駅や商業施設を貫通する境界線、3つの県が集結した「三県境」……。世の中には知られざるマニアックな県境が少なからず存在する。

100を超える県境スポットを実際に訪れ、そのややこしくも興味深い裏事情とともにまとめた書籍『県境マニアと行く くるっとふしぎ県境ツアー』から、実は全国に48ヶ所も存在する「三県境」の中から、比較的訪れやすいスポットを取り上げた一節をご紹介したい。(写真:田仕雅淑)

※本稿は、田仕雅淑著『県境マニアと行く くるっとふしぎ県境ツアー』(技術評論社)を一部抜粋・編集したものです。


【群馬×栃木×埼玉】平地の三県境

三県境とは文字通り「3つの県が交わる県境」である。一般に県境は「線」で語られるが、それは2つの県の場合で、そこにもう1つ県が絡んでくると、県境は「線」ではなく「点」になる。

そういった三県境は全国に48ヶ所あるのだが、そのほとんどは高峰や河川の中など、人を寄せつけない場所にある。三県境を訪れるのはとても難易度が高いのだ。

しかし、こちらの「平地の三県境(最寄り駅から「柳生の三県境」ともよばれる)」は、人里の、しかも住宅と畑のある普通の平地に存在する。それこそスナック感覚で行けてしまう。

なぜそのような場所ができたのかは、隣接する渡良瀬遊水地に絡む河川工事に由来する。

元々はここに「渡良瀬川」と「谷田川」という埼玉県、栃木県、群馬県の県境となっていた川があり、そのふたつの川が合流する場所が三県境であったが、渡良瀬遊水地を造るにあたり河道の変更がなされ、川が陸地になり県境だけが取り残された。川の中だった三県境も陸地になったというわけだ。

「境界標石」「県名の入った標識」「県境を想像できる地形や境界線」など、筆者が考える「良い県境スポット」の要素というものがあるのだが、この場所にはその全てが詰まっている。

県境に興味を持っていただけて、最初にどこの県境スポットへ行こうかとお考えになった場合、筆者はまずこの場所をお勧めしたい。

この場所ができるきっかけとなった「足尾銅山鉱毒事件」と田中正三氏の苦労を思うと素直には喜べないが、マニアとしてはレアスポットが誕生したことに感謝を申しあげたい。


【京都×滋賀×三重】3府県の交点にある塚

京都府と滋賀県は比叡山を境にしているので、"隣県"というイメージを持つ人は多いと思う……が、三重県はどうだろう。

中部地方に区分される三重県は京都府から離れている印象がある。しかし、京都府と三重県は7㎞に満たない長さとはいえ、実は隣接しているのである。

ちなみに「三重県は中部地方」というのも曖昧で、三重県のホームぺージによると、「近畿圏整備法(昭和38年)」の近畿圏、「中部圏開発整備法(昭和41年)」の中部圏のどちらにも三重県は含まれているらしい。よって三重は近畿地方と中部地方どちらにも振り分けられることがある珍しい県だ。

その三重県を含んだ三県が隣り合えば、3つの県境が接する場所もできる。それが「三国塚」だ。

忍者で有名になった甲賀と伊賀の間の地味な山の上にある。余談だが近くには、本能寺の変で織田信長が討たれたことを知り、堺から三河国へ逃げようとした徳川家康が、伊賀忍者の案内で命からがら通ったという逸話のある「御斎峠」がある。また、伊賀盆地を見晴らせる「伊賀盆地絶景展望台」という県境スポットもある。

三国塚は公共交通機関から離れた場所にあり、車と自転車以外ではたどり着くことは困難である。逆にいうと、車であれば容易に行くことができる。

日本には本格的な登山をしなければ行くことのかなわない高峰の三県境も少なくないが、すぐ真下まで道路が通っているこちらは、それこそ散歩気分で到達できるありがたいスポットだ。とはいえ、車を降りたら舗装路はないので、ヒールやサンダルで行くのはお勧めしない。

三国越という峠から急斜面を上がると、3分ほどで展望台に着く。東屋があり、休憩もとれるものの、周りの草木が邪魔で期待するほどの展望は得られない。合併前の旧島ヶ原村が設置した眺望の案内板があるので、それを見ながら後は想像力で補おう。

展望台からさらに先に道があり、本格的な山道になる。結構登るが、それも数分の辛抱だ。ほどなく開けた場所に出る。広場の中央には、こんもりと盛られた塚のようにも見える小高い山があり、上に三県境を示す境界石が埋められている。

その後ろには、ありがたいことに「三国塚」と書かれた手書きの銘板と、「山城・近江・伊賀・三県境」と書かれたアクリル版も置かれている。油性ペンで書かれたそれらは、筆者が訪れた時には風雨にさらされてかすれ、判読が難しい状態だった。しかし、こういうものがあると県境に来たという実感が湧いてマニアにはうれしいものだ。

石の手前には、「三国交点」の文字と県名が書かれたプラスチック製の杭がある。

いかにも三県境の境界杭に見えるが、これはワナだ。個人が打った物らしく、境界石としては何の効力もない。しかし、銘板がほとんど読めなくなっている現状では、三県境を強烈にアピールしてくれるモノではある。

さて、境界石に足をかけるのはタブーである。塚の上に立ち、三県境を股にかけて眺めを得ようとしたが、周りに木々が茂っていてまったく景色は見えなかった。