現代最高の知識人と称されるフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏。トッド氏は今回のコロナ危機への各国の対応をどう見たのか。

世界的に広がる教育格差問題を分析し、ウィズコロナ時代に加速する新たな階級化を論じた4年ぶりの近著『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』(PHP新書)から抜粋してお届けする。


コロナが明らかにした各国の強みと弱み

世界中で大流行を見せている新型コロナウイルスは、各国の強みや弱みを明らかにしました。フランスの結果は並以下という感じですが、すでにコロナ前からフランス社会は危機的な状況にあったのです。

近著『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』で指摘している通り、生活水準は低下し、黄色いベスト運動が起き、エリートが大衆を軽蔑し、一部を除いて社会の貧困化を進めるような年金制度改革を押し付けるなどということが起きていました。

そんな中で新型コロナウイルスという危機が訪れ、マスクが自国で十分に作れないというような、まるで発展途上国のような状態が明らかになってしまったのです。

フランス政府はマスクが不足していることを知っていたため、マスクは必要ないなどと弁明したりしました。死亡者数は人口10万人当たり約43人という結果になってしまいました(2020年6月時点)。そしてロックダウン(都市封鎖)は経済に大打撃を与え、これから労働市場に参画しようという若者たちを追い込むような事態を招きました。

一方の日本では、厳しいロックダウンはされませんでしたし、マスクの供給もありました。10万人当たりの死亡率も約0.76人(2020年6月時点)と、非常に少なかったのです。ロックダウンをしたフランスの方が60倍弱の死者を出した計算になります。


コロナ危機で覆い隠された、日本の「本当の危機」

しかし、それでも考えなければいけないことは、2019年時点でフランスは人口の自然増をキープしている一方、日本やドイツでは人口の自然減が深刻であるということでしょう。社会の最優先事項は、(経済的な)生産の前に、出産なのです。

日本社会はこのコロナ危機もわりとうまく切り抜けつつあるように見えます。それは日本文化や社会的なディシプリン(規律)のおかげなのかもしれません。

しかし、あるレベルにおいては、日本のように「完璧」を追い求めることや、実際に日本にある「完璧」と言えるような状態というのはその社会にとって、重荷にもなるのです。だから人口減少が起きている。私はそう捉えています。

例えば、変わりつつあるとはいえ、日本と移民との関係というのはいまだに難しいものがあります。近著『大分断』で詳しく述べていますが、日本でも、フランスのように教育による格差の広がりがあり、グローバル化の悪影響も受けています。

それでもやはり他の国に比べると比較的持ちこたえていると思います。ですが、これらは人口の増加を犠牲にした上で成り立っているため、少子化が抑えられません。

あるレベルにおいては、社会的な格差よりも人口の収縮の方が深刻な問題になりうるのです。日本に関しては人口の問題を何とかするしかないのです。

米中覇権争いなど世界で国家間関係が再編されている今、日本の将来についても再考するべきでしょう。これは急務であると言えます。なにせ日本はこれから移民を受け入れなければならないからです。それは単純に国内のバランスを保つためでもありますが、老いていく社会の高齢者たちを支えるためにも必要でしょう。

移民については、中国など隣国との関係性をしっかり把握した上で、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどからの受け入れを優先する方法もうまくいくのではないでしょうか。ヨーロッパからの移民だってありえると思います。

また、さらに言うならば、天皇陛下が移民についてスピーチなどをすることは非常にいいことではないかと思います。というのも、この移民の受け入れというフェーズは日本にとって明治維新ほどの重要性を帯びるはずだからです。

明治維新は日本が植民地化されずに生き抜くために起きたわけですが、それと同じように、少子化は今後日本という国が生き延びられるかどうかという問題と深く関わっているのです。