昔に比べてめっきり着る機会が少なくなってしまった着物。着付けが難しいという印象もあって敬遠されがちですが、実際に着物を着ている人を側で見ると、その立ち居振る舞いの上品さにはっとしたことがある方も多いと思います。なぜ着物を着ている人は美しく見えるのでしょうか?

神社・お酒・歌舞伎・相撲など日本文化の様々なルーツがあるとされる山陰地方(鳥取・島根)で呉服店「和想館」を経営。「君よ知るや着物の国」(幻冬舎刊)著者で、着物と日本文化の専門家、池田訓之氏が解説します。


着物は日本人の体型に合うように作られている

「着物を着て久しぶりに友人に会うと、雰囲気や動きが洋服の時と別人のようだと驚かれる」、呉服店にいらっしゃったお客様からそういった話をこれまでに何度も聞いたことがあります。これはたまたまではなく、着物には着るだけでその人を美しく上品に見せる不思議な力があるのです。

まず第一に、着物は日本人の骨格や体型に合うように作られています。どこの国にも民族衣装というものがありますが、日本人にとっての民族衣装は着物です。ですから着物を着た日本人が美しく見えるのは当然といえば当然かもしれません。

具体的に説明すると、日本人の多くは肩幅、ウエスト、ヒップがまっすぐな長方形型(寸胴体型)の体型に当てはまります。

着物は「直線裁ち」といって、長さ約12mの反物を袖、胴体、衿と衽に順に長方形に裁断していき、つなぎ合わせて筒状の形に作り上げるため、日本人のような長方形型の体型だときれいにはまり、着物姿がきまって見えるのです。時代とともに日本人の体型も少しずつ変わってきていますが、それでも多くの方が着物と相性のよい長方形型になると思います。

私はロンドンでもお店を開いた経験があり、欧米の方にも着物を販売してきましたが、欧米の方と日本人は明らかに骨格が違います。

欧米の方は胸板が厚く、腰も張っていて、通常の着物の反物では巾が足りない方もいらっしゃいました。そんな凹凸のはっきりした方をくびれ型とか逆三角形型というので、日本人でそこまでくびれの差が激しい方はまずいらっしゃいません。

また年齢とともにくびれが目立たなくなり、より長方形型になっていくのは、誰にでも訪れる自然な変化。着物は年輪を重ねた姿を美しさへと引き立ててくれます。年を重ねるごとに着物姿がますます輝いて見えるという例も少なくありません。

もしこれまでに一度も着物を着たことがなく、「自分は着物が似合わない」と思っている方がいたら、騙されたと思って一度着物を試着してみてください。想像以上の我が身の美しさに思わず笑顔になってしまうと思います。私はこれまでにそのような場面を何度も見てきました。


動きが制限されることで所作が美しく見える


着物は決して動きにくいということではありませんが、洋服に比べると可動域がやや狭く、それが所作を美しく見せているという面もあるかと思います。

例えば着物の裾は袷(あわせ)になっているため、大股で歩くと着物の隙間から足が見えてしまいます。そのため、足が見えないように歩幅を小さく歩くように自然と意識が働きます。着物だと履物は下駄や草履になるので、なおさら歩幅が小さく、動きがゆっくりになり、歩く姿が美しく見えるのです。

また着物は袖が長く垂れ下がった形をしており、食事の際にはテーブルの上の食器などに引っ掛かりやすくなっています。袖が物に当たらないように意識すると、手の動きが曲線的になり、上品な印象になります。

他にも着物の袷がはだけないように裾を押さえてそっと腰を落とす姿など、着物ならではの動きには所作が美しく見える動きがたくさんあります。

洋服だと椅子に座る際に足が開いてだらしなく見えてしまうことがありますが、着物の場合は足元まで着物でくるまれているため、膝が揃った美しい座り姿を自然にキープすることができます。

また畳の生活から椅子の生活が当たり前になったことで、正座が苦手という方が増えていると思いますが、着物であればぎゅっと締められた帯によって腰骨が立ち、背骨が支えられるので、いくらか正座が楽になります。