1軍で通用しない若手をあえて試合に出す理由

――広島カープは昔から若い選手を育成する伝統がある。緒方氏の時代も、次々と新しい選手が台頭してきたことが3連覇につながった。一体、どのように育成していたのか。

【緒方】重要視していたのは、未熟でも力がつきつつある2軍の選手を1軍に昇格させ、そのレベルを早めに体感させることです。

同じプロでも、1軍と2軍では絶対的なレベルの差があります。それを体感することで、自分に何が足りないのか、それを埋めるために何をしなくてはいけないのかを痛感します。そのあとで2軍に戻ると、練習への取り組み方が大きく変わるのです。「基本が大事」といった、これまで口酸っぱく言われたことが腑に落ちるのですね。

――1軍では通用しないとわかっていてあえて試合に出すこともある。当然負けにつながることもあり得る。

【緒方】確かに目の前の勝ちを拾うだけなら、レギュラーメンバーを出し続けていたほうが良いでしょう。しかし、プロ野球チームは1年先も3年先も勝ち続けなければなりません。

となると、今のメンバーだけで勝ち続けるのは不可能。そう考えたら、多少目をつぶっても、様々な選手にチャンスを与えることが欠かせません。将来を見すえて新しい戦力を育てることもリーダーの役目だと思います。


見逃すとチームが不調になるほんの小さなシグナル

――長いペナントレースの途中でチームが不調に陥ることもある。不調を長引かせないポイントとは?

【緒方】監督をしていてわかったのは、不調に陥るときには必ずその少し前に悪い前兆があることです。例えば「全力疾走を怠る選手がいた」「サインを見落とした」といったことです。これらを放置しておくと、チームの状態を簡単に修復できなくなります。そこで前兆を見逃さないようにして早めに手を打ちました。

――その前兆を見逃さないためには、「あいさつ」のような細かな変化も重要だという。

【緒方】選手一人ひとりと毎日じっくり話している時間は取れませんが、「おはよう」「頑張れよ」程度なら毎日多くの選手と交わせます。

こういう何気ないやり取りからも感じ取れることはあります。調子が悪い選手やプライベートで何かあった選手は、目をそらしたり、元気がなかったりしますからね。コーチやトレーナーに何かあったか聞けば、状況が把握でき、手を打てるわけです。

――これまでを振り返り、リーダーになったら最初にやるべきことは何か、緒方氏に聞いた。

【緒方】結果に責任を持つ覚悟を持つことです。私の場合、優勝できなかったら自分の責任なので、辞める覚悟をしていました。そうすれば腹を括って仕事に臨めます。

また、「いちプレーヤーと管理職では役割がまったく違うこと」を認識することも重要です。私も選手からコーチになった1年目は、選手からコーチの考えに頭を切り替えられず、選手に寄り添って教えられていませんでした。選手とコーチでは役割がまったく異なることを自覚するのが、リーダーや指導者になる第一歩です。


優れたリーダーは失敗をすぐ「経験」に変える

――やってはいけないことは「一人で仕事を抱え込むこと」だ。

【緒方】3連覇できたのは、選手はもちろん、コーチやトレーナー、スコアラーなどが皆で力を合わせたからです。自分一人では大きな事を成し遂げることなんてできません。

私の監督1年目のように、リーダーも失敗することはたくさんあると思います。しかし、イチローや大谷翔平のようなスーパースターでも、たくさんの失敗を積み重ねて今があるように、一つも失敗しないで優秀なマネジャーや大経営者になった人なんていないはずです。

失敗を失敗という言葉で終わらせるのか、「経験」と考えて次に活かすのか。1年目の姿勢がこれからの人生を大きく分けるのです。

【緒方孝市(おがた・こういち)】1968年、佐賀県生まれ。87年、ドラフト3位で広島東洋カープに入団。俊足・強肩・強打の外野手として長くカープの主力を担う。2009年に現役を引退。その後、コーチを経て、15年に広島東洋カープの監督に就任し、16年にチームを25年振りのリーグ優勝へ導く。17年には37年振りとなる連覇、18年は球団史上初のリーグ3連覇を達成。現在は野球評論家として活動している。

(『THE21』2022年4月号特集「リーダーになったら必ずやるべきこと  絶対やってはいけないこと」より)樽募金〜広島東洋カープを支えた市民の力(平塚七郎)