コロナ騒動により、落語界にも自粛の波が訪れた。そうした状況下での落語家の奮闘を、ノンフィクションライターの中村計氏がレポートする。その舞台はYouTubeだ。

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 コロナ流行下、落語界で話題をさらったのは「一之輔チャンネル」だ。春風亭一之輔は現在、42歳。この世代では人気、実力ともに随一の落語家だ。一之輔のユーチューブデビューは寄席が休館に入ったおよそ2週間後、4月17日だった。

「思いつきですよ。今日からやろう、と。仕事がなくなって、最初の一週間ぐらいはありがたかった。ぜんぜん休んでなかったので。ただ、だんだんと、自分でしゃべる場所をこさえないとダメだと思った」

 表向きは「やりたいからやる。芸人は自分さえよければいいんで」と嘯く。しかし、本音は「落語界のため」だ。

「コロナが収束したとして、そのあと、お客さんが戻ってきてくれるかどうか。落語なんて、まさに不要不急の娯楽ですから。忘れないでいてもらうためにも、こういう場が必要かなと」

 単なる思いつきの反響は、想像をはるかに超えた。4月と5月に連続10日間、生で寄席を配信したところ、連日1万人以上が視聴。無料から「投げ銭システム」に切り替えた初日も予想を上回る課金があった。

「ただで芸を見せることには怖さもあった。でも、大勢の人に見てもらうためにはタダがいちばん。でも書き込みで『払いたいです!』みたいのがあったんです。しめた、と(笑)。もちろん、僕が全部もらえるわけじゃないんですよ」

 生配信はアーカイブでも視聴できるため、再生回数は合計200万回を超えた。

「行き当たりばったりで生きてきて、ああ、今度は、こんなことになっちゃったと。コロナが流行したことで、演者としては、選択肢が増えました。生で観たほうが何百倍も楽しいと思いますけど、地方に住んでいたり、体が不自由だったりすると、全員がいつでも来れるわけでもないんで」

 6月1日、都内では一部の寄席が営業を再開した。入場者数を大幅に減らすなどコロナの影響はまだ残るが、一之輔も、約2か月ぶりに高座に上がった。

「噺が終わって、お辞儀をしたときの拍手が新鮮だった。そうそう、こういう感じで終わるんだって。やっぱりいいなと。客席には相変わらず怠惰な空気が流れてましたね〜。そんなところはホッとしました」

 ユーチューブでは変わる喜びを味わい、久々の寄席で変わらぬ喜びに浸った。

【春風亭一之輔チャンネル】登録者数:5.32万人
 4月21日から10日間、鈴本演芸場(東京・上野)でトリとして高座に上がる予定だった時間に合わせ、10日連続で生配信を実施。寄席の入門講座や演芸場探訪など、落語初心者に向けた動画を公開している。

※週刊ポスト2020年6月26日号