物事を理解したり表現したりするのに欠かせない「言葉」。言葉を味方にできると、自分の考えや思いを的確に表現できるようになり、スムーズに人とコミュニケーションをとれるようになります。だからこそ、「語彙力」に注目が集まるのです。

明治大学教授で「語彙力ブーム」の火付け役でもある齋藤孝氏は、子どもが語彙力を身につける中で、オノマトペを習得することがとても重要だと語ります。『伝える力を伸ばす へんし〜ん! ことばブック』(小学館)で多くのオノマトペを紹介している齋藤氏に、幼児教育から小学校教育へスムーズに移行するための言葉の力について聞きました。

齋藤孝(明治大学文学部教授) 
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。


オノマトペで言葉の感覚が磨かれる

――言葉の力をつけるにあたって、未就学児にオノマトペの習得をすすめるのはなぜでしょうか?

(齋藤)まず一つは、リズムがあって覚えやすいこと。「はらはら」「ドキドキ」といった繰り返しや「どろん」「がーん」「ぴりっ」など、子どもが声に出したくなる語感が多いので、語彙として定着しやすいのです。

もう一つは、オノマトペが身体の感覚と結びつく言葉であること。「サクサクなお菓子」といえば歯ごたえを感じますし、「手がざらざら」といえば手が砂だらけになった感じを思い浮かべます。このような感覚に個人差はそれほどありません。大人も子どもも「サクサクだね!」と言い合えるし、分かり合えるのです。

オノマトペを知ると言葉の感覚が磨かれます。子どもの中で言葉と感覚が結びつくと、思考力や理解力とともに心も成長していきます。

――確かに、オノマトペは微妙な感覚の違いを表すものでもありますね。その違いを理解できると、表現の幅も広がるということでしょうか?

(齋藤)そうですね。例えば「痛い」ことを説明する場合、大人はどんな時にどんなふうに痛むのかを具体的に説明できます。ですが、大人ほど語彙を持たない子どもが、痛さの程度や頻度を的確に説明するのは難しいですよね。そんな時に、オノマトペを知っていれば「しくしく痛い」「ずきずき痛い」「がんがん痛い」「ひりひり痛い」などと伝えることができます。

小学校に入ると人間関係が広がるので、それまで身近なコミュニティの中で言わなくても分かり合えていたことが通用しない場面も出てきます。複雑な状況や感情を伝えることが必要なケースも増えてくるので、表現のバリエーションを身につけておくに越したことはありません。

と同時に、感覚や感情は一言で表せるものではないとわかれば、「ヤバい」「キモい」ばかりで会話するようなこともなくなるのではないかと期待しています。

――オノマトペは日本語の特徴的な言葉ですし、日本語でのコミュニケーションには欠かせないものですね。

(齋藤)英語のオノマトペには、日本語ほどのバリエーションがないですからね。それだけ日本語では感覚表現を大事にしてきたと言えるでしょう。「ぺこぺこ」と言えばお腹が空いていることだと誰もがわかります。この「わかる」ということが、日本語を使う上でのベースになるのです。

オノマトペのおもしろいところは、一部が濁音や半濁音に変わるだけでまったく違う意味の言葉になること。「ぺこぺこ」が「べこべこ」になった瞬間、私たちは底がへこんだ鍋を想像しますよね。『伝える力を伸ばす へんし〜ん!ことばブック』では、おばけのいたずらで、ある言葉が濁音や半濁音に変わるという設定で、言葉の意味と変化を絵本にしています。