認知症世界の8つの事例と対応のヒント

認知症によく見られる事例と、それぞれの行動をとる理由、さらにその対処法(認知症世界の歩き方)をご紹介します。

(1)おなじものを何度も買ってしまう
トイレットペーパーなど、まだあるものを何度も買ってきてしまうのは、買ってきたことを忘れているという記憶の問題のほか、視覚情報への依存によることも考えられます。

これは、「目の前にないものは、存在していない」と感じられる認知機能の障害によるものです。家の棚にトイレットペーパーがあるのを見ているときはたくさんあると思えても、棚の扉とびらを閉めると「ないもの」になってしまうのです。そのため、本人は「何度も買っている」という感覚はなく、「ないから買い足している」という場合が多くあります。

ヒント:扉のない棚やガラス扉で見える収納にするほか、冷蔵庫など中身が見えない場合は、中にあるものを写真に撮って貼るのも有効です。服の場所がわからなくなることも多いので、クローゼットにも使える方法です。

(2)トイレに失敗する
トイレに失敗するのも、いくつか理由があります。ひとつは、トイレの場所がわからなくなり、迷っているうちに間に合わなくなってしまい、失敗してしまうというもの。他人の家でトイレに迷うのとおなじ状態です。

対処として、扉にトイレマークをつけてみましょう。また、視野がせまくなりマークが見えにくい場合もありますので、マークを貼る位置や角度を工夫してみましょう。 

もうひとつは、からだの感覚の変化により、尿意を感じにくくなり、トイレに行くタイミングを逃してしまうことです。通常であれば、あと30分くらいは大丈夫だなというような感覚があるところ、それがなく、急に限界の状態になってしまうのです。

ヒント:マークは、意味がすぐに理解できるものがおすすめです。また、文字と絵の両方で示すのも有効。そのほか、廊下にテープで矢印をつくり、動線を示しているという方もいました。尿意を感じにくい場合は、アラームをセットしておくのも有効です。

(3)いつもの道で迷ってしまう
前後左右の方向感覚が失われてしまう、曲がった先など見えていない道や建物を想像することがむずかしい、目標を記憶にとどめておけない、視野がせまくなり目印に気がつけない、二次元である地図と三次元である目の前の景色を照合できない、上を指す直進の矢印(標識)が理解できなくなるなど、さまざまな理由があります。

ヒント:道順に沿って、見える景色の写真を順番に保存しておくほか、スマホの地図アプリのナビゲーションを使っている方もいます。

(4)バスや電車で降りられない
駅名などを思い出す「記憶のプロセス」に何か問題があることが考えられます。見たり聞いたりしても、情報が頭のなかをすり抜けていってしまったり、記憶できなかったりします。

また、駅名と自分がそこで降りるということが結びつかない場合や、降りる駅だとわかっていても降車ボタンを押おすというような、降りるための行動ができない場合もあります。

ヒント:降りる駅名を書いたパスケースを下げてみるほか、運転手さんやまわりの人に声をかけてもらえるようにお願いを。

(5)火をつけたことを忘れてしまう
ほかのことをしていて火をつけていることを忘れるのはもの忘れですが、認知症の場合は、「火をつけた自分」をすっかり忘れてしまいます。また、時間の感覚がゆがんでしまうことも理由に考えられます。

10分というとなんとなくの感覚があるものですが、感覚がゆがむと、目の前で見ていても1時間くらいパスタをゆでてしまうことが起こりえます。

ヒント:トイレと同様に、スマホのアラーム機能が効果的です。項目ごとに複数のアラームを設定しておくと便利。

(6)お金を盗まれたと思ってしまう
自分のお金が盗まれた、大切なものがなくなったなどと思うのは、使ったり移動させたりしたことを忘れてしまう記憶のトラブルです。

認知症でなくても、使った覚えがないのにお金や大切なものがなくなっていると、自分以外の誰かが持っていったのだろうかと疑心暗鬼になってしまうのは普通のことです。

ヒント:本人は覚えがないため、頭ごなしに否定されると頭にきます。円滑なコミュニケーションを心がけましょう。

(7)お風呂に入るのをいやがる
お風呂に入るのをいやがるのは、お湯がぬるぬるして気持ち悪く感じたり、熱すぎると感じたりと、感覚が変わってしまっていることが考えられます。

ほかに、空間認識や身体機能のトラブルで、服の脱ぎ着がむずかしかったり、時間感覚のズレや記憶ちがいで、さっき入ったばかりだと思っていたりする場合もあります。

ヒント:服の着脱に問題がある場合は、本人ができることまですべてを手伝うのではなく、できないところだけを最低限手伝うように。

(8)徘徊する
目的なく歩きまわっているわけではなく、外に出るのは必ず理由があります。ほとんどの場合、仕事に行く、人に会うなど、過去の記憶が呼び起こされて今の行動に結びついています。ただし、途中で目的を忘れてしまうこともあります。そうなると目的を説明できないので、あてもなく歩いているように見えてしまうのです。

ヒント:対処はむずかしいですが、地域ぐるみで取り組み、連絡を取り合えると安心です。危険を感じる場合は、スマートフォンのGPS機能を使用しても。


認知症の世界を上手に歩く5つのコツ

(1)理由はひとつではないと知る
認知症の方の症状や困りごとは多種多様、人それぞれです。まずは思いこみを捨てましょう。認知症のせいでできなくなったといわれると、本人もしんどくなってしまいます。

また、どんな行動にも理由がちゃんとあります。本人が説明できない場合も多いため、まわりにいる人が想像力を働かせて理由を探さぐるとよいでしょう。

(2)できることまで手伝わない
日常生活で「できること」は可能なかぎり本人で、「できないこと」はまわりがサポートを。一度の失敗で過保護になりすぎると、自立する機会が減り、認知機能が低下しやすくなってしまいます。

困っていることだけ手伝うようにしてください。そして「やりたいこと」に一緒に取り組みましょう。社会参加はとても大切です。

(3)「認知症」という言葉に反応しすぎない
認知症でなくても、風邪のときや睡眠不足のときなどには、いつもならしない行動をとったり、失敗したりすることが私たちにはあります。認知症だからと悲観的にとらえすぎないようにしましょう。

(4)丁寧なコミュニケーションを
認知症のある方の症状や困りごとは、本人にしかわからないことも多くあります。周囲が決めつけることなく、まずは本人の思いや体験に耳を傾かたむけてみましょう。

(5)早めに相談する
自分や家族、同僚が認知症かもしれないと思ったときは、早めに専門医に連絡しましょう。認知症であるという診断を受け、早めに受け入れることで、自立した生活を送りやすくなります。