聖路加国際病院の整形外科医として、また、7⼈制ラグビー⽇本代表や大学ラグビー部などのチームドクターとして活躍中の医師・田崎篤先生。

その田崎先生の新著『子どもの健全な成長のための スポーツのすすめ』では、スポーツ医学の正しい知識、スポーツにおいて大切な知識を、子どもたちや保護者、指導者に向けて伝えている。

本稿では同書より、親世代には「常識」と信じ込まれがちな「昔の常識」について、第一線で活躍するスポーツドクターの視点から解説した一節を紹介する。


「スポーツに真剣」なほど、親子で陥りやすい悪循環

スポーツへの取り組みが真剣なほど陥りやすく、気をつけたいのが、「オーバートレーニング症候群」です。

練習するほどに疲労がたまり、精神的に追い込まれ、その結果パフォーマンスが落ち、結果が悪くなるといった場合に、パフォーマンスが低下しているのは練習が足りない、努力が足りないと本人やおとなが思い込み、さらに練習を重ねてどんどんと調子を崩していく、という悪循環に陥ることを指します。

オーバートレーニング症候群の症状は、競技力の低下だけでなく、慢性疲労、貧血、免疫力低下、睡眠障害、うつと多岐にわたります。

この場合、周囲のおとなが「練習が足りない」「自己管理がなっていない」と子どもを叱咤すれば、本人は追い詰められて、競技者として潰れてしまう例が多いのです。

ストイックな子どもや厳しい指導者は特に気づきにくいので、保護者が冷静な目で常に注意しておくことが、生じた場合の早期対応につながります。

オーバートレーニング症候群の発症が多いのは中学生以降です。

経験上、チーム競技よりも、陸上競技や体操などの個人競技の選手に多いように思います。個人競技はチーム内でも弱みを見せられないし、競技の結果はダイレクトに自分に跳ね返りますので、つい頑張りすぎてしまうのでしょう。

そんなとき、競技では直接的にかかわらない私のような立場の者の前だと、うまく導くことにより本音をいい出すお子さんもたくさんいます。本当は疲れ果てて、食欲もなくて、楽しくスポーツに参加できない……と。

そんなとき、私は「そんなに疲れているんだったら休めば? 休んで好きなことをして、元気になって、また競技をやりたくなったらやればいいじゃない」といいます。

「休みたいっていいにくいだろうから、顧問の先生に僕がいってあげる」というと、みなびっくりしながらも、ホッとした顔をしますね。

こうした状況に陥ったときは、休息しかありません。身体的には1週間程度の休息で回復できますが、精神のリフレッシュには2週間以上を要します。回復には十分な期間を確保してください。


これが大事「本人が安心できるような根拠をもって休むこと」

疲労骨折やそのほかのケガと同じく、オーバートレーニング症候群も、いちばんの治療は休むことです。ただし、「休む」というのはどうも聞こえが悪いですよね。なんだかサボっているようにも聞こえかねません。

よって周りのおとなが強いるがごとく無責任に休むように指示することは、子どもを逆に追い込むことになります。信頼できる医師やトレーナー、顧問の先生の理解と説明のもとで、「本人が安心できるような根拠をもって休むこと」が大事だというのが私の考えです。

我々が部活をしていた昔は「1日筋トレを休むと取り戻すのに2日かかる」などといわれていました。これは休むことを受け入れ難くするウソであり、スポーツ医学では、すでに否定されています。

1回の運動でからだを十分に鍛え追い込んでいる選手は、1週間くらい休んでも、競技能力や体力が一気に落ちるなどということはありません。

逆に1週間休んだ後に元気になってエネルギーに満ち溢れ、パフォーマンスが上がった例などもたくさん見てきました。

医学的な根拠を示しつつ、その先にある目的を明確にして1週間ほどの単位で見通しを立てて休むこと。そういう「根拠と目的をもって休むこと」が、ケガや疲労からの回復への最短距離だと考えています。