<<作家の橘玲氏は「日本人の働き方とグローバルスタンダードは根本的に違う」と指摘しつつ、自民党政権下の旗振りの下での「働き方改革」を実現したとしても、世界の企業との間には大きな差があると語る。

橘氏は、今後世界の潮流に飲み込まれていく日本人が、組織や人間関係の煩わしさから離れ、「仕事の腕」を磨いて“食っていく"ためのヒントを近著『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』で記している。

ここでは同書より、日本型雇用が日本人から「いかに憎まれているか」を著した一節をここで紹介する。>>

※本稿は橘玲著『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。


保守政権・自民党のリベラルな「働き方改革」も世界とはまだ大きな差

最初に、「働き方」を定義しておきましょう。論者によってさまざまな主張があるでしょうが、ここでは次のように使います。

働き方1.0 年功序列.終身雇用の日本的雇用慣行
働き方2.0 成果主義に基づいたグローバルスタンダード
働き方3.0 プロジェクト単位でスペシャリストが離合集散するシリコンバレー型
働き方4.0 フリーエージェント(ギグエコノミー)
働き方5.0 機械がすべての仕事を行なうユートピア/ディストピア

安倍政権が進める「働き方改革」とは、働き方1.0を強引に2.0にヴァージョンアップしようとするものです。

これまで日本の「知識人」は、日本型雇用こそが日本人を幸福にしてきたとして、「働き方改革」を推進する「ネオリベ(新自由主義者)」に呪詛の言葉を投げつけてきました。

ところが「真正保守」を自任する安倍首相は「雇用破壊」に邁進し、「私がやっていることは、かなりリベラルなんだよ。国際標準でいえば」と自画自賛しています(朝日新聞2017年12月26日)。

グローバル化、知識社会化・リベラル化する世界のなかで、働き方1.0は目を覆わんばかりの機能不全を起こしています。

政権が保守であれリベラルであれ、官民挙げて「改革」しなければどうにもならなくなっているのです。

しかし問題は、働き方2.0を実現したとしても、それではぜんぜん世界の潮流に追いつけないことです。最先端の働き方は、3.0から4.0に向けて大きく変わりつつあるからです。

その背景にあるのは、中国やインドなど新興国を中心とする急速な経済発展(グローバル化)と、テクノロジーの驚異的な性能向上です。

私たち日本人が抱える困難は、働き方が「未来世界」へと向かうなかで、いまだに「前近代世界」のタコツボに押し込められていることにあるのです。


年収数千万から数億円の海外企業を選ぶのは必然

もちろん、いきなりこんな話をしても「そんなわけない」と反発されるだけでしょう。そこで最初に、いくつか事実(ファクト)を示しておきます。

NTTの澤田純社長によると、「(NTT持ち株会社の研究開発の人材は)35歳になるまでに3割がGAFAなどに引き抜かれてしまう」とのことです(「対GAFAへ処遇改善」日本経済新聞2018年11月20日)。

GAFAとはグーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の頭文字で、「プラットフォーマー」と呼ばれています。

検索、スマートフォン、SNS、EC(電子商取引)で圧倒的なシェアを持ち、市場の土台(プラットフォーム)を支配しているグローバルIT企業が、日本企業から若くて優秀な人材を次々と引き抜いているのです。

記事によると、NTTの研究開発職の初任給は大卒が21万5060円、修士課程が23万7870円ですが、世界的に人材の獲得競争が激しくなっており、GAFAなどは新卒でも優秀なら年収数千万円で採用するとのことです。

日本企業から人材が流出する先はシリコンバレーのIT企業だけではありません。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が2017年に、日本国内の新卒採用で初任給40万円を提示したことが報じられて衝撃がひろがりました。

ソニーなど日本の電機大手の2倍ちかい水準ですが、経済紙の取材に対してファーウェイの日本法人は「世界的には珍しくはない。優秀な人を採るためのグローバルスタンダード」と答えています。(「日本の賃金、世界に見劣り」日本経済新聞2018年1月22日)

こうした事態を受けてNTTデータは「トップ級のIT(情報技術)人材獲得を狙った人事制度」を新設し、業績連動部分には上限を設けず、年収3000万円以上を出す場合もあると発表しました。(「ITトップ人材 業種超え争奪」日本経済新聞2018年12月5日)

年功序列ですべて横並びだったことを考えれば大胆な試みに見えますが、ここには大きな誤解があります。NTTデータの「改革」は、一般社員の給与体系をそのままにして特別な人材を高給で雇うというものです。

それに対してGAFAは、専門職であればすべての社員が年収数千万円(あるいはストックオプションを加えて数億円)なのです。