極度の小食や偏食の「食べない子」を専門にした食育カウンセラーとして、これまで全国で3000人以上の保護者を指導してきた山口健太さんは、誰でもすぐにできるコミュニケーションの工夫で、多くの子どもの小食・偏食を改善に導いてきました。

子どもの小食・偏食をなおすためには大人の意識改善が必要だと語る山口さんは親の4つの「しすぎ」を捨てるべきだと指摘しています。

※本稿は、山口健太・著『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。


好き嫌いは「悪」ではない。まずは大人が意識を変えて

まずとても大切なのが、「好き嫌いなく、何でも残さず食べられる」ようになる必要はないということです。もちろん、「栄養をしっかり補えているかどうか」を見るのは、親としてとても大切なことです。

しかし、「好き嫌いなく、たくさん食べられる子の方が良い」という価値観はとても危険です。自分に対してはまだしも、子どもや他人に食を押し付けてしまうことになりかねません。押し付けられてしまえば、子どもが自分から楽しく食べられる未来が遠ざかってしまいます。

そもそも、嫌いなものが多いからといって、社会的に活躍できないわけでもありません。

食事による体づくりが大切なスポーツの世界ですら、野球だとイチローさん、サッカーだと中田英寿さん、体操では内村航平選手、フィギュアスケートでは宇野昌磨選手、テニスでは大坂なおみ選手などは、野菜があまり好きではないようです。ですが、その世界で大活躍していることは周知のとおりです。

要は、その人の食の個性を周りが理解することが一番大切なのです。

「全部食べられる子」を目標とする必要はありません。何度もお伝えしている通り、「楽しく食べられる子」になることが最優先です。

ただ、「残したものがもったいない」と思う方も多いと思います。この考え自体は、自然や命の恵みを大切にする気持ちや、食材・料理を作った方への感謝の気持ちですから、とても尊重すべき考え方だと私も思います。

しかし、そのように考えられるのは、その人が既に食に対して前向きなイメージを持っているからなのです。だからこそ、自分から「食材は大事にしよう」「もったいないから食べよう」という、素敵な意識が生まれるのです。

それは決して押し付けから生まれるものではありません。「もったいない精神」を押し付けることで、未来に自然と出てくるはずの「もったいない精神」を犠牲にする可能性があるということです。

よく「野菜を残すと農家さんが悲しむからちゃんと食べなさい」という勧め方がありますが、その押し付けによって、子どもがその野菜を嫌いになってしまった方が、農家さんも悲しむのではないでしょうか。

「楽しく食べられる」土台があれば、自然と命の恵みを大切にし、作ってくれた人たちへの感謝が芽生える子になりますから、心配はいりません。


食べない子が変わるために、親が手が手放すべき4つの「しすぎ」

「食べない子」が変わるために、まずは保護者自身が「自分にはどの「しすぎ」の傾向があるか?」を考えてみましょう。私はこれを「大人の4つの「しすぎ」」と呼んでいます。具体的には次の4点です。

1 イライラしすぎ
2 不安になりすぎ
3 プレッシャーのかけすぎ
4 放置しすぎ

「イライラしすぎ」は、子どもが食べてくれないことでイライラしてしまい、食卓がギスギスした雰囲気になり、子どもがさらに食べなくなるというケースです。「楽しい」があっての「食べられる」ですから、これでは食は進みませんね。

「不安になりすぎ」は、子どもが食べないことを、必要以上に心配しすぎるケースです。大人の不安が子どもにうつり、余計に食べなくなってしまいます。もちろん、子どもが食べないと不安になる気持ちはよく分かります。それ自体は悪いことではありませんので、本書でその不安を解消していきましょう。

「プレッシャーのかけすぎ」というのは、たとえば「これくらい食べなさい」という圧力が、その子のキャパシティを超えてしまうケースです。

2018年6月に静岡県で当時小学6年生の児童が、担任から給食の牛乳を飲むよう強制されてPTSDを発症したとして、家族がその小学校を管轄する町に対し、250万円の慰謝料を求める訴えを起こしました。

この一件からも分かるように、子どもにプレッシャーをかけすぎると、食事のトラウマから精神障害を起こすこともあります。実際、私が会食恐怖症の642人に取ったアンケートでは、4分の1に当たる162人が「親からの食の強要が会食恐怖症の発症のきっかけになった」と回答しました。

「放置しすぎ」というのは、特に偏食がちな子が少しでも食べるように「好きなものしか食卓に出さない」などのケースです。これでは食べられるものがいつまでたっても広がりません。

子どもの体質だけではなく、この「大人の4つの「しすぎ」」が原因で食べられない場合が、思っている以上に多いのです。「食べない子」が変わるために、まずは大人がこれらの「しすぎ」を自覚し、そして手放しましょう。それが、「食べない子」が「楽しく食べられる子」に変わる第一歩です。


食べる量は子どもが自分で決める

社会心理学で「一貫性の法則」という原理があります。簡単にいうと「人は自分で決めたことを守りたがる」という意味です。

これは「食べない子」も同じです。

たとえば「しっかり食べようね」と言うよりも「どれくらい食べる?」と聞いて、自分で決めてもらった方が、事がスムーズに運びます。

給食を残す子がいない保育園として有名な「さくらしんまち保育園」では、この「自分で決める」ことを重視しています。

さくらしんまち保育園の給食は、セミビュッフェ形式で行われています(編集註:2020年1月当時)。配膳台の前に補助として先生が立ち、子どもたちにどれくらい食べるか聞いて配膳しますが、この時、こんな会話が交わされます。

先生:「Aくんは、サラダどれくらい食べる?」
Aくん:「いっぱい食べる!」
先生:「Bくんは、どうする?」
Bくん:「トマトはイヤだー!!」
先生:「1個くらいは食べてみたら?」
Bくん:「じゃあ1個だけ食べる!」

このような対話の上で、給食が配膳されます。「トマトがイヤだ」という子に対して、完全に放っておくわけではないのもポイントです。

こうしてしっかりとコミュニケーションを取ることで、強制せずとも、子どもたちが自分の意思でどれくらい食べるかを決めるようになるので、「自分で選んだものだからちゃんと食べよう」と思うわけです。

他にも、「7時になったらごはんだよ」と言うよりも「何時からごはん食べたい?」と聞いてみたり、「ごはん前にお菓子はダメ」と言うよりも「ごはんを食べられなくなるから後にしたら?」と聞いてみるなど、いくらでも応用できます。

ちなみに、さくらしんまち保育園では、食べる量だけではなく「食べ終わる時間」も子どもたちが決めています。3歳児以上になると、テーブルに班のメンバーがそろったら、時計を見て「この時間までにみんなで食べようね」と子どもたちが終わりの時間を決めて食べ始めるのです。

他にも、食器や子ども用の椅子、テーブルなどを買う際も、一緒に選ぶと食に前向きになるケースがあります。

子どもの場合は、たくさんの選択肢があると逆に選べないことがあるので、その際は親が事前に2案ほど用意しておきます。その上で「AとBどっちが良い?」と選ばせてあげると、子どもが選びやすくなります。

【山口健太】
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事、「食べない子」専門の食育カウンセラー、『月刊給食指導研修資料(きゅうけん)』代表・編集長。岩手県盛岡市出身。著書に『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)、『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版社)、『会食恐怖症が治るノート』(星和書店)など。