。間やタメを作れる技術ができると年俸が上がるほど実績を残せるということだ。