一生で最大の買い物である“家”。マンションを買うのか、一軒家を買うのか、あるいは賃貸にするのか。個々の事情に基づいて判断すべき問題ではあるが、ベストセラー『未来の年表』の著者である河合雅司氏は、先月発売された新著『未来を見る力』(PHP新書)において「人口減少時代に『区分所有』は避けた方がいい」と警鐘を鳴らしている。

そんな河合氏と、『空き家問題』(祥伝社新書)などの著書があり、元三井不動産、現在はホテルや不動産のアドバイザリーなどで活躍している牧野知弘氏が人口減少時代の住まい選びのポイントを論じ合った。


マンションを売る相手がいなくなる

(河合)タワーマンションも増えてきましたが、牧野さんは人口減少時代のマンションをどう見ておられますか。私は新築物件が続々と建つことに強い危機感を抱いております。

これまでは若い世代が多く、住宅需要も大きかったので地価は上がり続け、交通の便の良い場所に立地するマンションが買い値よりも高く売れるケースが少なくありませんでした。

子供ができて部屋数を増やしたくなったときに売却すれば、利ザヤが稼げるので、これを頭金として次の新規物件に引っ越せました。いわゆる「住宅すごろく」です。

しかし、今後は「住宅すごろく」は通用しません。いつの時代もマンションを買うのは長期ローンが組める若い世代ですが、その若い世代がこれから先細りしていくのです。

中古マンションを売ろうにも相手が少なくなるということですから、現在住んでいるマンションが「終の棲家」になる人が増えるでしょう。無計画に新築物件を増やして行ったならば、どこかで需給バランスが大きく崩れると思いますね。

(牧野)特に築年の古いマンションは売れにくく、価格もどんどん下がっています。千葉県松戸市の中古マンションなどは、300万円程度で購入できるものもあります。

(河合)売る相手が少なくなるということは、さらに深刻な問題を生じさせます。少子高齢化により、持ち主が死亡したあと、相続がなされていないマンションが激増しています。そうしたマンションは空き部屋になってしまいます。すると、マンションの修繕が問題になってきます。

マンションは建物自体は堅牢にできていますが、それでも定期的なメンテナンスを施さなければなりません。立体駐車場、空調ダクト、排水管、エレベーターといった部分はもちろん、外壁の補修も破損が生じる前に実施しなければなりません。

(牧野)特にタワマンといわれる超高層マンションとなると、大規模修繕にかかる費用は通常のマンションの数倍になるといわれています。外壁修繕一つをとってみても足場が組めず、ゴンドラでの作業になります。

ゴンドラでは活動範囲が狭まるだけでなく、高層部は常時風が強いこともあり気象条件にも左右されます。また高層用エレベーターは非常に高額でもあり、大規模修繕費用が跳ね上がる原因にもなっています。

しかし空き部屋が増えると、修繕積立金や管理費が計画通りに積み上がらなくなります。そうでなくても、マンションは販売価格を少しでも抑えるために、修繕積立金や管理費を低額に設定して売りに出すことが多く、修繕が必要となった際に不足しがちなのです。

(牧野)マンションの相続人が相続登記をしなかったり、入居者の死亡の届け出が、マンションの管理組合に提出されなかったりするケースが激増していますね。

(河合)本来相続するはずの子供は、自分たちの家族とともに別のマンションに住んでおり、親のマンションに移り住むつもりはないですからね。

老朽化したマンションだと売ることも難しくなり、いったん相続してしまうと、自分が所有するマンションとダブルで管理費と修繕積立金を払わなければならなくなるためかなりの負担になります。そこで放置してしまうようですね。

(牧野)その場合、管理費の滞納が起こった段階で、管理組合は入居者の死を知ることになります。でも、管理組合には本来相続すべき家族の連絡先がわからない。

唯一残されているのは、持ち主が入居したときに届け出た、実家の連絡先だけ。そこに電話してつながらなかったら、もう伝手がありません。

管理費を徴収する術がなくなった管理組合は、空き家の差し押さえをしますが、老朽化したマンションなどでは、マーケット価値がなく、雀の涙の金額で売却するしかない。差し押さえるにしてもただではできません。およそ100万円の弁護士費用が必要になってきます。

(河合)総務省「住宅・土地統計調査」(2018年)によれば、全国の空き家は過去最多の848万9000戸で全体の13.6%に上っています。このうちマンションなど共同住宅は477万5200戸と56.2%を占めています。

一方で今後修繕が必要なマンションは激増していきます。国土交通省の資料によると、築50年以上のマンションは、2018年の6.3万戸から2038年には197.3万戸に急拡大する見通しです。マンションの空き家問題は今後も深刻化していくでしょう。


旧耐震基準のマンションのうち、建て替えが実現したのは1%

(河合)仮に空き家問題がなかったとしても、マンションの修繕のために他の入居者と合意形成を行うのは、かなり困難な作業になります。

マンションの場合、購入時には年齢も年収も家族構成も似通った人が多くなりがちですが、20年30年と経つうちに、年収や家族構成が変わってきます。

マンションの修繕が必要になった時に、さまざまな背景がある入居者と合意形成をおこなうのはかなり困難な作業です。結果的に、修繕すべき箇所がいつまでたっても修繕されないという事態も起こり得ます。

タワーマンションのように入居世帯数が非常に多い物件など気の遠くなる作業となるでしょう。建て替えの合意取り付けとなるとさらに難しいです。

そもそも私は、基本的にマンションという共有財産を「区分所有」するというのは、人口減少時代には合わないと考えています。

(牧野)そうですね。私が三井不動産でビルの管理業務の仕事を行っていた時に、オーナーが3人いらっしゃった区分所有のビルを担当しました。三井不動産はそのビルでサブリース(転貸)事業を行っていたのですが、当時はビル需要が低下していて、オーナーの方々に「借地借家法32条に基づいて、借家料の引き下げをお願いしたい」という交渉を行ったんです。

仮にAさん、Bさん、Cさんとすると、Aさんは「やむを得ないですね」とあっさりOK。でも、Bさんは慎重な性格の方で、OKともノーとも言わず、曖昧な返事しか返してこない。Cさんに打診したら、「冗談じゃない」と取り付く島がない。

さらにこのビルは築20年だったのですが、修繕についても同意を得られない。テナントの方からは、「どうして修繕しないんだ」と、我々にクレームが来る。どうにも厄介な仕事でした。以来私は、「区分所有のビルのサブリースはやめたほうがいい」と強く思いました。

ところが、マンションの場合は3人どころではありません。数百戸、多い場合は1000戸以上の入居者が入っています。意思疎通なんて、できるはずがない…と思ってしまいます。

旧耐震基準のマンションのうち、建て替えが実現するのは1パーセントほどしかありません。仮にマンション住民の5分の4の合意が得られて、建て替えが可能になっても、例えば中に寝たきりのおばあちゃんがいたときに、誰がそのおばあちゃんを部屋から出すんだ、という話になる。こういう、いわばきわめて「ベタ」な事情で、建て替えが進まないんです。

私は、マンションの購入を検討している方には、「永住資産としてのマンションはリスクが高い。買うのはいいですが、10年以内に売却することを検討してください」と伝えています。マンションに住むのは便利ですから、賃貸で住むのは問題ないと思いますが、購入は慎重になられた方がいいでしょう。