「花、帰ってきて! 帰ってきて!!」。5月23日、街が寝静まっているはずの午前3時半、都内で絶叫が響き渡った。女子プロレスラーの木村花さんが、都内の自宅マンションの一室から緊急搬送されたのだ。叫び声の主は、花さんの「さようなら」といったSNSへの投稿から異変を察知して駆けつけた友人。その様子を、近隣住民が目撃していた。

「けたたましいサイレンが鳴り響き、救急車や消防車の無数のライトに周囲が照らされていて、夜なのに明るかった。火事にしては火が見えないと思っていたら、ピクリともしないピンク色の髪をした若い女の子が、救急隊員に抱きかかえられながら運ばれてきて、救急車の中で心臓マッサージをされていました。救急車が走り去ると、若い女の人が泣きながら叫んだんです。『花、帰ってきて!』と」

 しかし、花さんはその声に答えることができなかった。享年22。あまりにも早い旅立ちだった。

「自宅には、母親や知人らに向けた遺書のようなメモが残されていて、玄関のドアには、『硫化水素発生中』と貼り紙がありました。現場の状況から、自ら硫化水素を発生させて、中毒自殺を図ったものとみられています。硫化水素は第一発見者を巻き込むリスクがある。最期まで他人を気遣ったということでしょう」(社会部記者)

 女子プロレスラーとして、人気選手だった花さんは、昨年秋から一般にもよく知られる存在になっていた。人気番組『テラスハウス』(フジテレビ系)に出演していたからだ。

『テラスハウス』(以下テラハ)は、一つ屋根の下でシェア生活をする男女の恋愛模様を描いた“リアリティー番組”。2012年にフジテレビで番組が開始されるや、視聴者は共同生活の中での人間ドラマに熱中した。その後、舞台をネット配信のNetflixに移し、2018年には米『タイム』誌が発表した注目の番組にも選ばれた。昨年5月には、新シリーズがスタートし、花さんは途中から参加していた。

 女子プロレスラーとしての花さんは、ヒール役(悪役)として人気を集めていた。そのイメージのまま、リアリティー番組の中でも、強気で、まっすぐで、感情的。そうした振る舞いが放送されるたびに、SNS上には彼女を批判する言葉が並んだ。

 が、今回の不幸の引き金になったとされるのは“コスチューム事件”だった。

 花さんが「命の次に大切」と語っていた、リングで着るコスチュームが入ったままの洗濯機を、ほかの出演者が誤って使ってしまう。乾燥機にかけられ、コスチュームはよれよれに縮んで着られなくなってしまった。花さんは激怒し、共演者の帽子をはじき飛ばし罵声を浴びせた。

 その様子を見ていた視聴者が反発し、SNSに「テラハ史上いちばん最低なメンバーだと思いました」「花死ね」などと書き込み、乾燥機にかけた共演者が番組を去ることが決まると「そっちがいなくなれ」などとダメ押しが加わった。

「『テラハ』はフジテレビが制作しており、Netflixで配信された約1か月後にフジテレビ(地上波)でも放送されます。コスチューム事件が3月末にネット配信された時点で大炎上していましたが、5月18日に地上波でも同じ内容が放送されるとバッシングがエスカレート。翌日には未公開映像まで公開され、火に油を注ぐような格好になり、番組史上最大の誹謗中傷の嵐が巻き起こったのです」(テレビ局関係者)

 花さんは、3月末の炎上後から精神状態が不安定になり、リストカットをすることもあったというが、地上波放送直後にはインスタグラムで前向きなコメントをしていた。しかし、花さんの目に飛び込むのは、「いなくなれ」「早く消えろ」といった、闇へと足を引きずり込むような言葉ばかり。それからしばらくして、花さんは亡くなった。 花さんは1997年、インドネシア人の父と日本人の母の間に生まれた。しかし、生後3か月のときに父親は自国へ帰り、両親が離婚。同じく女子プロレスラーの母親は、女手一つで花さんを育ててきた。

 愛情を持って育てられた花さんは、母親譲りの身体能力を生かし中学校時代には、男子ばかりの柔道部に紅一点で所属し、黙々と練習に取り組んでいたという。

「テレビのキャラクターは作られたもので、本当の人間性とは全く違います」

 中学時代の同級生は、悔しそうにそう話す。明るく、怒ることなどなかった花さんは、どちらかといえばおとなしく、いじめられるようなこともあったという。

「彼女は、ペットにミニ豚を飼っていました。それで、男子から豚くさいとか、そんな悪口を言われていたことがありました。それでも言い返さず、聞こえないふりをして感情を押し殺していました」

 その後、母親と同じプロレスラーの道を選んだ。

「母親が殴られるのを見るのも嫌で、『自分はプロレスラーにならない』と、親の試合会場で言っていたくらい心優しい子でね。モラルもあって、礼を重んじていた。プロレスデビュー後はヒール役になったけど、演じていただけで、むしろ、年上に囲まれることが多かったからか、周りに気を使いながらも甘え上手でしたよ」(プロレス関係者)

 関係者から聞く花さんと、『テラハ』で大炎上する画面上の花さんのイメージは大きくかけ離れている。

※女性セブン2020年6月11日号