放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、神田伯山襲名披露を控える講談師の神田松之丞についてお送りする。

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 兎にも角にも演芸界にとっては大きな慶事である(ケイジとケンジというのは今をときめく東出昌大の作品です、老婆心ながら……)。この2年程マスコミ的にはすっかりヒートアップした感のある“百年に一人の逸材”とハッタリをかます講談師、神田松之丞改め神田伯山の襲名である。当人がラジオで曰く、「マスコミとか芸能の世界であれこれ出たけど、結局味方は爆笑問題の太田光さんと高田センセだけ」と泣き売の手口をみせるが、太田だって私だって陰では一生懸命松之丞のマイナスキャンペーンをやっている。

 これだけの勢いで真打に昇りつめ伯山を襲名するというのは、分かり易く言えば徳勝龍の幕尻優勝のようなものだ。芸界敵ばかり。若くて生意気で大嘘つきというのがなんともいい。芸人、若い時は小生意気ぐらいが丁度いい。私が伴走した立川談志もビートたけしもそりゃもう生意気だった。その鼻っ柱をへし折られなかったのが凄いのだ。そこに芸と大衆人気があったから一線のままいられた。日本人なら大好きなノーコンプライアンスなのだ。

“講釈師みてきたような嘘をつき”。有名なフレーズだが松之丞の場合は、“講釈師みてきてさらに嘘をつく”である。ラジオ、高座から放たれる、池袋という中途半端な風土から生まれたであろう的はずれな薄い東京風味の毒ガスがチャーミングでもある。

 さすがの私も講談の世界はそれ程知っている訳ではないが、松之丞が書いたり喋ったりしているのを読むと伯山代々は相当凄いらしい。初代は江戸講釈界に覇をとなえたとあり(広辞苑)十八番が「徳川天一坊」。川柳にも「伯山は天一坊で土蔵を建て」。弟子も80人いてとにかく売れた。三代目がとりわけ光っていて、人呼んで「次郎長伯山」。伯山が寄席のトリをとるとまわりは閑古鳥。俗にいう「八丁荒らし」。四代五代、さまざまあって六代目の誕生である。

 2月9日には披露目のパーティー。扇子、手ぬぐいと共にあいさつ状も刷られ、そこには私、太田光、ジブリの鈴木敏夫そして師匠の人間国宝神田松鯉の推せん文が並ぶ。2月11日から10日間ずつ都内の各寄席で披露興行。新宿末広亭でスタートし、連日所属する落語芸術協会の昇太、小遊三、米助ら幹部も出演する他に、日替りのゲストとして鶴瓶、志らく、爆笑問題。私も17日に松村邦洋と“ものまね漫才風”の御祝儀高座を相勤めまする。いよいよ羽ばたく若武者を目撃して下さい。

※週刊ポスト2020年2月21日号