このままの食生活では良くないと思っても、習慣を変えるのは難しいもの。そんな時は、部分的に栄養を足し引きする方法が効果的。地域在宅医療・介護の現場で、「高齢者の栄養管理」の最前線に立つ塩野﨑氏が、手間をかけずに栄養バランスの整った食事をとるコツを伝える。

※本稿は、塩野﨑淳子・著(若林秀隆・監修)『70歳からは超シンプル調理で「栄養がとれる」食事に変える!』(すばる舎)より、内容を一部抜粋・編集したものです。


偏った食事があっても、後で調整すれば大丈夫

「栄養摂取量の日間変動」という言葉をご存じですか。

厚生労働省で5年ごとに策定される「日本人の食事摂取基準2020年版」には、健康な成人男性3人で観察された16日間のエネルギー摂取量のグラフが紹介されています。毎日同じ食事を食べない限り、栄養素の摂取量にもムラが生じます。

グラフは見事にギザギザですね。ムラがあっても、健康な成人であれば体重が短期間で大きく変動しないよう、体は調整しているのです。

基本的には毎食、主食と野菜、たんぱく質をとれるように献立を考えますが、忙しくておにぎり1つしか食べられないこともあるでしょう。

栄養バランスは大事ですが、毎食がんばらなくても大丈夫です。管理栄養士でも「栄養バランスの悪い食事」をとることはあります。

たとえば昼カップラーメンのみだったなら、夜はお鍋で魚や野菜をたっぷり1日分とる日があってもいいのではないでしょうか。

「こう食べなければならない」と型にはめず、「3日単位くらいで、だいたいとれていればOK」と柔軟に食生活を楽しんでください。

「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」の食事には栄養的に大きく差があります。

ハレの日である結婚式の披露宴で提供されるフルコースのお料理には、どのくらいのエネルギー量があると思いますか?

フランス料理などのフルコースは、1500〜2000㎉ものエネルギー量になります。パンをお替わりして、お酒をたくさん飲んでしまうとさらに増えますね。料理にはバターや生クリームを使用し、ソースにもワインやハチミツなどを使っているため、おのずとエネルギー量が高くなります。

ある友人の結婚式では、同じテーブルの「新婦友人」はみな管理栄養士でした。コース料理全体で成人女性1日分程度のエネルギー量ですが、美味しくてぺろりと食べてしまいました。

ハレの席で「このコース料理はエネルギーのとりすぎだから残そう」などと白けたことを言う人は一人もいません。

その後3日間ほどで食事量を調整したのは言うまでもありませんが、大切なことは、「食べすぎたな」「足りないな」と思ったらその後の食事で調整することだと思います。


「栄養の足し引き」でバランスをとる

訪問栄養指導をしていると、患者さんやご家族さんに「何を食べたらいいのか、毎日食べる献立を決めてください」と言われることがありますが、私はそういった栄養指導は基本的にしないようにしています。

「食生活の習慣」は、なかなか変えることができないうえ、食物選択に主体性がなくなってしまうからです。

また、寒い日には温かいうどんがほしくなり、暑い日は冷たいそうめんが食べたくなるように、「その日に食べたい気分の食べ物」を大切にしていただきたいのです。

その方の食生活をお聞きして、たんぱく質の摂取量が足りなければ、サラダにツナや茹で卵をプラスしたり、脂質のとりすぎであれば、3時のおやつを洋菓子ではなく水ようかんにしてみたりと、足りないものはプラスし、取りすぎのものは引いてみるようアドバイスします。

また、野菜やたんぱく質をたくさん食べなければと、品数を増やすことで「塩分のとりすぎ」になってしまうのも要注意です。

塩分のとりすぎかどうかがわからない方は、まず「パッケージの塩分表記を確認する」ことから始めてみてください。調味料だけでなく、意外なものに多くの塩分が含まれていることがわかります。

最近驚いたのは、「貧血の方の鉄分を補うために、うずら煮(うずらの卵を甘辛く煮たもの)をすすめてみよう」と思いパッケージを見てみると、小さなうずら煮5個に含まれる塩分量が0.8gもあったことです。

パクパクと食べてしまうと、知らず知らずのうちにかなりの塩分量になり、鉄分だけでなく塩分も摂取してしまいます。

一日の塩分摂取量の目安は、男性は7.5g、女性は6.5gですので、自分が摂取している塩分量を把握することで、とりすぎなのかそうでないのかわかります。

「栄養バランスの良い食事」というと、「足りないものを足す」ことに目が向けられがちです。「とりすぎのものを引く」ことも大切です。

たとえば「揚げ物」が主菜であれば、副菜やスープは油を使わないメニューにして、1食で「油」をとりすぎないように工夫します。

唐揚げにマヨネーズを使ったポテトサラダ、牛乳を使ったポタージュスープではなく、酢の物とお吸い物などに変えるだけで、グッと脂質の摂取量が抑えられます。

反対に、痩せ気味の方や、一度にたくさんの量を食べられない方には、主菜、副菜、スープに油分をプラスして、少量高カロリーのメニューを提案することもあります。

ただ食べたいものを並べるのではなく、献立全体の栄養のバランスを意識しながらメニューを決めることが大切です。