「闇営業」問題から約9か月。宮迫博之や田村亮ら渦中の芸人たちが“復活への途”をそれぞれに歩み始める中、漫才師としての再起に並々ならぬ思いで臨むコンビがいる。かつて「M-1最大の革命児」と呼ばれながら優勝を逃し、その後、闇営業問題で謹慎生活を送ったスリムクラブの2人・真栄田賢と内間政成──。ノンフィクションライターの中村計氏が、謹慎期間を終えて再起を目指す2人の思いを聞いた。

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◆「漫才で取り返せ」

(2019年)8月に入ると、真栄田は大先輩の漫才師・島田洋七から呼び出しを受けた。宿泊中のウエスティンホテル東京の部屋に来いとのことだった。部屋に到着するなり、こんな話をされた。

「昨日、(島田)紳助と会ってな。お前らの話になったんよ。紳助は『おれはよかったと思うで。チャンスや』って。『こんなことでも起きなかったら、あいつら、今もM-1準優勝の余力で、適当にのらりくらりやってたやろ。あいつら、漫才でここまで来たんやから、漫才で取り返せって言うといてくれ』と。

 漫才、ちゃんとやってるんか? 2着までいったんなら、1着目指さんかい」

 わずかな時間だったが、真栄田の腹は決まった。M-1のエントリー締め切りは8月31日だ。島田の言葉を聞くまでは立場上、自粛すべきかとも考えたが、それは単にM-1から逃げたがっているだけだった。

 ただし、マイナスからの再スタートだった。笑いとは、究極のところ、お客さんに愛してもらえるかどうかだ。2010年のM-1で、スリムクラブは言葉を発することなく、その佇まいだけで場内を爆笑の渦に巻き込んだ。つまり2人の存在そのものが客のハートをつかんでいたのだ。

 どんなにおもしろいことを言っても、愛されていなければ、客は心を固く閉ざしてしまう。それだけに、闇営業問題で少なからずスリムクラブに付着してしまった負のイメージは大きなビハインドになった。

 結論から書くと、昨年末のM-1においてスリムクラブは準々決勝で敗退した。復帰ステージと同様、闇営業ネタを織り込み、客の心をほぐしにかかったが、2010年のときの客席を幸福で覆い尽くすような笑いは生まれなかった。真栄田が敗因をこう分析する。

「ガタガタでしたね。結局、闇営業問題でこうなって、そのマイナスを取り戻すための漫才になってた。客からマイナス分を奪おうとしているんですよ。それは、“ブラックエンジン”なんです。

 ジャパネットたかたの商品が売れる理由、わかります? 本当に自分でいいと思った商品をただ人に紹介しているだけだからなんです。僕らも2010年はそうだった。こんなおもしろいネタができたんで、見てくれませんか? ね、めっちゃおもしろいでしょ、って。奪うんじゃなくて、与えようとしていた。なので、“ホワイトエンジン”だったんです」

 内間も似た感想を漏らした。

「うちらは自分のエゴが出るとダメ。去年は、これ、ウケるでしょうって、押し売りのようになってしまった」

◆「局長、ありがとうございます」

 スリムクラブは今年、結成15年目を迎えた。M-1に出場できるのは大会規定で今年が最後になる。

 真栄田は2005年に東京に出てきてからというもの、毎朝、湯船に浸かり、30分から1時間、イメージトレーニングをするのが習慣になった。

「ずうっと、イメージしてるんですよ。最初、東京に出てきたときは、埼玉の小手指っていうさみしい田舎に住んでいたので、湯船に浸かりながら、絶対ここから這い上がってやるって」

 今、イメージしているのはこんなシーンだ。

「ラストイヤーのM-1で優勝して、内間が泣きながら抱きついてくるんですよ。『ありがとう』って。僕も、(優勝できるって)言っただろう、って。それで審査員の松本(人志)さんからトロフィーをもらって。3代目局長(※注)なんで、『局長、ありがとうございます』って言うと、松本さんが『局長、言うな』って返してくれる。そこまでイメージしてるんです」

【※注/2019年11月22日放送回をもって、西田敏行は『探偵!ナイトスクープ』局長を降板し、新局長に松本が就任した】

 振り返れば、2010年を迎えたときも、同じような苦境の中にいた。内間に子どもができたことがわかった直前に、主な収入源となっていたテレビ番組のレギュラーを外されたのだ。

 その逆境が力になった。今も7割方仕事は戻ったものの、いまだ復帰のかなわぬ『探偵!ナイトスクープ』をはじめテレビ出演は減少したままだ。この状況を変えるには、大きなチューンアップが必要だ。真栄田が続ける。

「M-1優勝のイメージを涙が出るくらい強くイメージできるようになったら、きっと、思った通りになる。死ぬ間際、2020年の自分にありがとうって言えるような年にしたいですね」

 背負った十字架は小さくない。だが、それを克服したとき、スリムクラブは2010年のような、いや、2010年を超える超強力なホワイトエンジンを手にする。

●なかむら・けい/1973年千葉県生まれ。同志社大学法学部卒。著書に『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』など。ナイツ・塙宣之の著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』の取材・執筆を担当。近著に『金足農業、燃ゆ』。

※週刊ポスト2020年3月13日号