子育てには親の姿勢が問われます。親が行動を変えないと子育てはいい方向に向かっていきません。専門行動療法士、臨床心理士の奥田健次氏はこう指摘します。では、わが子の失敗を親はどう捉え、振る舞えばよいのでしょうか。

※本稿は、奥田健次著『子育てのほんとうの原理原則 「もうムリ、助けて、お手上げ」をプリンシプルで解決』(TAC出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。


自分の失敗を認められない子

中学1年生のマサキ君がお母さんといっしょに私のところに相談にきました。マサキ君は、自分一人で何でもできると思っていました。同じように、お母さんもそう信じていました。

「ほんまに? ほな、1人で大阪ミナミのレストランBまで行ってみる?」
私が挑発すると、「行けますよ。そんなのかんたんです」と言います。

「じゃあ、先生は後ろからついて行くから案内してな」ということででかけることにしました。家をでて、駅に着き、切符を買ったところまではいいのですが、乗った電車は反対方向です。

「いきなりまちがってるやん」と思いながら、何も言わずそのままついて行きました。電車に乗っている途中で気づいたのでしょう。「先生、わからなくなっちゃいました」と助けを求めてきました。

ところがその子は自宅に帰ったあと、こう言ったのです。「今日は運が悪かっただけです」。自分が失敗したことを認めないんです。「今日のでは、まだコケ足りへんのか」と思い、次の日に別の作戦を実行することにしました。


わざと失敗させてみることができるか

翌日、またいっしょに街にでかけました。ゲームセンターの前をとおると、「UFOキャッチャー、得意です」と言います。「おお、そうか、じゃあ先生もやるわ」と、2人で別々にUFOキャッチャーをしました。

小型ベンツが買えるくらいやってきた私はバンバンとれるけど、マサキ君は1個もとれません。もってきたお小遣い2万円のうち1万5千円は貯金するつもりでとっておいたのに、それもどんどん使ってしまい、とうとう底をついてしまいました。

帰り道、真っ青な顔をしてマサキ君は、「お金が怖いものだと初めて知りました...」とつぶやきました。失敗して、貯金計画が駄目になって、やっと気づいたのです。

「ええことに気づいたやん!」と私はマサキ君を、そこで初めて褒めました。マサキ君とゲームセンターにいるとき、もしもお母さんがいたら、「もうやめておかないとお金がなくなってしまうよ」と、ブレーキをかけたでしょう。

それでマサキ君は計画どおり1万5千円を貯金できたかもしれませんが、お金の使い方や大切さや怖さを知ることはできなかったでしょう。

お金だけもっていてもしょうがない、お金の大切さやブレーキがきかなくなった自分の怖さを知ることのほうが大事、と親がわかっていれば、私と同じように一度失敗させてみることもできます。過保護で過干渉な親が、子どもの成長の邪魔をしているのです。


成功経験と失敗経験をバランスよく

成功経験を積むと、自分に自信をもて、やる気が生まれる。反対に失敗をくり返すと、自尊心が弱くなり、やる気のない子に育つ。これはある一面では事実です。だから、「子どもには成功経験をどんどん積ませましょう」と言う人はいくらでもいます。

最近の親の9割が、「わが子に失敗をさせたくない」と言います。かわいいわが子が転んで怪我するのを見てられないから、子どもがつまずく前に失敗の原因になりそうな石をとりのぞこうとします。

そんな親の援助つき、セーフティネットつきの成功に何の意味がありますか? 失敗を回避して子どもは傷つかずにすんだかもしれないけど、逆に「俺って、何でもできる」とカンちがいさせることになりませんか?

成功はいいこと、失敗は悪いこと。そういう単純な思い込みがあると、子どもの失敗経験を成長の機会としてとらえることはできないでしょう。

人間は、痛い目にあって大事なことに気づきます。成功経験と同時に失敗経験も重ねることで、よりよく成長できるのです。ノーベル賞を受賞した科学者たちは、まちがいなく人一倍、失敗経験を重ねているのです。